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萩・長門市

萩・長門市 山口県 櫓こぎ舟渡る維新の町

萩に残る最後の櫓こぎ舟「鶴江の渡し」。市道の一部なので乗船無料=山口県萩市で

萩に残る最後の櫓こぎ舟「鶴江の渡し」。市道の一部なので乗船無料=山口県萩市で

 荒波立つ日本海はすぐそば。海鳴りは聞こえるのに、河口にできた天然の良港の水面は、鏡のように穏やかだった。ここは山口県萩市。城下町・萩に唯一、藩政時代さながら櫓(ろ)こぎ舟の渡しが残っている。鶴江の渡しである。

 漁師町だった鶴江地区と北前船の寄港地として栄えた浜崎地区を行き来する、わずか82メートルの渡し。「ギシッ、ギシッ」と櫓こぎの音もゆかしく、舟は滑るように対岸に着いた。船頭の小池清さん(68)は「船賃は要らないよ。ここは市道の一部だから」と言うや、舟を操って対岸に戻っていった。

 浜崎は、毛利氏が開いた長州藩36万石の港町。萩の商いの中心地だった。江戸時代から明治、大正期の建築135棟が今も残る。地元の「浜崎しっちょる会」会長の梶原衛さん(70)は「萩城下で最初にできた町がこの浜崎」と胸を張る。「水産加工、醸造が盛んで、萩の台所でした」

 一時は寂れたが町おこしで復活。その一角に江戸初期に建てられたという御船倉がある。梶原さんの案内で中に入れてもらった。玄武岩を積んで三方を囲った高い石垣に、屋根がけした壮大な和製ドックだ。藩主専用の御座船や軍船を格納していた。全国唯一の遺構という。「土蔵みたいに音響がいいんです。コンサートも開いています」と梶原さん。

藩主の御座船を格納した御船倉=山口県萩市で

藩主の御座船を格納した御船倉=山口県萩市で

 萩は明治維新胎動の地。松下村塾を主宰した吉田松陰は、教育者として絶大な感化力を発揮し、その門下から高杉晋作、伊藤博文ら幕末、維新に活躍した多数の志士が出た。そのゆかりの地に、松陰愛用の硯(すずり)と肉筆の書簡とを神体に松陰神社が立つ。師弟がひざつき合わせた8畳の講義室は質素そのもの。上田俊成宮司は「松陰先生が松下村塾で教えた期間はわずか1年ながら、志士たちの決断力、行動力は間違いなくここで培われた」と話す。

 志士姿の一行が目に留まった。隊長の小池太一さん(60)ら城下町・萩の観光案内がてら雰囲気づくりに一役買う「萩まちじゅう観光パフォーマー」たちだ。男装の麗人ならぬ女性志士たちが、江戸時代の面影を残す城下町周辺をさっそう。気軽に観光客の写真撮影に応じてくれるのもうれしい。

 見どころの多い萩城下町の中でも「菊屋家住宅」は格別。重要文化財5棟の中に500点余の古美術品や古典籍が展示され、目が覚めるような古九谷の名品もあった。萩きっての御用商人の暮らしぶりがしのばれた。

 
山口県で最も古い歴史を持つ湯本温泉の市営公衆浴場=山口県長門市で

山口県で最も古い歴史を持つ湯本温泉の市営公衆浴場=山口県長門市で

 萩焼古陶展を開いていた県立萩美術館・浦上記念館を訪問。学芸員の徳留大輔さんが「古萩と呼ばれる初期の萩焼茶わんは容量の割に重量がある重厚な造りが特徴」と教えてくれた。

 翌日、長門市の長門湯本温泉にほど近い萩焼の窯元集落、深川(ふかわ)へ。ふらっと訪ねたにもかかわらず、陶芸家田原陶兵衛さんが親切に応対してくれた。萩焼は“七化け”。使い込むほど味わいが増す。いい味が出た茶わんで喫茶しつつ、しばし古陶談議。深川集落は緩やかな谷筋に続く閑静でわびた風情。萩焼の美に通じるたたずまいを感じた。

 長門湯本は藩主がたびたび湯治に訪れた名湯。清流音信川べりに市営公衆浴場「恩湯(おんとう)」がある。窯元歩きで体は冷え切っていたが、この地の人情に触れ、心も体もぬくもりに包まれていた。

 文・写真 長谷義隆

(2013年2月8日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
萩市へは山陽新幹線新山口駅前から中国JRバス・防長交通「はぎ号」が1日14便、同駅から70分余で東萩駅到着。
長門市の長門湯本温泉はJR美祢線長門湯本駅下車。

◆問い合わせ
萩市観光課=電0838(25)3139、
萩市観光協会=電0838(25)1750、
長門市観光課=電0837(23)1137

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萩まちじゅう観光パフォーマー

萩まちじゅう観光パフォーマー

★萩城城下町散歩
1604年に毛利輝元が萩城を築いて以来、260年間にわたって36万石の城下町として栄えた萩は、日本有数の史跡都市。
重厚な武家屋敷、夏ミカンがのぞく土塀やなまこ壁、鍵曲など、今なお城下町の風情が色濃く残る。
志士姿の「萩まちじゅう観光パフォーマー」が観光案内がてら、温かく出迎えてくれる。

★高杉晋作のゆかりの地
長州藩の倒幕の旗手だった晋作が「奇兵隊」を結成して、ことし6月に150年を迎える。
萩にはゆかりの品を展示する萩博物館、生誕地、立志像、松下村塾などが点在する。

★長門市の観光スポット
音信川の両岸に広がる長門湯本温泉街に、懐かしさが漂う市営公衆浴場「恩湯」がある。
萩焼深川窯は長州藩御用焼物師の主力が萩から移住して350年余、由緒と伝統を持つ。
足を延ばせば、512編の詩を残しわずか26歳で亡くなった童謡詩人金子みすゞの記念館=電0837(26)5155=も。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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