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宇和島市

宇和島市 愛媛県 耕して天に至る「段畑」

急斜面にへばりつくように作られた段畑。4月の収穫を前に青々とした葉が茂るジャガイモ

急斜面にへばりつくように作られた段畑。4月の収穫を前に青々とした葉が茂るジャガイモ

  四国の南西部、愛媛県宇和島市の岬。美しいリアス式海岸の入り江には、天と地と海のはざまに生きる人たちの気の遠くなるような積み重ねで築かれた「段畑」と呼ばれる奇跡の段々畑が広がっていた。

 JR宇和島駅は、松山市方面からのJR予讃線と高知市方面からの予土線の終着駅。「♪汽笛一声新橋を・・・」で知られる鉄道唱歌を作詞した明治の文学者、大和田建樹(1857~1910年)の古里と聞けば旅情が募る。

 市中心部の断崖絶壁の岩山に、城造りの名手とうたわれた藤堂高虎(1556~1630年)が400年前に築城した宇和島城がそびえていた。仙台藩主伊達政宗の長男秀宗が開いた伊予宇和島藩時代、城は均整の取れた三重三層の天守に。案内してくれたボランティアガイドの三好尚文さん(67)と高橋叡(さとし)さん(67)は「小柄やけど男前の城」と誇らしげだ。

 伊達10万石のシンボル宇和島城に見送られ、ジグソーパズルのように複雑な入り江を車で走る。「宇和島港から高速船だと20分ぐらい」と、三好さんがいう宇和海に突き出た三浦半島の遊子水荷浦(ゆすみずがうら)地区。陸路で40分かけてたどり着いた。

 
目の前の宇和海から引き上げたアコヤガイから真珠を取り出す土居京子さん

目の前の宇和海から引き上げたアコヤガイから真珠を取り出す土居京子さん

 海岸と断崖絶壁の間のわずかな空間に、40戸足らずの家屋が肩を寄せる半農半漁の村。背後に迫るびょうぶ岩のような石壁が目に飛び込んできた。巨大なダムやピラミッドのようにも見えるが、30~40度の急勾配に整然と築かれた段畑だ。人が抱えられるくらいの山と海の石を積み上げた石垣一段の高さは1~2メートル。驚異的な人の業は集落の両端まで400メートルにわたり、頂上まで50段以上。まさに「耕して天に至る」の形容がぴったりくる。

 江戸時代初め、3大イワシ網漁場に数えられた宇和海沿岸には、新たな漁村が相次いでできた。その一つだった遊子水荷浦。少ない耕地を補うため、山の斜面を開墾したのが段畑の始まりという。

 かつては雑穀やサツマイモを作ったが、今は霜害がなく温暖な南斜面で他産地より1カ月早く出荷できる「早掘りジャガイモ」を栽培する。てんびん棒で登り80キロ、下り100キロの肥料やジャガイモを担ぎ、多いときで1日10往復もした斜面には、原動機付きの小型モノレールが引かれ活躍するが、水まきは今も自然任せだ。

 NPO法人段畑を守ろう会理事長の山下憲穂さん(67)の後について段畑のてっぺんに登った。畑の幅はわずか1メートル前後。集落をほぼ垂直下に見ると足がすくんだ。上まで登ってきた観光客の中にはあまりの険しさに身動きできなくなる人もおり、「おんぶをして下りることも珍しくない」と山下さん。年1回の収穫(約40トン)を4月に控え、緑色の帯が幾重にも斜面に張り付く畑には、青々とした葉が茂っていた。

 宇和島産真珠の養殖が盛んな三浦地区を訪ねた。この道40年の土居京子さん(65)が、真珠のもとになる核(ドブガイ)を手早くアコヤガイに入れた後、養殖いかだから引き上げたアコヤガイから真珠を取り出す熟練の技をみせてくれた。海の宝石をはぐくむ宇和海は、真珠のゆりかごである。

手塩にかけた「河内晩柑」の育ち具合をみる土山一夫さん=いずれも愛媛県宇和島市で

手塩にかけた「河内晩柑」の育ち具合をみる土山一夫さん=いずれも愛媛県宇和島市で

 宇和島は200年以上の歴史を持つミカンの産地。予讃線の立間駅や伊予吉田駅からは、昭和50年代初めまでミカン列車が走った。温州ミカンなど50種類余りを栽培しながら、ボランティアガイドも務める土山一夫さん(58)のひと言が心に残る。「何事にも挑戦する宇和島は、伊達なつわものぞろいです」

 文・写真 奥田啓二

(2013年3月1日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
羽田空港と中部国際空港から松山空港への定期便があり約1時間20分と約1時間。
松山空港から宇和島市へは松山自動車道経由で1時間10分。
列車はJR岡山駅から松山経由の予讃線特急で4時間10分前後。

◆問い合わせ
宇和島市観光協会=電0895(22)3934、NPO法人段畑を守ろう会(だんだん茶屋内)
=電0895(62)0091。HPはこちら

おすすめ

だんだん茶屋のなます

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★宇和島ミカン
ミカンどころ愛媛県を代表する産地。うわじま虹色ツーリズムみかん部会が力を入れるのは、
温州ミカンやポンカン、伊予柑など季節の品種を数種類入れて届ける通販。
1ケース(約8キロ入り)3000円(送料込み)。注文、問い合わせは同部会=電0895(52)2743。

★だんだん茶屋
段畑前のレストラン。メニューは宇和海育ちのタイを使ったピチピチ丼(800円)、
おまかせ定食(700円)、大漁御膳(1500円)など。事前予約で野菜や魚中心のメニューも用意。
段畑産ジャガイモの煮物やなますも味わえる。
店内ではフルーティーな味わいで女性に人気のジャガイモ焼酎「段酌」(720ミリリットル、1500円)も販売。午前11時~午後3時(食事は午後2時まで)。
土日祝日営業。電0895(62)0091

★じゃこ天
宇和海産ハランボ(ホタルジャコ)などの小魚を骨ごと皮付きのまますり身にし、
衣を付けずに油で揚げたもの。初代宇和島藩主伊達秀宗が仙台から職人を連れて来て
かまぼこを作らせたのが始まりとも伝えられ、市内には30軒を超えるかまぼこ店がある。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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