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中津市

中津市 大分県 洞門、官兵衛伝説息づく

宇都宮氏の家臣が討たれた合元寺。別名「赤壁寺」とも

宇都宮氏の家臣が討たれた合元寺。別名「赤壁寺」とも

 大分県中津市のJR中津駅、中津城、福沢諭吉の旧居跡・・・。どこに行っても「軍師 官兵衛」と書かれたのぼり旗がはためいている。

 来年のNHKの大河ドラマは、豊臣秀吉の参謀を務め、竹中半兵衛とともに「両兵衛」と称された黒田官兵衛孝高(よしたか)(後の如水)が主人公。V6の岡田准一さんが官兵衛役に決まっている。九州平定後、中津城を築いたゆかりの深い地だけに、官兵衛の前では目下、諭吉翁の威光さえかすみがちだ。

 司馬遼太郎の長編小説「播磨灘物語」では、いち早く織田信長の力量を認め、信長の死に際しては秀吉を鼓舞し明智光秀を討たせた官兵衛の炯眼(けいがん)が強調されている。知将の印象が強いが、同市寺町にある合元寺には、そのイメージが一気に揺らいでしまう逸話が残っていた。

 寺院の白壁が連なる中で、ひときわ目立つ寺の赤壁。秀吉に恭順の意を示さない地元の豪族宇都宮氏の家臣たちが、官兵衛の命でこの寺で皆殺しにされた。壁に付いた鮮血がいくら壁を白く塗り替えてもにじみ出てしまうので、壁全体を赤く塗ることにしたという。

 合元寺から諭吉翁の旧居までわずかな距離。近所のおいなりさんのご神体を道端の石と取り換えて「神罰などない」と証明しようとするほど、迷信のたぐいを嫌ったという幼少時の諭吉は、赤壁にまつわる伝説をどう受け止めていたのだろう。

山国川沿いにある青の洞門。禅海和尚の不屈の精神が生んだと伝わる

山国川沿いにある青の洞門。禅海和尚の不屈の精神が生んだと伝わる

 奇岩の連なりが渓谷美を織りなす市南部の耶馬渓にも、伝説が息づいていた。菊池寛が小説「恩讐(おんしゅう)の彼方(かなた)に」で取り上げた禅海和尚の物語だ。江戸時代、旅人が険しい崖に難儀するのを見かねた和尚が、30年かけて掘り進め、ついに開通させた隧道(すいどう)「青の洞門」。開通の歓喜の瞬間を描く菊池の筆は弾む。「『おう!』と全身を顫(ふる)わせるような名状しがたい叫声を挙(あ)げたかと思うと、それにつづいて狂したかと思われるような泣笑が、洞窟を物凄(ものすご)く動めかしたのである」

 諭吉翁も禅海和尚の逸話はお気に入りだったらしく、1894(明治27)年、青の洞門周辺の土地が売りに出ていると聞いた翁は、景観が損なわれないようにと土地の買い上げを進めたという。これが日本におけるナショナルトラスト運動の先駆けだ。

喜怒哀楽あらゆる表情が見つかる羅漢寺の五百羅漢

喜怒哀楽あらゆる表情が見つかる羅漢寺の五百羅漢=いずれも大分県中津市で

 洞門には旧道の一部が残されていて、手掘りの跡を間近に眺めることもできる。しかし、訪ねる人はごくわずか。ツーリングを楽しむオートバイや車が春の日差しに車体を輝かせながら禅海和尚の像の脇を軽やかに走りすぎていく。

 禅海和尚が使った木づち、のみ、托鉢(たくはつ)の鈴などが残されているという羅漢寺を訪ねてみた。さまざまな表情をした五百羅漢を眺めていると「無名の禅海和尚がたくさんいたおかげで、われわれはいろんな所へ出掛けられる」という感慨がひしと胸に迫ってきた。

 和尚の托鉢の鈴を手に取って軽く振ってみる。「凜(りん)」とひときわ澄んだ音が鳴りだした。

 文・写真 中山敬三

(2013年3月15日 夕刊)

メモ

◆交通
羽田空港から大分空港までは約105分。名古屋空港からは80分。大分空港から中津市へはバスで約90分。

◆問い合わせ
中津耶馬渓観光協会=電0979(64)6565、中津耶馬渓観光案内所=電0979(23)4511

おすすめ

宇佐神宮

★中津城
1588年築城開始。同年、合元寺で家来約300人を殺された前領主の宇都宮鎮房は、この城内で討たれた。官兵衛は翌89年、家督を息子長政に譲り如水を名乗る。官兵衛が築いた石垣が現存している。

★福沢諭吉旧居・記念館
福沢諭吉が長崎に遊学するまでの幼少期を過ごした家と諭吉自身が改造して2階を勉強部屋にした土蔵を展示。隣接する記念館には彼が著した書物などが保存、展示されている。

★からあげの聖地
市内各所に鶏のからあげ専門店があり、地域の行事に欠かせない市民のソウルフードとなっている。2010年、「聖地 中津からあげの会」が発足、味の向上に取り組んでいる。

★宇佐神宮
西隣の宇佐市に全国八幡宮の総本宮「宇佐神宮」がある。神仏習合発祥の地といわれ、国宝の本殿のほか、EXILEのメンバーがヒット祈願した樹齢約800年のクスノキなど数々のパワースポットが広い境内に点在している。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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