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奥出雲町

奥出雲町 島根県 神剣の里、栄えた製鉄

「草薙剣」ゆかりの地から毎年、「熱田神宮献穀田」の収穫米が奉納されている=島根県奥出雲町で

「草薙剣」ゆかりの地から毎年、「熱田神宮献穀田」の収穫米が奉納されている=島根県奥出雲町で

 天空からのエスカレーターのような光の筋が、雲間から差し込んできた。中国山地に広がる島根県奥出雲町。ここを源流域に宍道湖に注ぐ斐伊(ひい)川の流域には、出雲神話で有名なヤマタノオロチ伝説ゆかりの地が点在している。

 オロチを退治した荒ぶる神、須佐之男命(すさのおのみこと)が降臨したという船通(せんつう)山を眺めていると、雲がむくむくわいて神秘的な雲と光のショーを展開。神話の里に立っている思いを深くする。

 そのふもとに広がる棚田の一角。「あれが熱田神宮献穀田ですよ。記念碑が立っているでしょう」。奥出雲町「神話とたたらの里推進室」室長の尾方豊さんが指さした。退治されたオロチの尾から、天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)が出てきたという。この剣は後にヤマトタケルの東征の折の伝説から「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」とよばれ、名古屋市の熱田神宮にまつられている。今年はその創祀(そうし)1900年の年でもある。

 「住民が毎年、熱田さんに詣で、収穫米を奉納している」。そう聞いたのは前夜、船通山登山口にある温泉宿の露天風呂でだった。「へえ、名古屋から来たの」。温泉につかりながら地元男性が話してくれた。剣の取り持つ縁が今も続いているとは。風呂上がり「男性からの差し入れ」と生ビールが出てきて、2度びっくりした。

 
ふいごを動かし炎を上げる鍛冶工房の小藤洋也さん=同県安来市で

ふいごを動かし炎を上げる鍛冶工房の小藤洋也さん=同県安来市で

 その昔、たびたび氾濫して人々を困らせた斐伊川とその支流をヤマタノオロチに例え、その治水事業をオロチ退治と考える説や、須佐之男命がオロチ退治をして剣を得たことから、奥出雲地方の「たたら製鉄」集団と大和との抗争を暗示する神話ではないかとする説など、解釈はさまざま。興味が募る。

 たたら製鉄は中国山地で行われてきた日本古来の製鉄法。ふいごと呼ばれる送風装置を使って木炭を燃やし、その熱で砂鉄を溶かして鉄を得る。起源は6世紀ごろまでさかのぼるという。「中国山地の豊富な砂鉄と森林資源が良質な和鉄となって、古代から近代までわが国の暮らしや産業を支えてきた」と尾方さん。

 奥出雲町と同県安来、雲南両市の中山間地には、見事な棚田が広がる。江戸時代、松江藩が豪農でもある御用鉄師に利権を独占させて推し進めた「農鉱一体」経営の産物だ。山林を伐採し山を崩して砂鉄を採取した跡地を水田、畑に造成。「18万6000石の松江藩は約10万石も石高が増えた」と鉄師ご三家の子孫である絲原(いとはら)安博さんが教えてくれた。

 絲原家は「日本の棚田百選」にも選ばれた奥出雲町の大原新田を開発した豪農鉄師。記念館として公開されている屋敷内を流れる清流は、製鉄の炎を盛んに上げていた大正末期まで、水力でふいごを動かす水路だった。

絲原家の緑の木立の中を流れる清流は、たたら製鉄のふいごを動かす水力に利用された=島根県奥出雲町で

絲原家の緑の木立の中を流れる清流は、たたら製鉄のふいごを動かす水力に利用された=島根県奥出雲町で

 茶人大名として名高い藩主の松平不昧(ふまい)は領内視察を兼ねて絲原家など鉄師屋敷を何度も訪問。その際の殿への「寸志献上金」が、名物茶器収集の原資となったと聞いて、かの「雲州蔵帳」のなぞの一端が解けた。

 和鉄の積み出し港として栄えた安来市には、10代続く鍛冶職人が健在だ。主(あるじ)の小藤洋也さん(71)は「江戸時代にはくわやかまなどの農機具や刀剣、戦前・戦中は軍刀を扱ってきたが、今は鉄の燭台(しょくだい)、あんどんなど鍛造工芸が中心」と話す。赤々と燃える炭にふいごで空気を送り込むと炉から火の粉が舞い上がった。

 文・写真 長谷義隆

(2013年5月10日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
奥出雲町のJRの玄関口は木次線・出雲横田駅。車だと松江市から約1時間。
安来市から入るルートとも道路はよく整備されている。

◆問い合わせ
奥出雲町教育委員会社会教育課=電0854(52)2680、
安来市商工観光課=電0854(23)3340

おすすめ

足立美術館=安来市古川町

足立美術館=安来市古川町

★足立美術館と月山富田城跡
日本画と日本庭園の美を堪能できる足立美術館(安来市古川町)は、
米国の日本庭園専門誌の「日本庭園ランキング」で10年連続1位、
フランスのミシュランがつくる旅行ガイドでも最高評価の三つ星がつく観光名所。
月山富田城(同市広瀬町)は戦国時代の山陰の覇者、尼子氏6代の盛衰の舞台となったことで有名な山城。近年整備されハイキングも楽しめる。

★鉄の道文化圏
安来、雲南、奥出雲の2市1町が共同で推進する誘客プロジェクト。
安来市の「和鋼博物館」から製鉄の神をまつる「金屋子神社」へ参拝、
たたら製鉄で栄えた雲南市吉田町の町並み、鉄師ご三家の田部家土蔵群、
桜井家、絲原家など、今なお往時の面影を残す「鉄と神話の道」を巡るコース。
(問)鉄の道文化圏推進協議会事務局=電0854(54)2524

★奥出雲たたらと刀剣館
奥出雲町を一望できる「むらくもの丘」に立つ資料館。船通山をにらむように立つ斬新なヤマタノオロチのモニュメントが目を引く。
たたら製鉄の歴史や仕組み、日本刀を鍛える過程を分かりやすく展示。たたらの炉とその地下構造の実物大模型は圧巻。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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