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九十九湾・海床会席料理

九十九湾・海床会席料理 石川県 海上で能登の恵み堪能

旬の地元の食材を生かした海床での会席料理=石川県能登町の九十九湾・百楽荘で

旬の地元の食材を生かした海床での会席料理=石川県能登町の九十九湾・百楽荘で

 穏やかな海だった。時折、遊覧船が通ると、小さい波が打ち寄せるだけ。潮の満ち引きのない時間帯には、海面が鏡のようになり、周囲の山々を映し出していた。そんな入り江だからこそできる食の演出があった。それは浮桟橋の上の、東屋(あずまや)でいただく、川床ならぬ海床(うみどこ)での会席料理。能登半島の先端・禄剛崎より、やや手前の石川県能登町の九十九(つくも)湾を訪ね、旬の海鮮料理を味わった。

 九十九湾は、大小の入り江が12キロ余りにわたって続くリアス式海岸。富山湾に通じる湾口が300メートル余りしかないこともあり、四季を通じて波静か。湾に面する和風旅館「百楽荘」では、海に10メートルほどせり出した海床の離れ食事所で、5月から9月にかけて魚介を中心にした会席料理を提供している。

 この日のメニューも豪華だった。お造りのオコゼは「俺を食らうのか」と言わんばかりの形相。炭火焼きにするアワビは、皿の上で身をよじらせ、脱出を試みていた。ひとくちでは食べられないほど大ぶりの岩ガキも。有名旅館や料亭で修業してきた料理長の坂本光隆さん(32)は「世界農業遺産になった“能登の里山里海”の食材をできるだけ使うようにしています。海床からのロケーションがいいので、料理には四季の草花を添え、五感で味わっていただけるよう、心がけています」

波静かな九十九湾に浮かぶ蓬莱島=石川県能登町で

波静かな九十九湾に浮かぶ蓬莱島=石川県能登町で

 日本百景の1つにも数えられる九十九湾は、文人墨客からも愛された。1934(昭和9)年には詩人の野口雨情が訪れ、「水の青さよ 九十九の湾(うみ)は 鷺(さぎ)も姿をうつし見る」の句を、50年代に漁船で周遊した劇作家菊田一夫は「能登の春 椿(つばき)は赤く 海青く」の句を残している。70年代には岡本太郎も訪れ、「九十九湾 百楽荘の味」と色紙にしたためた。

 立山連峰も望める海辺での食事は、何ともぜいたく。30度近くまで気温が上がり、汗ばむほどだったが、東屋には、海面から涼しい風が流れ込み、いつの間にか汗が引いていた。

 夜になると海床辺りの様相は一変する。水中ライトの明かりに引き寄せられ、スズキやクロダイ、クラゲなどが集まり、水族館にいるような感覚。イワシの稚魚の群れはキラキラと輝き、線香花火を見ているようだった。埼玉県越谷市から来たというリピーターの女性は「海の上での食事は、なかなかできませんからね。これは、お裾分け」と食事の残りをデッキのテーブルへ。すると、餌づけをしているかのように、すかさずカラスがやってきて、くわえ去った。

 
廃線になった鉄道の線路を利用した「奥のとトロッコ鉄道」=石川県能登町で

廃線になった鉄道の線路を利用した「奥のとトロッコ鉄道」=石川県能登町で

 能登半島の九十九湾側では、国鉄から第三セクター「のと鉄道」(石川県穴水町)に移管された能登線が、2005年まで運行されていた。その線路を利用した地域振興事業「奥のとトロッコ鉄道」が、ことし4月から能登町と同県珠洲市間で営業を始めた。電動アシスト付きの足こぎ式トロッコ(8人乗り)を旧恋路駅から旧宗玄トンネルまでの約270メートル区間で走らせている。

 地元の酒造会社を定年退職後、現場で運行を管理している出村俊明さん(65)は「始めたばかりなので、まだ利用者は少なめ。近くには、観光地がたくさんあるので、一度、乗ってみてください」とPR。珠洲市から小学生の娘と来ていた女性は「中学、高校時代に乗っていた鉄道なので駅を見ると懐かしくなります」と楽しそうだった。

 ウグイスの鳴き声で目覚め、自然に癒やされ、旬の料理を堪能。帰り際には百楽荘の二代目おかみ、浅井園子さん(65)が、「また来てくださんしねー(くださいね)」とやわらかい響きの能登弁で見送ってくれた。まさに「能登はやさしや土までも」を体感する旅となった。

 文・写真 富永賢治

(2013年6月21日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
能登町の九十九湾へは名古屋からJR特急で金沢まで約3時間、金沢からレンタカーで約2時間。羽田空港からは能登空港まで約1時間、空港発のふるさとタクシーで約30分。

◆百楽荘・海床会席料理
季節や部屋によって異なるが、平日2人利用で1人2万1250円から。電0768(74)1115

◆問い合わせ
能登町ふるさと振興課=電0768(62)8532

おすすめ

かに丼
かに丼

★九十九湾海中公園観光船・上野
午前8時から午後4時半まで30分ごとに運航。1、2月を除き無休。料金は中学生以上1000円、子ども(3歳以上)500円。電0768(74)1540、電090(3290)0110

★奥のとトロッコ鉄道
営業時間は午前9時から午後5時。事前予約が必要で大人500円、小学生以下300円。雨天時は休み。電080(8698)2559

★能登丼
新鮮な地元食材にこだわって調理。店ごとに内容が異なり約60種類、価格は700円程度から。能登町宇出津新の焼き肉・居酒屋「あさひ」では、かに丼(1400円)を7、8月を除いて提供。電0768(62)3291

★真脇遺跡縄文館
能登町真脇にある北陸最大級の縄文遺跡で国史跡の真脇遺跡を紹介。復元された環状木柱列はパワースポットとしても人気がある。月、火曜定休だが、いずれかが祝日の場合は水曜休み。入館料は大人300円、小中高校生150円。午前9時から午後5時。電0768(62)4800

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