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馬瀬川

馬瀬川 岐阜県下呂市 極上アユはぐくむ清流

清らかな馬瀬川から釣り上げられたアユ

清らかな馬瀬川から釣り上げられたアユ

 「アユの山里」と呼ばれる岐阜県下呂市の馬瀬地区が最も輝く季節になった。標高500メートル前後の山あいを流れる馬瀬川。上流の約30キロ区間には、ダムもなく民家も少ない。ブナやミズナラが茂る山々と清流が、極上の、おいしいアユをはぐくむ。川沿いの道から川辺に下ると、心地よい瀬音が響いていた。

 流れの中にぽつんと立つ釣り人がいた。しばらくするとさおがしなり、20センチ近いアユがたもに収まった。魚を手にとらせてもらうと、横腹の辺りが黄色に輝いた。そして、アユ特有のスイカのような香りが鼻をくすぐった。

 地元で友釣りの名手と呼ばれる島田岩男さん(64)=下呂市=は、30年近く馬瀬川に通っているといい、「全国のどこにも負けないおいしさ」と胸を張る。川岸の岩の上から川をのぞくと、はっきり底が見通せた。底石に付いたコケ(藻類)を食べるアユの魚影も間近に眺められる。河原に下りると、涼みながら釣りの様子が楽しめる木陰が至る所にあった。

馬瀬川で上がった香り高いアユ

馬瀬川で上がった香り高いアユ

 馬瀬川のアユは、良質なコケのおかげで背中が盛り上がるほど成長し、香り高いのが特徴。戦前から峠を越えて近くの下呂温泉へ、高級食材として運ばれた。1955年ごろから、村を挙げて釣り人の誘致に力を入れると、良質なアユの評判は瞬く間に全国へと広がった。井伏鱒二など、この川を愛した文人や著名人も多い。

 のんびりたたずんでいると草むらから、年配の男性が現れた。夏になると、このポイントで友釣りをするのが日課だという。「今でも、ここのアユはいいけれど、昔の馬瀬アユはもっと良かった」とつぶやいた。赤く色づいた名産のトマトをほおばりながら、話に耳を傾けた。

 2007年、馬瀬川は「全国利き鮎(あゆ)会スペシャル」でグランプリを獲得。過去に優勝もしくは準優勝した川ばかりを集めた味比べコンテストで、同じ岐阜県の長良川や高知県の四万十川といった名川を抑えての受賞だった。評判のアユは毎年、皇室にも献上されている。地元の漁協では、このアユをブランド化して、販売も手掛けている。漁協組合長の老田達男さん(66)は「アユを生かし、再び馬瀬に活気を呼び起こしたい」と夢を語る。

 
馬瀬川天然アユの塩焼き=いずれも岐阜県下呂市馬瀬で

馬瀬川天然アユの塩焼き=いずれも岐阜県下呂市馬瀬で

 川辺の散策を楽しみ旅館に戻ると、夕食に馬瀬川の天然アユの塩焼きが登場した。まだ若アユだが、身は香ばしく、こくがあった。赤みを帯びたはらわたには、ほのかな苦みがあり、清流の香りが口の中に広がった。宿泊した丸八旅館のおかみ洞千賀子さんによると「これから、どんどんコケを食べて、もっとジューシーな味になる」という。

 アユを誇りにしている馬瀬地区では、天然のアユ料理にこだわった宿が多い。料理店だけでなく喫茶店でも、天然アユの塩焼きを提供しているほどだ。宿によっては刺し身や天ぷら、雑炊などが付くフルコース料理も堪能できる。さらに、昔ながらの火ぶり漁やヤナの復活など、アユの山里再生に向けた取り組みも始まっている。

 アユは川が持つ力のバロメーターともいわれる。アユ釣りでにぎわう川は多いが、自然環境に恵まれた馬瀬川には別格の感がある。友釣りに造詣が深く、馬瀬川を全国に紹介した今は亡き著名人は「馬瀬は滅びゆくアユ川の中では、最後まで名川として残るであろう」と語っている。

 文・写真 柳沢研二

(2013年7月19日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
馬瀬地区へは名古屋からJR高山線で飛騨萩原駅まで約2時間、濃飛バスに乗り換え約30分。車だと中央道・中津川ICから約1時間半。

◆問い合わせ
南飛騨馬瀬川観光協会=電0576(47)2333、馬瀬川上流漁協=電0576(47)2434

おすすめ

さんまぜ工房

さんまぜ工房

★さんまぜ工房
馬瀬西村の道の駅「馬瀬美輝の里」にある。
地元の女性たちが作ったパンやジャムなどの特産物が並ぶ。
午前9時~午後4時。電0576(47)2133

★清流馬瀬川観光ヤナ
今年は川床が新設されたほか、アユ料理が味わえるようになった。
馬瀬川の天然アユのみを提供している。
アユづくし定食3000円、アユの塩焼き1000円。夜は要予約。
ヤナ漁は8月20日から。電0576(47)2002

★清流馬瀬川火ぶり漁
馬瀬西村の水辺の館周辺で開催。
8月18、25日、9月1、8、16、23、29日の、いずれも午後7時半~8時半。
入場無料。馬瀬総合観光=電0576(47)2641

★天領朝市
馬瀬地区に近い下呂市萩原本町商店街で毎週金曜日に開かれている。
アマゴの甘露煮や新鮮野菜などが並ぶ。午前9時~11時半。
萩原町商工会=電0576(52)2500

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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