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檜枝岐村

檜枝岐村 福島県 歌舞伎息づく山人の里

はさみのお供えが絶えない「橋場のばんば」

はさみのお供えが絶えない「橋場のばんば」

 夏になれば、尾瀬に行こう-。福島県側からの尾瀬の玄関口、檜枝岐(ひのえまた)村の沼山峠から尾瀬沼を目指すコースを選んだ。花咲く湿原、雪を頂く山々。そんな景色が、1時間も歩けば見られるはずだ。檜枝岐村は平家の落人伝説が伝わる山里。尾瀬だけではもったいない。村も散策しよう。

 檜枝岐といえばまず、江戸時代から続く檜枝岐歌舞伎が有名。その舞台がある鎮守神社に足を運んだ。

 参道に女性の石像である「橋場のばんば」があった。「笑っている顔は前歯が1本欠け、ボインもだらりと垂れ、愛嬌(あいきょう)のある石仏・・・」というユーモラスな説明が笑いを誘う。

 悪縁を切りたいときは切れるはさみを、良縁はさびた切れないはさみを、ばんばに供えればよいとの言い伝えがあり、多数のはさみが供えられていた。

 鎮守神社に入ると、国の重要有形民俗文化財に指定されている舞殿(舞台)があった。一座はすべて村人で、役者は世襲。衣装は手作りとはいえ、絹だ。

鎮守神社の境内にある舞殿(舞台)。国の文化財に指定されている

鎮守神社の境内にある舞殿(舞台)。国の文化財に指定されている

 歌舞伎伝承館「千葉之家」に寄った。1枚のポスターが目を引く。おしろいを塗り、歌舞伎の衣装を着た美しい女性が赤ん坊を抱いている。旧国鉄の「ディスカバー・ジャパン」キャンペーンで使われた。同村企画観光課の星睦彦さんに「歌舞伎なのに女優がいるんですか」と尋ねたら「人口が少ないので、江戸時代から特別に認められていた」と教えてくれた。

 夕食は役場近くの旅館「そばの宿丸屋」で山人料理を食べた。山人は「やもうど」と読む。山に入って木工品を作ったり、猟をしたりする男たちの呼び名だ。料理は、フキと赤キノコの炒め煮、そば田楽、裁(た)ちそば、はっとう・・・。ヘルシーでおいしい。

 星さんの説明が興味深い。

 「村は標高が900メートルを超え、米ができない。主食はそばなどの雑穀だった。昔、村人のほとんどは林業で、歌舞伎の上演は5月と8月。5月は雪が解けて男たちが山に入る時、8月はお盆で帰ってきた男たちが再び、山に入る時。歌舞伎も、山人料理も、大切な人の無事を祈って送り出す、特別なものなんです」

 
白いワタスゲが目立つ大江湿原。後方に尾瀬沼が見える=いずれも福島県檜枝岐村で

白いワタスゲが目立つ大江湿原。後方に尾瀬沼が見える=いずれも福島県檜枝岐村で

 翌日、尾瀬沼へ。バスで御池駐車場へ行き、シャトルバスに乗り換えて沼山峠登山口へ。最初は上りだ。木の階段を上るうちに汗が噴き出した。峠の展望台で小休止する。木の間から尾瀬沼の水面が輝いているのがわずかに見えた。

 林を抜け、大江湿原に出た。ワタスゲが一面に広がり、木道が続く。「オゼー」と叫びたくなるようだ。そろいの水色のジャージー姿で歩いてきた、さいたま市の中学生たちが「こんにちはー」とあいさつしていった。疲れが癒やされ、さわやかな気分になった。

 湿原を抜けると、尾瀬沼のほとりだ。群馬県側まで歩いて行くこともできるが、沼のほとりの長蔵小屋でコーヒーを飲んで満足した。このあたりも市町村区画でいうと檜枝岐村である。

 村で出会った福島県白河市の高橋和子さん(64)は「この村が好きで何度も来ている」と言っていた。檜枝岐村への観光客はリピーターが5割を超えているという。

 人口600人ほどの村。貧しい村なのか、豊かな村なのか。歩くほど、話を聞くほど、分からなくなってきた。それが尾瀬の自然と並ぶ、村の魅力である。

 文・写真 井上能行

(2013年7月26日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
檜枝岐村へは会津鉄道・会津高原尾瀬口駅で下車、バスに乗り換えて約60分。
村の中心から尾瀬の入り口、沼山峠まではバスを乗り継ぐ。
車の場合は、東北自動車道・西那須野塩原ICを降り、国道を約100キロ。

◆問い合わせ
尾瀬檜枝岐温泉観光協会=電0241(75)2432。

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★ミニ尾瀬公園
尾瀬湿原、ロックガーデン、山里山野草の3エリアに分かれ、
100種100万株の花がある。バリアフリー。営業は4月下旬~11月下旬。
午前8時~午後5時(入園4時半まで)。
入園料大人500円(8月まで)、9月からは200円。
園内に尾瀬をうたった「夏の思い出」の詩碑がある。所在地は檜枝岐村左通。

★裁ちそば
檜枝岐村の名物。2ミリほどの厚さにのばしたそばを何枚か重ね、布地を裁つように切ることから名が付いた。
薬味にシソの実漬けを使う。

★はっとう
そば粉ともち米を練ってのばし、ひし形に切ったものをゆでて、じゅうねん(えごま)やきな粉につけて食べる。
あまりのおいしさに村人が食べることが「ご法度」になったのが名の由来とされる。

★真夏の雪まつり
8月の第1土曜、日曜日(今年は3、4日)に尾瀬檜枝岐温泉スキー場で。
保冷シートで保存した雪を使って、雪上運動会、雪上花火大会などがある。

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