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硫黄島

硫黄島 鹿児島県 大波砕ける荒磯の秘湯

港内の海水は、鉄分のさびで赤く変色していた

港内の海水は、鉄分のさびで赤く変色していた

 異世界へ迷い込んだかのような真っ赤な海面。港では島民が横断幕を広げ、力強い原始的なリズムの太鼓で出迎えてくれた。鹿児島港から3時間半の船旅で見舞われた船酔いをさますには十分なインパクトだ。

 薩南諸島の北部に位置し、12平方キロに100人ほどが暮らす鹿児島県三島村の硫黄島は、島の東半分を占める硫黄岳(703メートル)が噴煙を上げ活発に活動する。その影響で、港には鉄分を含んだ鉱泉が流れ込み、独特の色合いを見せる。高台の永良部崎、通称・恋人岬から港を見渡すと、赤と青の海の対比がまぶしい。九州大大学院生の蓑和雄人(みのわゆうと)さん(24)は「潮の流れによっていろんな色、模様を見せるので興味が尽きません」と話す。地質の研究調査のため、年に何度か2~3週間ほど滞在するという。

 島民たちが港でたたいていた太鼓はジャンベという西アフリカ発祥の民族楽器。1本の木をくりぬき、ヤギの皮を張った簡単な構造。主に両脚に挟んで演奏する。「ドン」という野太い音から「カン」という鼓のような甲高い音も出る。

西アフリカ発祥の太鼓ジャンベを演奏する島民たち

西アフリカ発祥の太鼓ジャンベを演奏する島民たち

 2004年に村おこしとしてジャンベスクールを開校して以降、ジャンベ留学生を受け入れたり、学校活動に取り入れたり、観光客に演奏を披露したりと、島を代表する文化に定着しつつある。ジャンベ留学の1期生で島に移住した横山毅さん(39)は「人と人をつないでくれる楽器。情熱的だったり、内に秘めたたたき方だったり、その人の生きてきた人生が表れますよ」と楽器の魅力を語る。演奏の輪に加えてもらい1曲終えると、すっかり島に迎え入れてもらったような気持ちになった。

 この島と切り離せない歴史上の人物がいる。平清盛への謀反を企てたとして島流しに処された平安末期の僧、俊寛(しゅんかん)だ。流刑地「鬼界ケ島(きかいがしま)」は諸説あるが、硫黄島が有力視されている。平家物語によれば、3人の流刑者のうち俊寛のみ最後まで許されず、悲嘆に暮れたまま島で37歳の生涯を閉じたという。一通りの歴史を解説した横山さんは「そうはいっても、俊寛も島の生活をそれなりに楽しんだと思いますよ」とちゃめっ気たっぷりに付け加えた。

 
波が打ち寄せる東温泉=いずれも鹿児島県三島村の硫黄島で

波が打ち寄せる東温泉=いずれも鹿児島県三島村の硫黄島で

 きっと俊寛も楽しんだに違いない島の魅力の1つは、火山活動がもたらす温泉。東温泉は硫黄岳のふもとにあり、湧き出した温泉が岩場の浴場にたまり、そのまま海へ流れ込む。仲間と全国の温泉巡りをしている滋賀県米原市の中村稔さん(70)たちも「こんなに海が間近の温泉は初めて」と、野趣あふれる絶景と波の迫力を楽しんでいた。島の案内人、安永親志さん(64)は「体を持っていかれちゃうこともあるから、波には背を向けないで」と入浴の心構えを説く。

 さらに“秘湯中の秘湯”があると教えてくれた安永さんたちと、硫黄岳の反対側にある穴之浜(けつのはま)海岸を歩いた。干潮時だけ現れるというその温泉は、砂浜を掘ると湧き出すらしい。この日は2時間ほど海岸線を散策したが、目的の砂浜が見つからなかった。トボトボと肩を落として引き返す途中、磯に熱々の温泉が湧いている場所があった。湯量が多いのか、打ち寄せる波もちょうどいい湯加減に温まっていて、期せずして名もなき海中温泉を発見できた。

 奇観に太鼓に温泉。異世界を堪能したのもつかの間、日常に戻る時がやってきた。乗り込んだ船はボー、ボー、と汽笛を2回鳴らし、ゴゴゴと速度を上げてゆく。港に集まった見送りの島民たちが奏でるジャンベのリズムが次第にエンジン音に埋もれ、気づけば眼下の海は何事もなかったかのように深い青色に戻っていた。

 文・写真 栗山真寛

(2013年8月2日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
硫黄島へは鹿児島港から三島村営定期船「みしま」で約3時間30分。
週2~3便運航。出港時間が早いため、鹿児島市内で前泊する。

◆問い合わせ
三島村役場=電099(222)3141、同硫黄島支所=電09913(2)2101

おすすめ

ダイミョウタケノコ

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★宿泊
「島宿ほんだ」など5軒の宿泊施設がある。
当日宿泊は受け付けず、島に渡る前に要予約。

★ダイミョウタケノコ
初夏に旬を迎える。バター炒めや煮付け、あえ物、吸い物の具、
ピクルスなど多彩な味付けでシャキシャキとした歯応えを味わえる。

★土産物
フェリー出港の1時間前から港で土産物店「歩(さるく)」が開く。
特産のツバキを使った製品や、中学生が島の形にくりぬいたキーホルダーなどを販売。
隣の黒島産サツマイモを原料とした焼酎「みしま村」も人気。

★ジャンベスクール
港から徒歩5分程度。観光客も体験できる。

★俊寛像と俊寛堂
銅像は港を見下ろす高台に設置。
内陸部には、俊寛が過ごしたであろう堂を再現している。
昨年他界した十八代目中村勘三郎さんは生前、硫黄島で歌舞伎「俊寛」の上演に力を注ぎ、
1996年と2011年の2度、実現している。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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