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文禄・慶長の役史跡

文禄・慶長の役史跡 韓国 平和の重みに思いはせ

加藤清正が築いた多くの石垣が残る西生浦倭城。眼下には日本海が広がる=韓国・蔚山で

加藤清正が築いた多くの石垣が残る西生浦倭城。眼下には日本海が広がる=韓国・蔚山で

 小高い丘の石垣の上から東を見渡すと、日本海が見えた。風が心地いい。この城跡は「西生浦(ソセンポ)倭城」。戦国武将の加藤清正が指揮して築いた。聞き慣れない名は、ここが韓国の蔚山(ウルサン)だから。豊臣秀吉が朝鮮に出兵した文禄・慶長の役の際、1593年に造られた日本式の城だ。

 東西870メートル、南北370メートル。天守台に二重、三重の城壁と堀を備えた大規模な城だった。「最初は攻撃の拠点で多くの門がありましたが、後に守備用に石垣を積み直しています」。文化観光解説士の金青子(キムチョンジャ)さん(59)は、熊本城や名古屋城など清正の手掛けた日本国内の城も巡った。「(日本式の)倭城には清正特有の反りが見られる石垣も。ここでの技術が後の日本の城にも使われたようです」。両側に石が積まれた大手口や、当時の海から続く珍しい「登り石垣」も残り、城の研究者やファンらが訪れるという。

 倭城は一つだけではない。韓国南海岸を中心に30ほどあったとされる。秀吉の朝鮮出兵は日本では戦国時代の流れで語られるが、当時の韓国は朝鮮王朝の戦乱のない時代。予想しなかった侵略で国土は荒廃し、甚大な被害を受けた。倭城の跡を歩くと、戦役が長期間に及んだことを実感する。韓国の人々には「思い出したくない記憶」だが、近年は史跡・文化財として修復や整備が進んでいる。

 釜山東部の「機張(キジャン)倭城」もその一つ。黒田長政が築いた城跡には、いまも石垣が残る。築城には近くの韓国の城を崩して、その石を利用した。「周辺の農民が動員され、すごく苦労しただろう。庶民らの過去にも思いをはせてほしい」と機張文化院郷土史研究室長の黄亀(ファンク)さん(62)。「ここから朝鮮の文化が海を渡った」と話すように、海岸に面して築かれた倭城には陶磁器が集められ、船で日本に運ばれた。機張一帯には多くの窯元があり、かつて海だった場所からは青磁や白磁の破片が出土した。また、多くの陶工が日本へ連れて来られ、九州の伊万里焼などにつながった。

 
李舜臣将軍の指揮で活躍した「亀甲船」を模した船=韓国・統営で

李舜臣将軍の指揮で活躍した「亀甲船」を模した船=韓国・統営で

 韓国側の抗戦の跡も各地にあった。釜山から西へ、新しい橋を渡ると統営(トンヨン)に着く。ここは、ドラマや小説に登場する韓国の英雄、李舜臣(イスンシン)将軍が率いる水軍が秀吉の水軍に大勝した地である。李将軍が造らせたという屋根に鉄板を張った突撃用の「亀甲船」を模した船などが数隻展示されていた。

 さらに晋州(チンジュ)には、復元された城壁に囲まれる晋州城がそびえていた。倭城を見た後だけに、韓国風の城の様式は一層新鮮に映った。二度の激しい攻防戦があり、一度は守備隊が守り抜いたが、二度目は日本の大軍が陥落させた。城壁内は現在、憩いの公園に姿を変え、戦役の資料をそろえた国立博物館がある。占領した城内の楼閣で宴をしていた日本の武将を道連れに、脇を流れる川に身を投げた朝鮮の芸妓(げいぎ)の逸話が伝わる岩も。楼閣から眺めると、川が夕焼けに染まっていた。

 負の遺産を残した日本と朝鮮の関係を、どのように修復しようとしたのか。それを教えてくれるのが、釜山子城台のふもとにある朝鮮通信使歴史館。秀吉の死後、政権を握った徳川幕府は、朝鮮出兵で途絶えた朝鮮通信使を再開した。朝鮮の正使ら多い時は500人以上が、釜山から対馬を経由して瀬戸内海を大阪まで船で渡り、江戸まで歩いた。当初は朝鮮から連れてきた捕虜や陶工らを帰すためだったが、その目的を終えても幕末まで12回派遣が続いた。日本の人々は一生に一度見られるかの行列を待ちわび、日本から朝鮮には風鈴や扇子、和紙が伝わった。

晋州城の城門=韓国・晋州で

晋州城の城門=韓国・晋州で

 「釜山で朝鮮通信使の出発を再現した大祭が年1回開かれるんです」とガイドの鄭今順(ジョンクムスン)さん(51)。隣国との歴史に触れ、平和な交流であってほしいとの願いに、うなずくばかりだった。

 文・写真 石屋法道

(2013年9月6日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
釜山へは、中部国際空港や成田国際空港から毎日定期便が就航。
福岡港からは高速船もある。釜山から蔚山へは鉄道や車で1時間、
晋州には車で1時間半、統営には2時間程度。

◆問い合わせ
韓国観光公社名古屋支社=電052(223)3211、同東京支社=電03(3597)1717

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★グルメ
プルコギやサムギョプサルといった韓国焼き肉の定番のほか、釜山では海雲台カルビが有名。釜山周辺の南海岸では白身魚やアワビ、ホヤ、カキといった魚介類の刺し身を、しょうゆやコチュジャンだれで楽しめる。
夏場は釜山特有の冷麺に似たミルミョンもおいしい。

★ショッピング
釜山には国際市場と富平市場という2つの大きな市場がある。革製の上着やバッグ、
アクセサリー、化粧品、食料品の店が軒を連ねる。

★ツアー
佐賀県唐津市を観光後、韓国に渡り、倭城跡や釜山、晋州などを訪れる「韓国『倭城』を訪ねて 文禄・慶長の役を巡る旅」。10月10日出発で3泊4日。
問い合わせは、中日ツアーズ=電052(231)0800=へ。

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