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隠岐諸島

隠岐諸島 島根県 800年続く「牛突き」迫力

巨体がぶつかり合い迫力満点の「牛突き」=島根県隠岐の島町で

巨体がぶつかり合い迫力満点の「牛突き」=島根県隠岐の島町で

 「ガチーン」-。たくましい雄の和牛が激しく角をぶつけ合う。牛を操る「綱取(つなど)り」の男性が「さあっ、さあっ」と大声でけしかけ、場を盛り上げる。800年近い伝統を誇る日本最古の「牛突(うしづ)き」行事。その本大会が開かれた「隠岐モーモードーム」は熱気に包まれていた。

 約180の島々からなる島根県隠岐諸島。人が住むのは4島で、ドームがある島後(どうご)(隠岐の島町)、島前(どうぜん)(西ノ島・西ノ島町、中ノ島・海士町(あまちょう)、知夫里島・知夫村)に分かれる。太古の火山活動が形成した雄大な景観と新鮮な海の幸が魅力。「古事記」「太平記」の舞台でもあり、歴史散策にももってこいだ。

 「牛突き」は、承久の乱(1221年)に敗れ、鎌倉幕府によって隠岐へ流された後鳥羽上皇を慰めようと始まった。かつては4島全てで行われたが、今は島後だけに残る。主要な牛突き場が4カ所。神に奉納する本大会は8~11月に5回ある。牛突き専用に育てられた牛は横綱ともなると体重が800キロを超え、迫力がすごい。

 「顔見せ土俵入り」後、1対1の取組へ。客席の最前列に陣取ると、土俵をところ狭しと駆け回る牛の息遣いが手に取るように分かる。一方が闘争心を失えば勝負あり。多くは十数分で決着するが、過去には1時間以上に及ぶ熱戦もあった。1度負けた牛は逃げ癖が付き、引退に追い込まれることが多い。人にとってもそう甘くない世界で、個人で維持するのは難しくなりつつある。「餌代だけでかなりの出費ですから。有志で保存会をつくったり、町ぐるみで専門職員を雇ったりして守っています」と、隠岐観光協会の春木勇人さん(31)は語った。

 穏やかな気候、うまい米と酒を生み出す清らかなわき水。豊かなこの地は古くから中央との関係が深く、貴人の流刑地にもなって、独特の文化が形成された。伊勢神宮などの様式を取り入れた豪壮な「隠岐造」の神社も見られ、あちこちの旧跡で、ほんのり都の薫りがする。後鳥羽上皇は、中ノ島で20年近く帰還を待ちわびながら世を去った。平安時代に遣唐副使の大役を仮病で拒否した小野篁(おののたかむら)や後醍醐天皇も、足跡を残している。

 
沈みゆく太陽が重なり、灯がともったように見える「ローソク島」

沈みゆく太陽が重なり、灯がともったように見える「ローソク島」

 自然の造形美が楽しめると聞き、海に出てみた。まずは遊覧船で島後沖の「ローソク島」へ。波に削られた奇岩が海面から約20メートル、顔を出していた。日没近く、夕日が岩の先端に重なると、その名の通り、ろうそくに灯がともったように。ベテラン船長の福浦清貴さん(60)は「観音様に見えるって拝む人もいるんだ」と教えてくれた。西ノ島町の景勝地・国賀海岸を巡る遊覧船にも乗った。ここでは「ねずみ男岩」「ぬりかべ岩」、「摩天崖」に「通天橋」と命名センス光る奇岩、大絶壁の連続に圧倒されっぱなしだった。

 大地の成り立ちと人の営み、双方を体感できる近代遺産も。隠岐の島町の福浦トンネル。集落間を往来するため明治初頭に手作業で掘り始められた。昭和後半には重機で拡張されバスも通ったが、今は歩行者専用。550万年前の火砕流堆積物の中を歩ける珍しい場所だ。白い岩肌に噴火時の石と作業員のノミの跡が同居し、異なる時間の交差が不思議な気分にさせる。

 こうした独特の文化と生態系を伴う重要な地質遺産として、9月9日、隠岐諸島は国連教育科学文化機関(ユネスコ)が協力する「世界ジオパーク」に認定された。4島を挙げて機運を高めた成果だ。

海士町では独自の観光振興にも取り組み、町内に3つある「島宿」は、その1つ。現地産の食材にこだわり温かなサービスを心掛ける。宿泊した「但馬屋」では、しゃもじを持って舞うユーモラスな民謡が夕食時に披露され、楽しい時間となった。これから一層、隠岐は世界の注目を集めるだろう。心に残る島ならではの「おもてなし」が、訪れる人々を癒やし続けるに違いない。

宿泊者の前で民謡を披露する島宿「但馬屋」のおかみさん=同県海士町で

宿泊者の前で民謡を披露する島宿「但馬屋」のおかみさん=同県海士町で

 文・写真 谷村卓哉

(2013年10月4日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
隠岐空港へは伊丹空港から約1時間。
松江市と鳥取県境港市から隠岐汽船のフェリー、高速船もある。
島前各港間は内航船が頻繁に行き来する。

◆問い合わせ
隠岐観光協会=電08512(2)1577、または各町村観光協会

おすすめ

栄養豊富な海藻をたっぷり食べて育ったサザエ

栄養豊富な海藻をたっぷり食べて育ったサザエ

★壇鏡(だんぎょう)の滝
隠岐の島町西部にある「日本の滝百選」の1つ。
「全国名水百選」に選ばれたわき水も。
地元では「勝ち水」とされ、受験生や牛突き関係者らに人気。

★グルメ
栄養豊富な海藻をたっぷり食べて育ったサザエは大ぶりで甘く、ぷりぷりした身が絶品だ。
「幻の食材」とも呼ばれる隠岐牛は、柔らかな肉質で脂もさっぱり。
菱浦港前の隠岐牛店=電08514(2)1522=では、焼き肉ランチ(1650円)などが気軽に味わえる。

★明屋(あきや)海岸
海士町北部の絶景スポットでエメラルドグリーンの海が人気の海水浴場。
眼前の「屏風(びょうぶ)岩」には、ある角度からハートに見える穴が開き、カップルがよく訪れる。
トイレ、シャワーなどが整う町営キャンプ場も。

★焼火(たくひ)神社
西ノ島町にあり、社殿は国の重要文化財。
元は修験者の修行場で、社殿の一部が崖の穴の中に立つ。
境内でたかれた火が灯台の役割を果たしたという海の守護神。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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