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「釣りキチ三平」の古里

「釣りキチ三平」の古里 秋田県横手市 よみがえる名作の舞台

釣りキチ三平の原画やポスターが展示された横手市増田まんが美術館=秋田県横手市で

釣りキチ三平の原画やポスターが展示された横手市増田まんが美術館=秋田県横手市で

 しぶきをあげ、針を外そうと抵抗する魚の躍動感。雪解け水がまぶしい川辺のネコヤナギ・・・。自然の気配にあふれ、郷愁を誘う原画が並ぶ。そこにはいつも麦わら帽子をかぶり、釣りざおを握る少年の笑顔があった。

 B級グルメ「横手やきそば」で知られる秋田県横手市の同市増田まんが美術館。市出身で、名誉館長の漫画家矢口高雄さん(73)の代表作「釣りキチ三平」の原画やコミック、関連の品々が見られる。少年時代の矢口さんがモデルという名作が誕生して40年。記念企画展(終了)と、ゆかりの地を訪ねた。

 釣りキチ三平は東北の山村に住む少年。大自然を舞台にフナやアユなど身近な魚や謎の巨大魚、怪魚に挑み、天才的な腕前で釣り上げていく。1973年から「週刊少年マガジン」で10年間連載。自然や日本の原風景を伝える描写が美しく、今も根強い人気がある。

 美術館は95年、旧増田町(現・横手市)が建設。矢口さんをはじめ、手塚治虫、水木しげる、松本零士ら著名な漫画家約110人の原画約300点を収蔵、展示する。「これだけの原画がそろうのは日本でもここだけ」と職員の大石卓さん(43)。漫画も2000冊あり、閲覧は自由。毎年7万人が訪れる。

 吹き抜けに大樹のオブジェがあり、周囲のスロープ回廊に原画がずらり。企画展会場のホールの緞帳(どんちょう)(縦7メートル、横12メートル)に目を奪われた。ヤマメの中でほほ笑む三平のつづれ織り。原画に劣らぬよう、業者を決める際は1メートル四方の布にどれだけ美しく魚を織り込めるかを審査したという。

ファンのサインに笑顔で応じる矢口高雄さん=秋田県横手市で

ファンのサインに笑顔で応じる矢口高雄さん=秋田県横手市で

 企画展の矢口さんのサイン会には100人以上のファンが集まった。北海道恵庭市の岡部宏志さん(67)は「自然へのまなざしが好き」。横手市の加賀谷惇さん(25)は「古里の美しさや温かさを気付かせてくれた」と話す。

 矢口さんを育んだ場所はどんなところなのだろう。美術館から車で20分ほど走ると、矢口さんの故郷狙半内(さるはんない)地区。矢口さんが「見上げれば山 見わたせば山 あるのは山々と1本の細い流れ」と言う通り、山に囲まれ、棚田と清流に沿って民家が点在する。2メートルもの雪が積もる豪雪地帯。コンビニもスーパーもない。

 所々に三平の看板が。一帯では旧増田町が三平を活性化にと25年前から「釣りキチ三平の里構想」を進め、自然体験ゾーンとして温泉・宿泊施設やスキー場、牧場、ナマズ養殖場などが整備されていた。

 その1つ「天下森ふれあい農園」(冬期は休園)に市営の釣り堀があり、地元の中学生が糸を垂らしていた。早速、挑戦。強烈な引きで体長20センチほどのイワナが釣れた。

 昼食は近くの「手打ちそば三平」。ここにも三平のポスターや漫画が並んでいた。「三平そば」を頼むと、漫画で三平がみそ汁の具にしていたワラビやフキ、ゼンマイなど地元の山菜がたっぷり入った温かいそばだった。山里の素朴な味を堪能した。

映画の舞台となった「三平の家」=秋田県五城目町で

映画の舞台となった「三平の家」=秋田県五城目町で

 三平は2009年、滝田洋二郎監督によって実写映画化され、秋田県内各地がロケ地に。八郎潟に近い五城目町では三平が暮らした家が今も公開(冬期は休館)されている。

 山あいの北ノ又集落にある、築100年のかやぶき屋根の家には、いろりや古い農機具がそのまま残る。かつてこの地区には、かやぶき屋根の民家が9軒あったが、今は4軒のみ。この家も長年、空き家で取り壊される寸前だった。

 少しずつ変わりゆく古里の姿。でも、漫画の中には、そのままの原風景が息づく。もう一度、読み直してみたくなった。

 文・写真 山本真嗣

(2013年10月25日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
横手市へは新幹線で名古屋から大曲まで5時間半、JR奥羽線に乗り換え約20分。
羽田、中部国際の両空港からは秋田空港の便がある。
横手市から五城目町へは、横手から八郎潟までJR奥羽線で2時間。

◆問い合わせ
横手市増田まんが美術館=電0182(45)5556
天下森振興公社=電0182(45)9816
横手市役所=電0182(35)2111

おすすめ

だまこ鍋

だまこ鍋

★横手やきそば
「横手やきそばサンライ’S」加盟店が46店。
横手駅前の観光案内所などでマップがもらえる。
食べ歩き用のタクシーも。
事務局=電0182(32)2119

★だまこ鍋
五城目町などに伝わる郷土料理。
ご飯をつぶして丸めた「だまこもち」を鶏肉のだしで新鮮な野菜と一緒に煮る。
五城目町商工振興課=電018(852)5222

★横手市ふれあいセンターかまくら館
本物の雪で作ったかまくらを1年中展示、中に入ることもできる。
かまくら体験は100円。
電0182(33)7111

★横手市増田町の歴史的建造物
明治、大正から昭和初期にかけて商人が築いた家並みや蔵など貴重な建造物を見学できる。
増田観光物産センター「蔵の駅」=電0182(45)5311

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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