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仁淀川

仁淀川 高知県 清流に「奇跡の青」求め

起伏に富んだ2キロ余りの遊歩道が整備された中津渓谷

起伏に富んだ2キロ余りの遊歩道が整備された中津渓谷

 絶え間ない瀬音に包まれながら、途方に暮れていた。秋口に訪れた高知県仁淀川(によどがわ)町の山中。探し求めた「青」は幻に終わった。

 西日本最高峰、愛媛県の石鎚山(1、982メートル)を源に四国山地の渓谷を下り、土佐湾へ注ぐ仁淀川を訪ねる旅。お目当ては「奇跡の青」と称される美しい川の水、その色だった。

 「青、青、青」。頭の中に何度も「青」の一文字を刻みながら川沿いを巡る道中、無情の空に行く手を阻まれた。陽光は厚い雲に遮られ、強風が雨を乗せて全身を激しく打つ。折から接近していた台風の仕業だ。

 流域を右往左往している間に規制雨量を超えた主要道路は次々と通行止めに。苦し紛れに逃げ込んだ山道は「崩落注意」の看板だらけ。道沿いの斜面から土砂を含んで噴き出す茶褐色の雨水に恐怖が増す。

 覚悟はしていた。絶望的な天気予報を重々承知しながら心のどこかで「外れ」を願い、信じ込もうとしていた。日頃の行いを深く悔い改めても始まらなかった。仕事の都合上、2泊3日の旅程は改めようもない。

 雨と風に打たれながら、無残に濁った川面に目を凝らした。黒、茶、灰…。そこに思い描いていた青はなかった。

 仁淀川。その名の由来をめぐる諸説の中、興味深いのは醍醐天皇の時代に編まれた法令「延喜式」にアユの産地として登場する「贄殿(にえどの)川」の文字。諸国から献上された特産物(贄)を保管する宮中の機関「贄殿」の名を冠した清流が転じて仁淀川と呼ばれるようになったという。

 大雨に見舞われる寸前、渓谷の川面には小さな魚影が群れを成していた。岸辺には静かに魚信を待つ釣り人たちの姿。川は無数の命を育み、その豊かな恵みを人々にもたらしてきた。

 
竜が水を吐き出すような姿から竜吐水とも呼ばれる中津渓谷の雨竜の滝

竜が水を吐き出すような姿から竜吐水とも呼ばれる中津渓谷の雨竜の滝

 国土交通省の2012年全国一級河川平均水質ランキング1位に選ばれた延長124キロの清流は、同時に夏の水遊びに訪れる人々の数でも全国有数を誇る。今も昔も多くの人々が親しむ澄んだ水辺。思いは募った。1カ月後、再び四国の地を目指した。幻の青を求めて。

 仁淀川支流の中津渓谷。長い歳月をかけて刻まれた美しい景観が続く。起伏に富んだ2キロ余りの遊歩道を進んだ先には落差約20メートルの「雨竜の滝」。竜が水を吐き出すような姿から「竜吐水」とも呼ばれる。「晩秋は紅葉との調和が最高」。売店に集う地元の人々の声が弾んだ。

 続いて支流の安居渓谷へ。中津渓谷と同様、豪快な滝が点在する。河原には白や黒に加えて赤、青、緑、紫の色鮮やかな岩石が並ぶ。4億5000万年前にできたものが中心ともいわれる。悠久の歴史に気が遠くなる。

 仁淀川町役場に近い本流の久喜橋は、洪水による橋の流失を防ぐため、水没を前提に築かれた沈下橋。国内有数の多雨地帯である流域各地に数多く現存する。1935(昭和10)年に架けられた久喜橋は、この種の橋では高知県内最古とされ、国の登録有形文化財。岩を橋脚とした長さ約13メートルのアーチ橋は、山里の暮らしに欠かせない存在として人や車が行き交う。

 ふと思う。探し求めた「青」は見つけられたのか。記憶をたどっても、デジタルカメラのモニターを見直しても、確信が持てない。事前に仕入れた情報に実体験が追いつかない。「もう一度訪れよう」。胸に誓った。

 厚い雲の下、冷たい川面に素足を伸ばしてみる。水しぶきを浴びながら深呼吸を繰り返した。穏やかな時間が流れていく。気がつけば心の中は澄みきっていた。まるで幻の青のように。

高知県内最古のアーチ形沈下橋とされる久喜橋。仁淀川の魅力を凝縮した名所として知られる=いずれも高知県仁淀川町で

高知県内最古のアーチ形沈下橋とされる久喜橋。仁淀川の魅力を凝縮した名所として知られる=いずれも高知県仁淀川町で

 文・写真 長谷部正

(2013年11月22日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
仁淀川町へは、高知龍馬空港からJR高知駅までバスで約40分、高知駅から佐川駅までJR特急で約30分、佐川駅からバスで約30分。流域巡りには車が便利。

◆問い合わせ
仁淀川町役場=電0889(35)0111

おすすめ

みそカツラーメン

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◆中津渓谷ゆの森
渓谷入り口にある温泉リゾート施設。
和洋の客室で宿泊のほか、日帰り入浴、宴会、食事も可。電0889(36)0680

◆みそカツラーメン
ニンニク風味のみそラーメンに揚げたての大きな豚カツが載った「ラーメン自由軒」の看板メニュー。カツオのたたきをはじめとする土佐名物料理の合間にどうぞ。
電0889(26)0198

◆観光屋形船
2012年5月にお目見えした仁淀川初の観光遊覧船。川風を感じる約50分間の川下り。
1日5便。乗船料金は大人2000円、小学生以下1000円。
12~2月は予約運航。電0889(24)6988

◆芋ケンピ
サツマイモを植物油で揚げ、砂糖、水あめと絡めた素朴な味。土佐の名物菓子。高知県内各地の土産物店などで購入できる。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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