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百名ビーチ

百名ビーチ 沖縄県 伝説息づく創世神の地

エメラルドグリーンのような海と青空が広がる百名ビーチ=沖縄県南城市で

エメラルドグリーンのような海と青空が広がる百名ビーチ=沖縄県南城市で

 エメラルドグリーンにもコバルトブルーにも見える美しい海が、静かに広がっていた。沖縄県南城市の百名(ひゃくな)ビーチ。人影はほとんどなかった。天候や潮の満ち引きによって、海の表情は刻々と変わる。数百メートル離れた新原(みーばる)ビーチは、観光客でにぎわっていたが、ここだけは別世界のようだった。

 百名ビーチは琉球の始まりの場所とされている。海の向こうには、琉球の伝説で神の島とされる久高(くだか)島が見える。百名ビーチは、久高島に降り立った琉球の創世神「アマミキヨ」が、沖縄本島への初めの一歩を踏んだ場所とされ、海の中に「ヤハラヅカサ」と刻んだ小さな石碑が立っている。アマミキヨはここから沖縄本島をつくったという。「ヤハラ」は柔らかい、「ヅカサ」は場所を意味する。波も風も穏やかな場所だからだろうか。

 ヤハラヅカサから陸に向かって海岸を数十メートル歩くと、ガジュマルなど南国特有の樹林が広がる。その中には、アマミキヨが仮の住まいとした浜川御嶽(はまがーうたき)がある。浜川御嶽は琉球王朝の時代、国王らが聖地を巡礼した「東御廻り(あがりうまーい)」の1つだった。ガジュマルの木が岩に絡み付き、神秘的な空間になっている。

 「百名ビーチに来るのは、ほとんどが芸術家や音楽家だよ」。近くに住み、毎日、海辺を散歩している仲里新勇(しんゆう)さん(65)はそう話す。その理由を尋ねると「さあ。来た人に職業を聞くと、みんなそうだから。インスピレーションをもらうのかな」とほほ笑んだ。

「ロケットビル」の愛称で親しまれる建物=那覇市で

「ロケットビル」の愛称で親しまれる建物=那覇市で

 大津市の画家林果(このみ)さんも、ここに導かれた1人。6年前、初めて訪れた。当時は琉球の伝説も知らず、車を運転して何げなくたどり着いたところが百名ビーチだった。「以前は題材を決めてから描いたけれど、沖縄に来てからは、あふれ出すものを描くようになった」。作風が変わり、それから毎年、沖縄で個展を開いている。沖縄の海や森から受けた安心感で描いた作品は、より抽象的になっていった。見る人にも伝わるのか、絵の前で涙を流す人もいるという。

 林さんが毎年、個展を開くのは、那覇市の「コルネットハウス」。見ていて癒やされるような林さんの絵画が並んでいた。世界遺産の首里城のそばにあり、ギャラリーのほか、音楽ホールも併設されている。カフェには芸術や音楽好きが自然に集い、談笑したり、ギターの演奏を始めたりする。

 その隣には、遠方から訪れたアーティストらが安く宿泊できる「コルネットビル」がたたずむ。形から「ロケットビル」の愛称で親しまれ、貸しスタジオもある。林さんは「個展をしながら安く泊まりたいと思っていたら、ここにすべてそろっていた」と話す。どちらの建物も、打ちっ放しのコンクリートに赤色の鉄骨が映える。

 建物は東京から那覇に移り住んだ建築士の越智史郎さん(64)が設計した。「アーティストの生き方に憧れがあるんです」。中学生のころからトランペットやギターに親しみ、絵を描くことも好きだった越智さんは、尊敬するアーティストが表現しやすい場をつくった。

幻想的な音楽が奏でられた琉球の民俗楽器のコンサート=那覇市で

幻想的な音楽が奏でられた琉球の民俗楽器のコンサート=那覇市で

 越智さん自身が事務局となり、コルネットハウスではあらゆるジャンルのコンサートや展覧会が開かれる。「建築士としてハード面でもまちづくりはしてきたけれど、音楽や芸術がもっとあふれていたら魅力的だと思う」。そんな思いで、街中でのコンサートも手掛ける。

 訪れている間、越智さんが関わった無料の野外コンサートが那覇市の首里城公園で開かれた。箏(くとぅ)や三線(さんしん)など琉球の民俗楽器の演奏者35人が、幻想的な音楽を響かせた。琉球王朝をイメージさせる、みやびな旋律に何百人もの観客が酔いしれた。その中に、音楽と首里のまちへの情熱あふれる越智さんの姿もあった。

 文・写真 猪飼なつみ

(2013年12月6日 夕刊)

メモ

◆交通
首里へは那覇空港から、ゆいレール(沖縄都市モノレール)で約30分。南城市の百名ビーチ方面へは那覇市内からバスで約1時間、新原ビーチ下車。

◆問い合わせ
南城市観光商工課=電098(946)8817、コルネットハウス=電098(884)7514

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アグー豚のステーキ

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★グルメ
那覇市首里当蔵町にある東道(とぅんだー)BAR&Dining(バー・アンド・ダイニング)は、世界遺産の首里城が一望できる唯一の飲食店。アグー豚のステーキ(1750円)は、脂のうま味を引き出す焼き方で調理していて、厚みがある。アグー豚を味わうために作られた自家製のポン酢もしくは、マスタードソースで食べるとおいしい。電098(887)5656

★久高島
南城市の知念安座真港から久高海運のフェリーで約20分。沖縄本島から東へ5キロの小島。琉球王朝時代に神事が行われ、現在も、さまざまな祭祀(さいし)が受け継がれている。拝所などは島の聖域とされ、立ち入ることができない場所もあるので注意。島の石や植物は持ち帰らないことがルール。島の周囲は8キロほどで、自転車を借りてゆったりと一周し、自然を満喫することができる。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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