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斑鳩

斑鳩 奈良県 心清まる冬の法隆寺

法隆寺の西院伽藍。日本で最古の五重塔は高さ32.5メートル。奥に大講堂、右に金堂を望む=奈良県斑鳩町で
法隆寺の西院伽藍。日本で最古の五重塔は高さ32.5メートル。奥に大講堂、右に金堂を望む=奈良県斑鳩町で

 奈良への道中、待ち合わせをしているわけでもないのに、そわそわしていた。法隆寺で百済観音の前に立ち、ようやく落ち着いた。会いたかった人とついに対面した気分だった。

 初めましてとあいさつしても1400年前に生まれた観音像は微動だにしない。飛鳥時代以来の戦乱や病苦、人の世の移ろいを見て今ここにいる。その静けさに心の曇りが払われた。

 柄にもなく考えごとをしていると、学校行事らしき高校生の一団で静寂は霧散。「これじゃね?」「これだよ。本に載ってた細長いやつ」。あんまりな言いようだが、ガラスケースの向こうの2.1メートルの国宝像は柳のような痩躯(そうく)で微笑している。1人の男の子が友達の輪を抜けだし、像の前の東日本大震災救援と書かれた募金箱に小銭を入れて手を合わせた。照れくさそうな顔がよい。

 法隆寺には1100体もの仏像彫刻があり、うち国宝は103体、重要文化財113体。仏像は、まっすぐに顔を上げていると今さらながら気付いた。

 博物館のような大宝蔵院を出ると足元から冷気がせり上がってきた。空を眺めると雲が荘厳だ。「冬でよろしかったね。遠足や修学旅行シーズンとかち合った人は、えらい行列でかわいそうなぐらいやから」と行き合った作務衣(さむえ)の人が言う。

国の天然記念物に指定されている奈良公園の鹿=奈良市の東大寺門前で
国の天然記念物に指定されている奈良公園の鹿=奈良市の東大寺門前で

 中宮寺はすぐそばだった。本尊の如意輪観音菩薩(にょいりんかんのんぼさつ)(国宝)を拝み、それだけでは足りないので画用紙大の写真を売店で買った。

 さらに法輪寺、法起寺へ。法輪寺には伝説的な宮大工・西岡常一氏(1995年没、86歳)が再建した三重塔がある。法起寺は広い空をバックに、三重塔を写真に収めようとするおじさんたちが、三脚を立てて天気待ちをしていた。こちらまで足を延ばすなら徒歩よりも自転車がお勧め。駅前か法隆寺の門前に貸自転車がある。

 法隆寺駅から奈良駅までは3駅だった。駅前から大仏殿・春日大社前までバスに乗り、降りたらたちまちお目当ての鹿がいた。訳もなくうれしくなり、早速、売店で鹿せんべいを買う。米ぬか製1束10枚で150円。「待ち構えてますよ」と売店のおじさんが言うので何のことかと思い、ふと振り返ったら同心円状に鹿に取り囲まれていた。

 群がる鹿。瞬く間に消え去るせんべい。手元には、せんべいを束ねていた証紙だけがひらひらと残った。「このせんべい代は可愛(かわい)いシカの保護にあてます。ご協力ありがとう」と書いてある。

 鹿をお供に道を行くと参道脇に鹿苑(ろくえん)があった。一般財団法人・奈良の鹿愛護会の施設で1年余り前から一般公開されている。奈良公園の野生鹿と人間の関わりが展示パネルに簡潔明瞭に書かれており、知らないことばかりだった。

 奈良公園には1100頭の鹿がいて、交通事故で年に100頭近くが死ぬ。一方、鹿苑には300頭が飼われており、ここの鹿は交通事故でけがをしたり畑を荒らしたりして人間と共存できず、一生外へ出られない。鹿の胃から見つかった人間の出したごみが並んでいる。鹿のおやつはせんべいだけと注意書きがある。

河島英五さんゆかりの品を並べた「TEN.TEN.CAFE」=奈良市春日野町で
河島英五さんゆかりの品を並べた「TEN.TEN.CAFE」=奈良市春日野町で

 東大寺へ向かう前、今は亡きシンガー・ソングライター河島英五さんの家族が経営するTEN.TEN.CAFE(テンテンカフェ)で人間もおやつにする。外へ出て懲りずにまた鹿せんべいを買う。再びあっけなくなくなった。においが残っているのか鹿が根気よく付いてくる。子ヤギを従え元気に歩いていた「アルプスの少女ハイジ」のオープニングを思いだす。似て非なる風景だなと思っていると、尻をぐいっと鹿に突き上げられた。振り返ると、またせんべいの売店。そして南大門が鮮やかにそびえていた。

 文・写真 三田村泰和

(2014年1月17日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
奈良へは、京都からJRみやこ路快速で約45分。
大阪・天王寺から大和路快速で約35分。
バスなら名古屋から約2時間半、東京から約7時間半。

◆問い合わせ
奈良県ビジターズビューロー=電0742(23)8288
法隆寺=電0745(75)2555

おすすめ

柿の葉すし
柿の葉すし

★法隆寺の夢殿本尊特別開扉
秘仏救世(ぐぜ)観音像の拝観は春と秋のみ。
春は4月11日~5月18日、秋は10月22日~11月23日。

★名物柿の葉すし
柿の葉で包んだ手軽に食べられるサバなどのすし。
一口大6個で800円ほど。

★賣太(めた)神社
優れた記憶力で「古事記」の編さんに貢献した稗田阿礼をまつった神社。
神社一帯は環濠(かんごう)集落で、260メートル四方の環濠は室町時代には成立していたとされる。
奈良-法隆寺駅間の郡山駅から徒歩約30分。

★鹿苑
牡鹿の角切りなども行う奈良の鹿愛護会が管理運営。
入場無料だが保護した鹿のエサ代として100円程度の協力金。
月曜休み。電0742(22)2388

★TEN.TEN.CAFE
奈良市内の別の場所から移って半年前に再オープン。
13年前に48歳で亡くなった河島英五さんの自筆画やギターなどを眺められる。
レストランや土産物店が集まる「東大寺門前 夢風ひろば」の一角。
火曜休み。電0742(26)0011

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