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稚内 北海道 人気者激増で「困った!」

抜海港のゴマフアザラシ。岸壁から群れの姿を見ることができる

抜海港のゴマフアザラシ。岸壁から群れの姿を見ることができる

 いる、いる。岸壁から少し離れた堤防に、目当てのゴマフアザラシはたくさん転がっていた。午前9時の気温は氷点下7.4度。強い風で、辺りに積もった粉雪が舞い上がる。風と寒さで、カメラのファインダーをのぞく目から涙が止まらない。当たり前なのだろうが、密集したアザラシたちは全く平気のように見える。じーっと寝そべっているかと思えば、何かを思い出したかのように泳ぎだし、海面に顔だけを出して波間を漂う。この日の午前中、抜海(ばっかい)港内で観測された数は72頭だった。

 日本最北の街・北海道稚内市の中心部から日本海を南に下った場所にある抜海港は、野生のゴマフアザラシを間近に見られる場所として知られる。

 港内にプレハブの観察所が設けられたのは2003年。11月から3月までの開設期間中には観光客が訪れ、ツアーの大型バスも立ち寄る。観察所の中には双眼鏡や、ライブカメラからアザラシを見るためのモニターもある。

岸壁からアザラシを観察するツアー客ら

岸壁からアザラシを観察するツアー客ら

 アザラシが上陸するのは、11月ごろから翌年の5月ごろまでといわれる。その数は年々増え続け、11年12月には1405頭を観測した。愛らしい姿が人気を集める一方、増えすぎたアザラシの漁業被害が深刻な問題になっていることも、たびたび報じられている。

 地元町内会長の森寛泰さん(51)によれば、抜海ではこの冬、漁師らが恒例のミズダコ漁をついにやめてしまった。この漁を始めるまで、地元の漁師たちは冬の間、出稼ぎをしていたという。「親父(おやじ)たちの代で始めた漁だけど、この10年で漁獲量は10分の1になった。もう採算が合わない」と訴える。市観光交流課は「アザラシは宗谷岬周辺など他の場所でも増えており、市としても難しい問題だと理解している」と話す。

 観察所管理人の伊東幸(みゆき)さん(46)は「現状は漁業被害を超えたレベルで、生態系への脅威だと言っていい」と話す。観察所には、アザラシの生態や漁業被害の内容、抜海のアザラシの行動範囲を調査した研究結果の一部が掲示されている。20年ほど前には、ほとんど姿を見せなかったゴマフアザラシは、今は北海道の日本海側一帯にいるという。

 「動物は弱くて小さいのを狙う。アザラシは子どものタコから食べていったのだろう。だから、タコがいなくなってしまった」という森さんの言葉を思い出した。

 伊東さんと話をしていて、これは観光と漁業の共存-などといった安易な言葉で扱うような問題ではないとの気持ちが伝わってきた。それでも、せっかく来てくれたのなら、「抜海や北海道の海がどうなっているかを見てほしい」「ほっておくと大変になることを知ってほしい」。伊東さんはそんな思いで、訪れた人を迎えているという。

 抜海港は駅から2キロほどの距離があり、一帯は地吹雪がひどい。徒歩は危ないと感じた。観察所には冬の観光客の安全を守る役目もあるのだろう。厳しく、そして激しく変化する自然。そこで暮らす人たちが抱える複雑な気持ちと優しさを思った。

稚内市青少年科学館の南極展示コーナー。犬ぞりや観測船の模型などが並ぶ=いずれも北海道稚内市で

稚内市青少年科学館の南極展示コーナー。犬ぞりや観測船の模型などが並ぶ=いずれも北海道稚内市で

 稚内は、南極大陸から生還した樺太犬、タロ・ジロのふるさとで、犬ぞりの訓練も稚内公園で行われた。市街地の北、ノシャップ岬にある市青少年科学館の展示物は、酷寒の南極と稚内との縁の深さを物語る。

 文・写真 後藤厚三

(2014年2月7日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
羽田空港からは稚内空港への直行便、中部国際空港からは新千歳経由の便がある。
抜海港へは稚内駅からタクシー、あるいはJR宗谷線・抜海駅下車。
冬季の徒歩は天候によっては危険。

◆問い合わせ
稚内市観光交流課=電0162(23)6468

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チャーメン。塩味、みそ味など店によってバリエーションも。

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※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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