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讃岐うどん食べ歩き

讃岐うどん食べ歩き 香川県 独自の文化 つやと腰

昼時、近くにある県庁の職員や香川大学生らで混み合うが、客の回転は速い=高松市のうどん屋「さか枝」で

昼時、近くにある県庁の職員や香川大学生らで混み合うが、客の回転は速い=高松市のうどん屋「さか枝」で

 ちょっと大げさだ。香川県の印象を村上春樹はこう書いた。「どこを向いても、まるでメーデーの日の代々木公園に翻る旗みたいにぎっしりと、うどん屋またうどん屋である」(新潮文庫「辺境・近境」)

 そんなことはなかった。でも当たり前だが、うどん屋は多い。反対にラーメン屋や牛丼屋、ついでにコンビニもあまり見かけない。高松市で最初に入ったのは県庁そばの「さか枝」。小(一玉)が170円、天ぷらは各80円。玉の入った丼をもらって自分で湯がき、青ネギ、ショウガ、ごま、天かすをかけ、タンクからだし汁を注ぐ。最近でこそ「○○製麺」の進出で戸惑うこともないセルフ方式も、香川が元祖だ。

 ちょっと黄みを帯びた麺は光って腰がある。つやつや、もちもち、文句なしでうまい。厨房(ちゅうぼう)でおやじさんが台に上がって麺にする前の生地を踏んでいる。2代目の坂枝良弘さん(72)。「踏まんとうまくないんや。足で踏むとグルテンが出る。粘りが出るまで踏むんや」

 うちの新聞社に丸亀市出身の女性記者がいる。今はそばの本場、氷点下の長野で頑張っている森若奈さん(29)。旅に出る前に「うどんはかむんじゃないんです。のむんです」とアドバイスしてくれた。昼時に写真を撮りながら観察していると、中に何人かだがそういう人がいる。口が動かない。

うどんの生地をもみ上げ、それを踏んで腰をつくる=高松市の松下製麺所で

うどんの生地をもみ上げ、それを踏んで腰をつくる=高松市の松下製麺所で

 次に行ったのが住宅街にある「松下製麺所」。さか枝より麺がぷりぷりした感じ。店の奥で松下守さん(67)が生地をもみ上げ、娘婿の横手隆明さん(40)がその生地をビニール袋に入れて踏んでいた。脇に日清製粉の25キロ入り紙袋がある。「オーストラリア産の小麦です。昭和50年ごろから全部これに切り替わったんです。地元産の小麦はぶつぶつと切れたりした。これは食感のいい、腰がある麺ができます」

 腹の取材は一服だ。頭の取材をする。「さぬきうどん研究会」の副会長、諏訪輝生さん(66)に聞きたかったのは、なぜ徳島や愛媛でなくて香川だけにうどん文化が根付いたのか。諏訪さんによれば、ため池に象徴される少雨が小麦の生産に適していた。さらに瀬戸内の塩、だしを取るイリコ(カタクチイワシ)、小豆島のしょうゆと条件がそろっていた。しかしオーストラリア産小麦のASWという品種が全国を席巻してしまったとすれば、讃岐うどんらしさとは何だろう。

 田尾和俊さん(58)に会いにいく。この人は「タウン情報かがわ」の元編集長で、1990年代の讃岐うどんブームを引き起こした「恐るべきさぬきうどん」(あわわ刊)を書いた人。今は善通寺市の四国学院大で教えている。「どこの国の粉であろうとも」と田尾さんは言う。讃岐うどんの独自性とは製麺所から発達した独特の店の在り方であり、県民の間に根付いたうどん文化そのものだと。

 人気のうどん屋は山の中とか田んぼの中とか、変な所にも結構ある。これは製麺所に玉を買いに来た客が「ついでに食べさせて」と求め、うどん屋も始めたというわけだ。琴平町の天満製麺所には早朝、前夜泊まった旅館で丼を借りて持って行く。できたてのうどんをもらい、しょうゆとネギをかけるだけでつるつると。格別にうまかった。

 小学校では学期に2、3回はうどん給食が出るという。誰もがうどんの思い出を懐かしそうに語ってくれた。善通寺で乗ったタクシーの運転手さん(62)は18歳で兵庫へ働きに出た。今はなき宇高連絡船の甲板にあった店のうどんのおいしさは忘れられないと話した。「盆と正月くらいしか帰れなかった。デッキでうどんをすすると、ああ帰ってきたなあと」

 旅の最後にタクシーを飛ばしたのは丸亀市の「なかむら」。村上春樹が「文句なしにすごかった」と書いた店は讃岐富士の麓にあって「薬味のネギは客が裏の畑で採ってくる」という伝説がある。結論を言うとそれは人手がなかった昔の話。ネギ畑には子息の家が立っていた。

 森さん、ごめん。あなたが推薦してくれたまんのう町の「やまうち」も、綾川町の「山越」にも行けなかった。交通が不便だったこともあるけど、2日で11杯のうどんをすすって、食べ疲れてしまった。

 文・写真 竹村純市郎

(2014年2月21日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
新幹線は岡山駅で下車し、JR快速マリンライナーに乗り換えると1時間弱で高松駅に着く。空路は、羽田空港から全日空と日航の高松便がある。

◆問い合わせ
讃岐うどんの情報は、香川県の公式観光サイト・ホームページでの検索が便利。
県観光協会=電087(832)3377

おすすめ

大窪寺

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★冬の食べ物
「しっぽく」は根菜類や肉が入ったうどん。オリーブの葉を混ぜた餌で養殖した
「オリーブハマチ」も。果物ではキウイ、イチゴが特産。ビワの蜂蜜も美味。香川の雑煮は白みそ仕立てであん餅が入っている。

★四国遍路
香川県内には66番から88番の札所があり、涅槃(ねはん)の道場と呼ばれる。
66番の雲辺寺は四国八十八カ所で一番標高が高く911メートルの山頂にある。
75番札所は善通寺で弘法大師生誕の地とされる。そして満願成就、結願(けちがん)の88番札所が大窪寺。最後の遍路道は急な登り道が続く。

★うどん本
いずれも田尾和俊さん著の「超麺通団4 麺通団の最新讃岐うどんの巡り方&
讃岐うどんの基礎知識」「超麺通団3 麺通団のさぬきうどんのめぐり方」(西日本出版社)は写真が多くて分かりやすい。
また、月刊情報誌「タウン情報かがわ」はパソコン、スマートフォン、タブレット型端末で無料で閲覧できる。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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