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北三陸

北三陸 岩手県 船で巡る「海のアルプス」

四作さんが削る昆布は、地元産しか使わない。生産量は、ようやく震災前の水準に戻ってきた=岩手県久慈市で

四作さんが削る昆布は、地元産しか使わない。生産量は、ようやく震災前の水準に戻ってきた=岩手県久慈市で

 出会った人たちは別れ際、見えなくなるまで手を振り、送ってくれた-。

 南北が180キロもある岩手県の北部に位置する久慈市から、宮古市まで沿岸部を南下した。久慈駅前のアンテナショップに入ると、県内唯一の削り昆布職人といわれる四作雄治(しさくゆうじ)さん(60)が、人懐っこい笑顔で実演中だった。「13歳から削ってたから、中学は昆布部所属だね」と冗談交じりに話しながらも、素早い動きで熟練の技を披露する。削る厚さも自由自在。手渡されたおぼろ昆布は、向こうが透けて見えるほどの薄さ。とろっと舌の上で溶けて、うまみが口に広がった。

サッパ船での沿岸観光。小さい岩穴をくぐり抜けられるのは、地元漁師の熟練した技術ならでは=岩手県田野畑村で

サッパ船での沿岸観光。小さい岩穴をくぐり抜けられるのは、地元漁師の熟練した技術ならでは=岩手県田野畑村で

 4月6日に全線開通した三陸鉄道北リアス線で南へ向かった。NHKの連続テレビ小説「あまちゃん」ロケ地の海があれば、津波の被害を受けたがらんとした工事現場も。車窓の景色は目まぐるしく変わり、見どころは運転士がアナウンスしてくれる。18歳から勤めているという運転士の橋上武司(はしかみたけし)さん(46)は「全国から乗りに来て、元気を分けてほしい」と訴える。

 久慈駅から50分ほどで、田野畑駅に到着した。まずは漁に使う小型のサッパ船で沿岸観光を楽しんだ。景勝地の北山崎で折り返す約1時間の航行。澄んだ海のしぶきを上げながら、ぐんぐん進む。ガイド歴10年超という上村繁幸(かみむらしげゆき)船長(64)は、よどみのない名調子。この地の歴史や、津波で自身の漁船や番屋が流された時のことなどを語っていた。

 三陸のリアス式海岸は、宮古市を境に表情が変わる。田野畑など宮古以北では、海面から200メートルもの断崖がびょうぶのように連なり「海のアルプス」と称される。首をぐーっと後ろに倒して見上げてみる。切り立った崖に松の群生・・・。自然の力強さを感じた。岸辺の岩と岩の間に小さな隙間が見えてきた。「サッパ船なら通れちゃうんだ」。波が穏やかな時だけの楽しみだという。舵(かじ)を手にした船長の真剣な表情に、ドキドキが増す。通り抜けた瞬間、一同から歓声が上がった。

新巻きザケは寒風にさらされて、うまみが増す。一般向けの新巻きザケづくり体験も計画中=岩手県宮古市田老で

新巻きザケは寒風にさらされて、うまみが増す。一般向けの新巻きザケづくり体験も計画中=岩手県宮古市田老で

 旅の最終地点は、津波で大きな被害を受けた宮古市田老地区。岩手の県魚・サケを塩漬けにして、寒風で干す新巻きザケが地元の名物だ。漁師の松本正(ただし)さん(62)夫婦が切り盛りする加工店「まるま まつ本」で、新巻きザケづくりを体験した。タワシでぬめりを取り、えらの中や腹部の不純物、血合いをかき出す。水できれいに洗い流し、えらからひもを通して干していく。さらに串をあてがい、腹部を開いて終了。なかなか力のいる作業だった。よく見るとサケも一匹、一匹、顔が違う。眺めていると、手がけたサケに愛着が湧いてきた。

 「昆布を使うと味がマイルドになるんだ」という松本さんの新巻きザケは、昆布締め加工が特徴。焼きたてを試食すると、味が凝縮していて皮はパリパリ。箸が止まらない。

 一昨年11月に再開したという加工場から出ると、周りはまだ復興の途中と気づく。「目と耳と舌で感じたすべてを決して忘れまい」と自らに言い聞かせ、バスに乗りこんだ。バスは、くしくも三陸鉄道カラーと同じ白、赤、青。白い波、赤い樹皮のナンブアカマツ、青々とした広大な海・・・。目に焼きついた色が浮かんできた。同時に、いまだ砂地が広がる震災の爪痕も心に残った。三陸に、もっと色があふれる日が来ることを望みながら、再訪を誓った。

 文・写真 川島美穂

(2014年4月18日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
 久慈市へは、東北新幹線で東京から二戸まで約2時間40分、二戸でバスに乗り換え約1時間。三陸鉄道北リアス線は、久慈から宮古駅まで約1時間30分。

◆問い合わせ
 岩手県観光協会=電019(651)0626、三陸鉄道=電0193(62)8900

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★サッパ船での沿岸観光
1人3500円(2人以上)。7000円で貸し切りも可。前日午後5時までに予約(当日応相談)。3日前まではネットでも申し込める。NPO法人体験村・たのはたネットワーク=電0194(37)1211

★学ぶ防災ガイド
宮古市田老地区で、津波被害について地元の人から話が聞ける。防潮堤から街を見渡したり、3階まで浸水したホテルから撮影したDVDを観賞したりする。所要時間は1時間程度。ガイド1人につき、復興支援協力金を含め4000円の謝礼が必要。1人でも参加できる。見学コースや時間は調整可。宮古観光協会「学ぶ防災」係=電0193(77)3305

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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