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アユタヤ遺跡

アユタヤ遺跡 タイ 壮麗な都 今は昔

アユタヤ朝の時代には高さ44メートルの仏塔がそびえたという寺院、ワット・マハタート。今は、レンガの土台だけが残る=タイ・アユタヤで

アユタヤ朝の時代には高さ44メートルの仏塔がそびえたという寺院、ワット・マハタート。今は、レンガの土台だけが残る=タイ・アユタヤで

 つわものどもが夢の跡-。日本から4500キロも離れた亜熱帯の、目に染みるような夏空に、場違いな芭蕉(ばしょう)の句が浮かんだ。建物の土台や崩れ落ちた塔の一部だろうか。所々に雑草が生えるレンガのがれきが、草原で風にさらされている。そして頭を切り落とされた石仏が、不気味に整然と並ぶ。

 バンコクからチャオプラヤー川に沿って車で1時間半ほど北上したアユタヤ遺跡。この場所には、かつてワット・マハタートという寺があった。高さ44メートルのパゴダ(仏塔)がそびえたというが、今はただ荒涼としている。

 アユタヤ王朝は1351年に成立し、最大では現在のラオス、カンボジア全域をも掌握した。チャオプラヤー川の中州にあった都・アユタヤは15~17世紀、海のシルクロードと呼ばれた交易路の中継点として栄えた。川を行き交った船は、バンコク湾から香辛料や陶磁器などを中東、ヨーロッパへと運んだ。アユタヤにはポルトガル、中国、ベトナムなどの外国人町が並んだという。

 川沿いに歩くと、「アユタヤ日本人町の跡」という石碑が立っている。朱印船貿易が盛んだった鎖国以前の江戸時代、2000人を超える日本人がこの町に住んだ。浪人や迫害を受けたキリスト教徒が渡ってきた。勇敢な日本の浪人たちは兵士となり、都の守護で頭角を現した。

遺跡を眺めながら、ゆっくりとゾウに乗ることができる=アユタヤで

遺跡を眺めながら、ゆっくりとゾウに乗ることができる=アユタヤで

 1610年ごろこの地に来た駿河出身の山田長政は、今でもよく知られている。貿易で成功し、強力な軍隊を率いた。当時のソンタム王の信頼は厚く、官吏の最高位まで出世した。

 「実際の山田がどんな人だったか、分からないことが多い。ただ、彼の生きざまや日本人町は、タイに暮らす日本人の心のふるさとのような存在です」。長年、タイを研究してきた大阪外国語大(現大阪大)名誉教授の赤木攻(おさむ)さんは話す。

 日本人町跡は第2次世界大戦前に発掘されたが、戦後も長く石碑が立つだけだった。「船でないと行けない場所だった」と赤木さん。だが、1990年から在留邦人らが、日本政府の援助を受けて展示施設を整備。現在では朱印船や町の模型が並んでいる。

 アユタヤ王朝は約400年続いたが、それは近隣諸国、特にビルマ(現ミャンマー)とのインドシナ半島の覇権をめぐる戦争の歴史でもあった。1767年ビルマ・コンバウン朝の攻撃でアユタヤは陥落した。ビルマ軍は都を徹底的に壊し、財宝は持ち帰った。それが今のアユタヤの姿だ。

「王宮跡」は何もない原っぱだった。王宮に隣接していた寺院、ワット・プラ・シーサンペットには、先端が円すい形の高さ20メートルの3基のパゴダが残る。王墓だった塔の外壁は、灰色にくすんでいるが、往時は金に覆われていたという。

 「至るところに、パゴダがめくるめくような空に向かって並んでいた」。遠藤周作は山田の生涯を題材にした小説「王国への道」で、アユタヤをこう描いている。

バンコクの王宮にある寺院ワット・プラケオの金色のパゴダ。かつてのアユタヤもこんなふうに輝いていたのだろうか=タイ・バンコクで

バンコクの王宮にある寺院ワット・プラケオの金色のパゴダ。かつてのアユタヤもこんなふうに輝いていたのだろうか=タイ・バンコクで

 どれほど壮麗な都だったのか。想像も及ばないが、手がかりは今日の都にある。1782年に始まった現在の王朝の開祖・ラーマ1世は、アユタヤの繁栄や政治制度をバンコクに再現し、より強化することを目指したのだ。

 金色のパゴダが林立する、バンコクの王宮内寺院、ワット・プラケオ(エメラルド寺院)や、ワット・アルン(暁の寺)の本堂や塔はどれも、金箔(きんぱく)や赤、緑など鮮やかなタイル、壁画でまばゆい。その曼荼羅(まんだら)に迷い込んだような極彩色は、山田長政たちが生きた王国も同じだったのではないだろうか。想像の中で、土気色の遺跡群が輝きだした。

 文・写真 森耕一

(2014年4月25日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
バンコクへは羽田、成田、中部国際空港から、タイ国際航空などが毎日直行便を運航している。アユタヤ行きのバスは、バンコクの北バスターミナル発。鉄道で行くこともできる。バンコク出発の日本語ガイドツアーも充実している。

◆問い合わせ
タイ国政府観光庁・東京オフィス=電03(3218)0355

おすすめ

豚の丸焼き
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★ゾウの背中でお散歩
タイでは古くからゾウが家畜として飼われ、アユタヤでも戦争時には乗り物として使われた。現在は観光客を背に乗せて、遺跡の中をゆっくりと歩いてくれる。思ったほど揺れない。

★屋台めぐり
バンコク市内は至る所に屋台がある。香草のパット(炒め物)やご飯、麺類、シーフードなどを1品20バーツ(1バーツ約3.15円)程度で楽しめる。路上で豚の丸焼きを切り分けてくれる豪快な店もある。バックパッカーの聖地と呼ばれるカオサン通りや、日本の飲食店の多いパッポン通り周辺の夜道を歩くだけでも楽しい。

★サイアム・ニラミット
バンコク市内に専用のハイテク劇場があり、アユタヤなどタイの王朝の移り替わりを、100人を超す踊り子が華やかに見せてくれる壮大なショー。幅35メートルの舞台には水も流れ、ゾウも登場する。日本語の字幕があるので理解しやすい。料金は1500バーツ程度。

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