【本文】

  1. トップ
  2. 旅だより
  3. 人吉市
人吉市

人吉市 熊本県 歴史遺産息づく城下町

南蛮渡来のウンスンカルタを広める立山茂さん

南蛮渡来のウンスンカルタを広める立山茂さん

 山また山。折り重なるように連なる九州山地を縫う高速道のトンネルを20いくつも抜けて、やっと盆地が開けた。熊本県南部の人吉市。日本三大急流の1つ、球磨(くま)川が町を貫き、源泉が80近くもあるせせらぎといで湯の町である。

 九州の小京都と呼ばれる趣を残す一角がある。市中心部の鍛冶屋町通り。昔ながらの鍛冶屋があった。店先に並ぶ刃物を眺めていると、店主が黙って紙に包丁の刃を当てた。紙はスパッ、スパッと切れ短冊状に。

 この鋭利さ。ただの鍛冶屋ではなさそうだ。「ご先祖は?」。主(あるじ)の簑田正次さん(70)に尋ねると「鎧(よろい)通しという短刀を作っていました」。「刀鍛冶でしたか。ところで何代目?」「私で17代。先祖は『人吉住簑田雅楽助(うたのすけ)』という刀匠で、鎌倉時代末から続いています」。買った包丁にその場で銘を刻印してくれ、びっくりの連続である。

 この通りには、大航海時代の16世紀、ポルトガル船員たちが日本に伝えた遊びが今も伝わる。南蛮カルタを起源とする「ウンスンカルタ」である。江戸時代の寛政の改革で禁止されて廃れたが、人吉盆地では鍛冶職人たちの娯楽として残ったようだ。「鍛冶屋町通りの街並み保存と活性化を計る会」の立山茂さん(60)らが消えかかったこの遊びを復興した。「本国のポルトガルでさえ消滅したこの遊び。この山里で450年間、守ってきました」と立山さん。

清流に面する相良氏の居城だった人吉城跡。城内から近年、遺構が次々と発見、復元されている

清流に面する相良氏の居城だった人吉城跡。城内から近年、遺構が次々と発見、復元されている

 鎌倉時代から明治維新まで、武将の相良氏が670年にわたり治めた人吉は、有形、無形の文化財がひっそり息づく。埋もれた遺構が近年、次々発見され、さながらタイムカプセルのよう。数年前、相良氏の居館があった人吉城の御館(みたち)跡の茂みを払うと、なんと池泉回遊式の大名庭園が現れた。城内の相良清兵衛屋敷跡からは、隠れ家のような石造の地下室遺構も出てきた。桃山時代の慶長年間に築造され、1640年のお家騒動により、重臣だった清兵衛一族は逆徒として葬られ、屋敷は壊され埋められていた。人吉城歴史館の建設の際、思いがけず発見。復元された神秘的な地下室が見学できる。

 青井阿蘇神社も人吉独自の桃山様式の豪壮美が評価され、2008年に国宝となった。本殿から楼門に至る5つの社殿は、初代人吉藩主相良長毎(ながつね)と重臣、清兵衛の発起により約400年前に造営されたものである。

 清兵衛は人吉藩の悲運のヒーローか、横暴をきわめた悪家老か。城の対岸にある温泉ホテルで、きりっとした飲み口の球磨焼酎の杯を傾けて、歴史に思いをはせていると、女将(おかみ)の有村政代さんが顔を出した。「あの地下室は、隠れキリシタンの秘密礼拝所だったのかもしれませんね」と感想を漏らすと、女将は膝を乗り出し「実は殿様の長毎はキリシタン大名であったという説が最近出ておりまして」。

桃山建築の豪壮な美を今に伝える青井阿蘇神社の楼門=いずれも熊本県人吉市で

桃山建築の豪壮な美を今に伝える青井阿蘇神社の楼門=いずれも熊本県人吉市で

 翌朝、球磨川に面した宿のベランダに出ると、朝霧の中に人吉城の石垣が浮かび、幻想的な光景が広がっていた。

 朝食を済ますと、女将が「まあ、一服を」と抹茶を勧めてくれた。茶わんは青井阿蘇神社の楼門が手描きされた特注の京焼である。人吉温泉の女将会は最近、キリシタン遺跡といわれるスポット紹介に取り組んでいる。印刷したてという「秘めたる愛の散策マップ」を手に、キリシタン禁令をくぐり抜けた歴史の痕跡を巡った。汲(く)めども尽きない歴史文化の宝庫だとつくづく思った。

 文・写真 長谷義隆

(2014年5月16日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
人吉市へは、最寄りの鹿児島空港から高速バスで約1時間、熊本市の熊本交通センターからは1時間40分。JRは肥薩線人吉駅で下車。
 
◆問い合わせ
人吉市観光案内所=電0966(22)2411、人吉市観光振興課=電0966(22)2111

おすすめ

老神神社の本殿とキリシタン灯籠球磨焼酎
(左)老神神社の本殿とキリシタン灯籠(右)球磨焼酎

★隠れキリシタン遺跡巡り
人吉温泉女将会さくら会が「新人吉キリシタン史考」や岐部明広著「戦国の女 第20代人吉城主相良長毎の妻」を参考資料に、老神神社の本殿やキリシタン灯籠、長毎ら相良家歴代が眠る願成寺などを紹介する「秘めたる愛の散策マップ」を作製。長毎夫妻にあやかって愛が成就するとPR。

★球磨焼酎
四方を山に囲まれた清流、球磨川水系がはぐくむ良質な米と水を原料に、人吉盆地には現在28の焼酎蔵がある。このうち人吉城跡に近接する繊月(せんげつ)酒造=電0966(22)3207=は無料で工場見学、代表的な「繊月」や「川辺」などを試飲できる。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

旅コラム
国内
海外