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雲仙

雲仙 長崎県 災害の教訓伝え続け

仁田峠の展望所から平成新山を望む観光客=長崎県雲仙市で

 ジグザグに折れ曲がった道を進み、木漏れ日の中を抜けると、むき出しの山肌が青空にせり出すように眼前に現れた。突起した巨大な火山岩がふぞろいに山上に転がり、火砕流が下った灰色の筋がくっきり残る。私より10歳ほど年下の、その“山”は産湯から上がったかのようにいまだに白煙を上げ、その生命力を誇示していた。

 長崎県・島原半島の中央部にそびえる雲仙岳。1990(平成2)年から96年にかけての火山活動で形成された溶岩ドームは、主峰の普賢岳の標高を124メートル押し上げた。標高1、483メートル。県内最高峰となった新しい山は、「平成新山」と命名された。

 雲仙の温泉街から、30分ほど車を走らせた仁田峠は、日本で最初に国立公園となった雲仙天草国立公園を一望できるスポットだ。展望所に上がると、丸みを帯びた平成新山の山頂部から斜面が雄大に広がり、眼下には島原市街や島原湾。訪れた日は快晴に恵まれ、天草(熊本県)の島々や遠く九重(くじゅう)連山(大分県)の山並みまで見えた。

 雲仙の花といえばツツジ。ミヤマキリシマの咲く時季からはずれたが、色とりどりの草花が散策の楽しみを豊かにする。仁田峠から、雲仙ロープウェイで3分ほど標高約1300メートルの空中散歩を楽しむと、妙見岳(1、333メートル)へ。さらに間近に平成新山の山肌も観察できる。

 島原市側から眺めると、平成新山は表情を変える。雲仙岳東側にある眉山(まゆやま)は、江戸時代に起きた「島原大変肥後迷惑」と呼ばれる噴火災害で、山体崩壊し、有明海に流れ込んだ土砂が津波を引き起こし、対岸の肥後(熊本県)にも甚大な被害を出した。平成の噴火では、逆に島原市街地を火砕流などから守る盾の役割を果たした山だ。

土石流にのみ込まれた状態で保存された家屋=長崎県島原市の土石流被災家屋保存公園で

 その眉山を通る全長約8キロの県道、通称「島原まゆやまロード」は、平成新山の尾根全体が見渡せるドライブコース。絶景の一方で、火砕流、土石流の被害に遭った地域に近く、災害の跡をまざまざと見せつけられる。下流の道の駅には、土石流にのみ込まれた状態のままで被災家屋を保存した公園もある。今も年1回程度発生する土石流などから、生活を守るための治山ダム、護岸工事など防災の取り組みも進んでいた。

1991年6月3日の火砕流の現場を再現したジオラマ。被災したカメラも展示している=長崎県島原市の雲仙岳災害記念館で

 島原市には、噴火による土石流で生じた大量の土砂を使って海岸を埋め立てた「平成町」がある。災害の教訓を風化させないため、その地に県が2002年7月に開館したのが火山体験ミュージアム「雲仙岳災害記念館」(愛称・がまだすドーム)だ。

 「がまだす」とは島原の方言で「がんばる」。フロアマネジャーの松尾慎太郎さんは、「全国から寄せられた義援金への感謝の思いも込められています」と語る。修学旅行生など年間13万~15万人の来館者を集める人気施設となっている。

 赤い光が走り抜け、火砕流の速度を体験できるガラス張りの床や、直径14メートルのドーム形のスクリーンに火砕流や土石流の映像が映し出され、床が震動したり、熱風が出たりする「平成大噴火シアター」などがあり、火山活動のダイナミズムを体感できる。報道関係者ら43人が亡くなった1991年6月3日の大火砕流の現場を再現したジオラマでは、熱で溶けたカメラなどの遺品が並ぶ。それを眺めながら、同じ報道に携わる者として「その時、自身ならどうしたか」を考えさせられた。

 世界有数の火山を擁する島原半島は2009年、国内初の「世界ジオパーク」に認定された。度重なる災害の一方で、島原の住民は、「温泉や湧き水など火山の恩恵を受け、暮らしてきた」と松尾さん。さまざまな表情を見せる雲仙岳との出合いは、地球と人間生活のかかわりを見つめ直す格好の機会となった。

 文・写真 土屋晴康

(2014年6月13日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
島原へは、新幹線博多駅からJR長崎線特急に乗り約1時間40分で諫早駅。
さらに島原鉄道に乗り換え約1時間。

◆問い合わせ
島原半島観光連盟=電0957(62)0655

おすすめ 

精進料理

具雑煮

★土石流被災家屋保存公園
道の駅「みずなし本陣ふかえ」に隣接。土石流の被害を伝えるため、被災家屋11棟を当時の状況のまま保存している。年中無休。道の駅「みずなし本陣ふかえ」=電0957(72)7222

★島原城
島原藩主だった松倉重政が築城を始め、1624年に完成。明治期に廃城となったが戦後、天守などが復元された。キリシタンや藩政時代の史料を展示する歴史資料館となっている。島原城振興協会=電0957(62)4766

★具雑煮
1637(寛永14)年の島原の乱で籠城する農民たちが、兵糧の餅に山や海の幸を入れて作ったのが起源とされる郷土料理。元祖とされるのは島原城正面にある姫松屋本店。カツオベースのだしに長崎白菜やゴボウ、レンコン、焼きアナゴなど13種類の具材を使っている。値段は店により異なるが、同店=電0957(63)7272=では980円。

★武家屋敷
旧島原城下には下級武士の武家屋敷が残る。通りの中央には、豊かな湧き水を引いた水路があり、往時の雰囲気を今に伝える。島原温泉観光協会=電0957(62)3986

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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