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知覧

知覧 鹿児島県 特攻隊員の思い伝える

生け垣や石垣が美しい知覧武家屋敷庭園群

生け垣や石垣が美しい知覧武家屋敷庭園群

 山手には茶畑、平野部にはサツマイモ畑が広がる、山あいの田舎町。旧日本陸軍、九州最南端の特攻基地があった鹿児島県南九州市知覧町を訪ねた。
 
 薩摩の小京都ともいわれる知覧には、武家屋敷庭園群があり、美しい石垣や生け垣が残る。庭園のうち7カ所は国の名勝で一般公開されている。屋敷は防備に主眼を置いた造り。そのせいか庭園の様式は、大半が枯れ山水。西郷恵一郎庭園は、イヌマキと大きな岩で遠くの連山を表現していた。

復元展示されている戦闘機「隼」

復元展示されている戦闘機「隼」

 町の南はずれにあった特攻基地の跡地には1987(昭和62)年2月、知覧特攻平和会館が完成し、戦後70年近くが経過した今も年間60万人前後が訪れている。館内には、連合国軍を相手にした沖縄特攻で亡くなった1036人の遺影と遺書などが展示されていた。ほとんどが10代後半から20代の若者。死も覚悟した精悍(せいかん)な面構えは、実年齢よりも上に見えた。
 
 特攻は、敗色濃厚となった太平洋戦争の末期、爆弾を装填(そうてん)した飛行機もろとも敵艦に体当たりする戦法として導入された。陸海軍で、それぞれ特別攻撃隊が編成され計5852人が戦死。知覧からは439人が出撃した。厳しい戦局だったこともあり、遺書には「轟沈(ごうちん)」「不惜身命」など、勇ましい言葉もあったが、父母や家族に感謝し、日本の行く末を案じるものが多かった。大切な人や祖国を守るため、今が盛りの命を捨てての出撃。涙なくして読むことはできなかった。

 会館の敷地内には、戦闘機「隼(はやぶさ)」や、隊員たちが寝起きした三角兵舎などが復元展示され、当時の様子を垣間見ることができる。2本あった滑走路は、公園や住宅地に姿を変え、その面影はなかったが、約3キロ離れた町中に戦時中の名残をとどめる場所があった。
 

鳥浜トメさんが特攻隊員の世話をしていた富屋食堂は復元され、ホタル館に生まれ変わった=いずれも鹿児島県南九州市知覧町で

鳥浜トメさんが特攻隊員の世話をしていた富屋食堂は復元され、ホタル館に生まれ変わった=いずれも鹿児島県南九州市知覧町で

 それは「特攻小母(おば)さん」として知られる鳥浜トメさん=92年に89歳で死去=が経営していた富屋食堂を復元した「ホタル館」。隣には、訪ねてくる遺族を泊めるために戦後、トメさんが始めた富屋旅館がある。トメさんは、出撃前の隊員をいたわり、食事の世話を続けた。戦死した宮川三郎軍曹が「明日、ホタルになって帰る」と言い残して出撃すると、その言葉通り、ホタルが食堂に現れたのだという。そんな逸話もあり、生き残った特攻隊員と余命いくばくもない妻との夫婦愛を描いた映画「ホタル」のモデルにもなった。
 
 トメさんは、「家族や同僚をいたわる心を失わず、心ならずも死んでいった若者と、その思いを忘れてはならない。そして二度と戦争をしてはならない」と死ぬ寸前まで、隊員の慰霊と若い世代への口承を続けた。
 
 トメさんの死後、口承を引き継いだ孫も亡くなり、現在は孫の妻初代さん(54)が、富屋旅館の宿泊者のうち、希望者にトメさんの思いや言葉を伝えている。「相手を思い合えば戦争は起きない」「特攻隊員たちが、どのような世の中を望み、逝ったのかを知ってほしい」「命があるのは、やるべき何かがあるから」「あなたは、お世話になった人の命日を知っていますか」-。初代さんの語り口は優しいのだが、問い掛けられるたびに動揺が走った。
 
 1時間ほどの話を聞いた後、お礼を述べると、初代さんは「(聞く人にトメさんの)思いを受けとめる力がないと、こうしたことも受け継がれません」-。折しも、内閣では戦争につながりかねない集団的自衛権の問題が取り沙汰されていて、平和の尊さ、わが国の進むべき道を考えさせられた。
 
 文・写真 富永賢治
 
(2014年7月11日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
知覧へは、鹿児島空港からJR鹿児島中央駅バスターミナルまでバスで約40分、さらにバスで約1時間20分。
有料道路・指宿スカイライン経由だと、鹿児島空港から車で約1時間20分、鹿児島中央駅から約1時間。
喜入駅からはバスで約15分。

◆問い合わせ
南九州市商工観光課=電0993(83)2511

おすすめ 

殿様御膳

殿様御膳

★知覧特攻平和会館
開館時間は午前9時から午後5時。年中無休。入館料は大人500円、小中学生300円。電0993(83)2525
 
★ホタル館
鳥浜トメさんの生涯と特攻隊員とのふれあいの遺品などを紹介している。開館時間は午前9時から午後5時。入館料は大人400円、小中学生300円。年中無休。電0993(58)7566
 
★知覧武家屋敷庭園群
美しい生け垣と石垣の武家屋敷が残り、18.6ヘクタールが国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。国名勝の7庭園を公開。拝観料は大人500円、小中学生300円。
 
★知覧郷土料理
薩摩知覧武家屋敷「高城庵(たきあん)」では、地元の伝統料理が味わえる。殿様御膳は鶏肉の刺し身、豚骨のことこと煮、酒すしなど12品と抹茶などが付いて3240円。昼食だけの営業で、定休日は1月9日のみ。電0993(83)3186

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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