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米沢・山形

米沢・山形 山形県 鷹山公の情熱 脈々と

上杉謙信由来の軍旗がなびく上杉神社=山形県米沢市で

上杉謙信由来の軍旗がなびく上杉神社=山形県米沢市で

 山形路の旅は米沢から始まった。本来は財宝神だが、戦いの神でもある毘沙門天(びしゃもんてん)を信奉した戦国武将、上杉謙信をまつる山形県米沢市の上杉神社へ向かい、正面の鳥居前でバスを降りると、前方に「毘」の旗が風になびいていた。

 もともとは米沢城があったところ。本殿へ向かう途中、名君として名高い第9代米沢藩主、上杉鷹山(ようざん)公(1751~1822年)の銅像があった。

 出迎えてくれたのは、地元のボランティアガイド藤木幹雄さん(74)。「駐日米国大使のキャロライン・ケネディさんが、『父(ケネディ元米大統領)は鷹山公を政治家として尊敬していました』と、言ってくれたんです。市民は大喜び。『ぜひ米沢に来て』と盛り上がっています」とうれしそうに話した。

 「為(な)せば成る 為さねば成らぬ何事も 成らぬは人の為さぬなりけり」の名言を残した鷹山公は、破綻状態にあった米沢藩の財政を、長年に及ぶ倹約と殖産興業で立て直した。

参拝客を見守るように立つ上杉鷹山公像=同県米沢市で

参拝客を見守るように立つ上杉鷹山公像=同県米沢市で

 飢饉(ききん)に備えて食べられる山野草の周知を図り、有事の際は藩士、領民の区分けなく平等に食料を配給。殿様の権力による改革だけでなく、家臣の意見にも耳を傾け、倹約は自らが率先して模範を示した。さらに財政再建を通して、良き地域社会づくりにも取り組んだ。今でも多くの市民が鷹山公を慕い、呼び捨てにしない理由は、そんなところにあるのかもしれない。

 上杉神社の堀には、体長数十センチのコイがたくさん泳いでいた。鷹山公は、タンパク源となるコイの養殖や、凶作時に非常食となるウコギを垣根とするよう家臣や領民に奨励した。神社入り口の売店でウコギの苗木を眺めていると「春先の新芽を摘んで、おひたしにするんです」と女性店員が教えてくれた。神社の隣にある豪華な造りの上杉伯爵邸は、記念館に姿を変え、史料展示のほか、郷土料理「うこぎご飯」などを提供している。

 米沢市郊外の山手に位置する笹野地区は、古くから観音信仰が盛んで木彫りのお守りを作る伝統があった。そこで鷹山公は、農閑期の副業として「笹野一刀彫」の普及にも力を注いだ。サルキリと呼ばれる刃物で彫られた作品は、土産だけでなく新築祝いや結婚の記念品として使われ、今も米沢を代表する民芸品だ。

慣れた手つきで絨毯を織る女性=同県山辺町で

慣れた手つきで絨毯を織る女性=同県山辺町で

 翌日は、山形市に入った。昭和初期の金融恐慌と米の凶作は、米どころのこの地域にも深刻な打撃を与え「子女の身売り」など悲しい歴史を残した。

 1935(昭和10)年、この状況を見かねた男が立ち上がった。高級絨毯(じゅうたん)メーカー「オリエンタルカーペット」(同県山辺町)の創業者、同町の渡辺順之助さん(故人)である。家業の木綿織物部門を任されていた順之助さんは、きょうだいとともに緞通(だんつう)の本場・中国から技術者を招き、その数年後に高級絨毯の製造を始めた。今では世界的なメーカーとなり皇居やバチカン宮殿などに納入している。孫で現社長の渡辺博明さん(53)は「よい収入を得られる女性の働き場がなかった。それをなんとかしたい-というのが祖父の思いでした」と話す。

 高級絨毯製造の要となる手織り作業は、昔も今も女性が中心だ。工場内を見せていただくと、白い糸を縦に張った織架台の前で女性たちがせわしく手を動かしていた。方眼紙に描いた原寸大の設計図をもとに、頭上から垂れ下がる糸を巧みに操り、少しずつ織り上げていく。辺りには、「シュッ、シュッ」と糸が擦れ合う音。順之助さんの情熱を受け継ぎ、作業する女性たちは、生き生きとしていた。

 文・写真 伊藤楠生

(2014年8月15日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
米沢市へは、JR東京駅から山形新幹線で約2時間15分、
上杉神社へはJR米沢駅からバスで約10分。
オリエンタルカーペットはJR山形駅から車で約20分。

◆問い合わせ
やまがた観光情報センター=電023(647)2333

おすすめ

★上杉伯爵邸
米沢城の二の丸跡に1896(明治29)年、上杉家14代当主、茂憲伯爵の本邸として建てられ、1919年の火災のあと再建された。
総ヒノキ入り母屋造り。観光客に郷土料理や米沢牛ステーキなどを提供。
お殿様気分が味わえると評判の「献膳料理」(2160円)も。
予約客優先。電0238(21)5121

ブリキのおもちゃや映画ポスターの展示
ブリキのおもちゃや映画ポスターの展示

★酒造資料館「東光の酒蔵」
1597(慶長2)年に創業された元米沢藩御用酒屋で小嶋総本店が運営。
古い酒蔵を復元して酒造りの様子や道具などを展示している。
入館料は大人310円、中高校生210円。電0238(21)6601

★昭和縁結び通り
山形県の東南部に位置する高畠町にある。
過疎化対策の一環として街全体を昭和ミニ資料館に変身させた。
主役はみんなで持ち寄った懐かしの品々。
昭和30年代の茶の間の再現、ブリキのおもちゃや映画ポスターの展示などがある。
問い合わせは同通り振興会長の高橋正人さん=電080(1834)8350=へ。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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