【本文】

  1. トップ
  2. 旅だより
  3. 与路島
与路島

与路島 鹿児島県瀬戸内町 漂う芳香 楽園の一夜

明け方に花を落とすサガリバナ。右下の一輪は落花の瞬間=鹿児島県瀬戸内町の与路島で

明け方に花を落とすサガリバナ。右下の一輪は落花の瞬間=鹿児島県瀬戸内町の与路島で

 10数年来あこがれていた、芳香を放つ一夜限りの花「サガリバナ」に、ようやく出合えた。

 熱帯から亜熱帯地域にかけて分布するこの植物の国内での北限地、鹿児島県の奄美群島を目指した。行き先は、奄美大島のやや南に位置する周囲20キロほどの小島。同県瀬戸内町の与路島(よろじま)だ。

 7月中旬の夕刻に到着し3日間滞在した。初日は早速、サガリバナの状況を見に群生地へ。港から歩いて行ける群生地が数カ所あった。夕方でも太陽はまだ高く、ギラギラした強い日差しが照りつける。例年なら花盛りのはずなのだが、ことしは6月までの気温が低く、地元の人に聞くと「まだ花を見ないよ」とのことだった。

 「来るのが早かったか」と半ば、あきらめかけていた。ところが日が落ちると、白やピンクで彩られたかれんな花が一輪、二輪と咲き始め、これが今夏の開花の始まりだった。何という幸運なのだろうか。感動のなか明け方まで、ほぼ徹夜で花と向き合った。

 サガリバナは、高さ3~5メートルほどの常緑樹。国内では奄美大島以南のマングローブの後背地や川沿いの湿地に生育する。花は、枝垂れ梅や桜のような花軸を30~50センチほど伸ばし、ピンポン球よりやや小さい丸いつぼみが房状に垂れ下がっている。フジの花に似た形状と水辺に育つことから「サワフジ」とも呼ばれる。

 その花は、一本の赤い雌しべが、羽毛のようにフワフワした200本ほどの雄しべを従える。それを花弁が取り巻く優雅な姿に見とれていると、いつしか、辺りにかぐわしい香りが漂っていた。ランさながらの気品ある甘さに加え、ツバキ油に似た自己主張の強い香りも混じる。そこへ蝶(ちょう)やハチが集まってくる。「一夜で終わるからこそ、受粉のチャンスづくりに一生懸命なんだ」と妙に納得した。

 毎年、サガリバナの開花を楽しみにしているという地元の婦人は「台風の直撃を受け、つぼみが傷んだのかなあ…。ことしの花は小ぶり。いつもなら8月までが見頃で、咲きっぷりも勢いがあって、それは見事」と話した。明け方になると、花は付け根からガクッと首を折るようにして、次々と落ちていった。民宿のおかみさんは「夕方の船で来て花を観賞。翌朝の船で帰るお客さんもいる」と教えてくれた。

 サガリバナは近年、観光の領域で脚光を浴び、マングローブ帯に咲く沖縄県の西表島では、花を観賞するカヌーツアーが人気だ。人口100人余りの与路島では、農道沿いに約100メートルも続くサガリバナの並木があり、もっと、お手軽に観賞できる。また、夜から明け方までの“サガリバナの一生”を、間近で見届けることもできる。

南国の青い海に心いやされる砂浜=鹿児島県瀬戸内町の与路島で

南国の青い海に心いやされる砂浜=鹿児島県瀬戸内町の与路島で

 南国の楽園・与路島の海辺には、サンゴ礁とコバルトブルーの澄んだ太平洋が広がる。潜ると、南国らしく色とりどりの魚たちが泳ぎ、砂浜には産卵のために上陸したウミガメの足跡が点々と残されていた。

 ほかにも誇れるものがある。それは民家の周囲に積み上げられたサンゴの石垣。台風などの強い風を防ぎ、夏場は隙間から風を通し涼を呼ぶ。生け垣と組み合わせた眺めは味わいがあり、国内の島々の貴重な景観の中から選んだ「島の宝100景」にも含まれる。

サンゴの石垣が残る街並み=鹿児島県瀬戸内町の与路島で

サンゴの石垣が残る街並み=鹿児島県瀬戸内町の与路島で

 それは美しい花なのだが、サガリバナは夜にしか咲かないので、夜行性のハブへの注意が必要。台風などの荒天時は、定期船も欠航するので余裕のある旅程をお勧めする。

 文・石原俊洋

 写真・隈崎稔樹

(2014年8月22日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
与路島へは、奄美大島から入る。奄美空港への直行便は、羽田、伊丹、福岡、鹿児島、沖縄の各空港から。成田-奄美間は毎日1往復。

奄美大島から与路島へ渡る定期船「せとなみ」は、奄美空港から南へ約70キロの古仁屋(こにや)港から出ている。古仁屋-与路間は約2時間。大人片道1030円。

◆問い合わせ
瀬戸内町観光物産協会=電0997(72)4567、同町まちづくり観光課=電0997(72)1115

おすすめ

特注丼

特注丼

★日本一のマグロ養殖
奄美大島と向かいの加計呂麻島(かけろまじま)間は大島海峡と呼ばれ、清浄な海水に恵まれてクロマグロ(本マグロ)の養殖規模が国内最大。“マグロづくし”を提供する店が何軒かあり、定期船「せとなみ」が発着する古仁屋港わきの「せとうち海の駅 シーフードレストラン」では、本まぐろ丼が食べられる。地魚を盛った海鮮丼にマグロを載せた特注丼は1600円。

★加計呂麻島
名所、史跡が多く映画・寅さんシリーズ最終回のロケ地ともなった。「死の棘(とげ)」で有名な作家島尾敏雄の文学碑や戦跡もある。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

旅コラム
国内
海外