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八千穂高原

八千穂高原 長野県 苔の森に癒やし求めて

池のほとりに立つ青苔荘

池のほとりに立つ青苔荘

 静かに水をたたえる白駒池。ほとりの山小屋・青苔(せいたい)荘を出発し、池を囲むように敷かれた木道を歩く。木漏れ日の中で、鳥のさえずりが遠くで聞こえる。耳を澄まして歩いていると、目の前に緑のじゅうたんのような苔(こけ)の森が現れた。「もののけの森」だ。木々の根や岩の上に苔が生え、緑の林床がまるで波打つかのようだ。

根や岩で波打つかのような林床の「もののけの森」。足を踏み入れることのできない神々しさがある

根や岩で波打つかのような林床の「もののけの森」。足を踏み入れることのできない神々しさがある

 長野県の北八ケ岳にはコメツガやシラビソなどの広大な原生林が広がり、手付かずの自然が残る。中央道・諏訪インターチェンジ(IC)から車でおよそ1時間。標高2000メートルを超える八千穂高原は北八ケ岳の東麓に位置し、いくつもの天然湖が点在して彩りを添えている。高原には、スキー場はもちろん、自然園もある。登山愛好家だったら、八柱山(2,114メートル)に挑んでみるのもいい。

 今回の目的は「もののけの森」、そして「地獄谷」の池を訪れることだ。山歩きとともに、近年は癒やしを求めて、苔も人気が高まっている。カメラとルーペを手に観察会に参加した。観察会は、池の周辺の4つの山小屋などでつくる「北八ケ岳苔の会」の主催で、毎年6月から10月にかけて、研究者を講師に招き、開催している。

 「セイタカスギゴケは最大20センチになる日本で最大のスギゴケです。登山道を歩いていると、脇でよく見かけます」。講師の国立科学博物館(東京)の陸上植物研究グループ長の樋口正信さん(59)が、特徴を説明してくれる。イワダレゴケ、ムツデチョウチンゴケなど高山に生育する代表的な苔をひとつひとつルーペでのぞき、撮影する。

 苔は国内で約1800種が生育しているとされ、そのうち約500種が八ケ岳全域で確認され、国内で七番目の「日本の貴重なコケの森」に認定されている。森には「もののけの森」のほか、「白駒の森」「ヤマネの森」「茶水(ちゃすい)の森」などの名前が付けられている。

高く真っすぐに伸びた白樺の林=いずれも長野県の八千穂高原で

高く真っすぐに伸びた白樺の林=いずれも長野県の八千穂高原で

 もののけの森を出て、次の目的地「地獄谷」に向かう。メルヘン街道(国道299号)に出て、茶水池を渡り、森の中の木道を歩き、高く伸びたササ原を抜ける。獣害防止柵を越えると、木々の間からすり鉢状の谷、そして谷底には、丸い池が見える。

 ロープを伝い、足元を確かめながら、急斜面を下りる。苔に覆われた谷底からは、冷気が漂う。底は見えないが、水深数メートルはありそうだ。黄や緑色の苔を映し出した水面は神秘的だ。

 実はこの池は常に存在しているわけではない。雪や雨の量によって現れたり、消えたりしている。国土地理院の地図にも池の表示はなく、正式な名称もない。近くの山小屋「麦草ヒュッテ」の島立正広さん(57)によると、「谷は噴火口跡で、谷底の気温は夏でも0度、氷が張っていることがある」と言う。

 高原のもうひとつの見どころは、白樺(しらかば)の林だ。八千穂高原自然園に車を走らせる。この一帯には日本一美しいといわれる白樺の群生地がある。駐車場に車を止め、白樺に囲まれた歩道を歩く。予想外に太く、高い木々に驚く。真っすぐに伸びた美しく白い林の間にたたずみ、深く息を吸い込むと、身も心も清められていくようだ。すがすがしい気持ちで林を後にした。

 文・写真 古庄英輔

(2014年9月19日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
八千穂高原の白駒池入口へは、JR佐久平駅から麦草峠行きバスで約1時間45分(1日1便)。八千穂駅からは約1時間(1日2便)。いずれも不定期。車は中央道・諏訪ICから約1時間、中部横断道・佐久南ICから約1時間10分。

◆問い合わせ
佐久穂町観光協会=電0267(88)3956

おすすめ 

天ざるそば

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★八千穂高原自然園
28ヘクタールの園内に豊かな自然が広がる。ツツジと白樺の群生地、白樺林を楽しめる遊歩道がある。開園時期は4月下旬~11月上旬。入園料大人300円、子ども150円。電0267(88)3956

★奥村土牛記念美術館
現代日本画壇に足跡を残した奥村土牛(とぎゅう)(1889~1990年)が佐久地域で描いた作品など200点以上を所蔵し常時45点ほどを展示。月曜(祝日の場合は翌日)休館。入館料大人500円、小中学生300円。電0267(88)3881

★お食事処 そば家
自家栽培の野菜など地場産の食材にこだわる。そば、うどんはもちろん自家製。季節により野菜やキノコ、川魚もメニューに並ぶ。お薦めは旬の野菜などの天ぷらがついた天ざるそば(1340円)。水曜定休。電0267(88)3254

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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