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甑島列島

甑島列島 鹿児島県 貴重なカノコユリ群生

絶滅危惧種のカノコユリ。甑島列島は自生密度がもっとも高いといわれる

絶滅危惧種のカノコユリ。甑島列島は自生密度がもっとも高いといわれる

 かつて東京からの「時間距離」がもっとも遠いといわれたスポットの一つが、九州西南端の鹿児島沖に浮かぶ甑島(こしきしま)列島。「甑」(米などを蒸す土器)という島名が長く気にかかっていたが今春、新しい高速船が就航したと聞いて訪れてみた。

 九州新幹線川内(せんだい)駅から川内港までシャトルバスを利用し、川内港ターミナルから新造船「甑島」に乗り込んだ。

 出航してほどなく、前方にうっすらと島影が見え始め、グングンと大きくなる。間近に上甑島をとらえると、鹿(か)の子(こ)大橋、中甑島、藺牟田(いむた)瀬戸、下甑島と、列島の東海岸を右手に眺めながら、1時間余で長浜港に着岸した。

 甑島列島は、有人三島と多数の無人島からなり、長さ38キロ、幅10キロ、総面積は山手線の内側2つ分程度。戦後間もないころは2万5000人近い人口を数えたが、現在は約5500人と減った。交通が不便なため訪れる人も少なく、知る人ぞ知る「孤島」だった。離島医療に情熱を注ぐ医師を描いた漫画「Dr.コトー診療所」のモデルの島として知られるようになったのは、21世紀に入ってからだ。

 上陸すると早速、ふるさと案内人の蔵野量夫(かずお)さん(53)の先導で、全国でも甑島列島にだけ群生しているという絶滅危惧種のカノコユリを探しに出かけた。

 「下甑島では、7月中旬から9月中旬まで、必ずどこかで咲いている」と強調するとおり、「鹿の子絞り」の模様が入った紅色の花が、道路沿いに点々と現れた。さらに、下甑島北端の夜萩円山(よはぎまるやま)公園まで行くと、急斜面に自生するカノコユリの群落を発見。幻といわれる花畑を目の当たりにした。

夕日に染まる鹿島断崖。地層はむき出しで高さは200メートルもある

夕日に染まる鹿島断崖。地層はむき出しで高さは200メートルもある

 ツバキ、キブシ、スミレ、ニシノハマカンゾウ(ワスレグサ)、ノギク、ツワブキと、1年を通じて花が絶えることのない「花の島」でもある。

 海抜160メートル余の展望台に立つと、8000万年前までさかのぼる地層が重なる断崖絶壁や奇岩が続く西海岸を一望できる。ほどなく、太古の歴史を刻む鹿島断崖を、東シナ海に沈む夕日が赤く染めた。

瀬尾川上流の3段に落ちる瀬尾観音三滝=いずれも鹿児島県の下甑島で

瀬尾川上流の3段に落ちる瀬尾観音三滝=いずれも鹿児島県の下甑島で

 翌朝は、定置網の網揚げを体験するため、暗いうちに青瀬港へ。2隻の漁船が、沖に仕掛けた網を囲い込むように少しずつ引き上げていくと、ムロアジ、サワラなどさまざまな魚が海面近くに浮上、すかさず柄のついた網で次々にすくいあげる。たまたま迷い込んだ2頭のウミガメはリリースし、浜に戻った。

 揚がったばかりの魚をさばいて朝食。食べきれないほどの山盛りの刺し身と大鍋で煮込んだ具だくさんのみそ汁は、現地に行かないと味わえない特別メニューだ。

 「定置網漁と漁師料理を味わう体験ツアーを、観光の目玉に仕立てたい」と、薩摩川内市観光物産協会の木佐貫大輔こしきしま事業部長(37)は想を練る。

 各島内には、砂州が延びた長目の浜、奇岩「ナポレオン岩」、3段に落ちる瀬尾(せび)観音三滝、玉石垣が並ぶ武家屋敷通りなど、見どころは多い。2017年度に中甑島と下甑島を結ぶ橋が完成すると、3つの島が陸路でつながり「島は一つ」になる。利便性が高まれば、島旅の魅力は増すに違いない。

 肝心の島名は、中甑島にある「甑」の形をした巨石を「甑大明神」として拝んだことに由来すると知り、手つかずの自然と温かい人情が染み入る島を後にした。
 
 文・写真 水野泰志

(2014年10月10日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
羽田空港から鹿児島空港まで約1時間45分。
JR川内駅まで、空港バスで約1時間10分。
新幹線なら東京から約6時間30分。川内港へはシャトルバス25分。
高速船は上甑島・里まで約40分、下甑島・長浜まで約1時間10分。

◆問い合わせ
薩摩川内市観光物産協会=電0996(25)4700

おすすめ

タカエビ

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★断崖クルーズ
下甑島西海岸一帯で、海中から垂直に立ち上がる断崖を海面すれすれから見上げる。
天候が良ければ断崖のはざまの洞窟探検も。乗船料は上甑島発が大人2500円。
電09969(2)0001。
下甑島発は同2000円。電09969(7)0481

★タカエビ
甘エビをひと回り大きくしたサイズで「薩摩甘エビ」とも呼ばれる。
甘みとうまみがあり、刺し身でも塩焼きでも美味。
春と秋が漁期で、島内に宿泊すれば食膳に並ぶ。
おみやげなら、長浜港の「幸栄まる」で冷凍パック300円から。

薩摩藩英国留学生記念館

薩摩藩英国留学生記念館

★薩摩藩英国留学生記念館
幕末に国禁を破って薩摩藩が英国に送り出した留学生出航の地に、7月に開館した。
留学生は明治を代表する政治家や経済人として活躍した。
車で川内駅から約40分、串木野駅から約20分。火曜(祝日の場合翌日)休館。
入館料大人300円。電0996(35)1865

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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