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南部曲屋

南部曲屋 青森県七戸町 馬とともに生きる里

ゴールを目指す人馬。大会の名前が示す通りに馬力の見せどころだ=青森県七戸町で

ゴールを目指す人馬。大会の名前が示す通りに馬力の見せどころだ=青森県七戸町で

 馬ふんのにおいが恋しくなった。書店で手にした本で見つけた「南部曲屋(まがりや)」の名前に誘われ、青森県七戸町へ飛んだ。

 勤務する北陸から飛行機などを乗り継いで約6時間。在来線の列車でのんびり揺られていたいが本日、この時間にしか見られない行事がある。馬力大会というのだそうだ。旅情よりも大会に間に合う速さを優先した。

 東北新幹線の七戸十和田駅で降り、観光案内所へ。駅レンタカーの布施まゆみさん(44)が「無料で電動自転車を借りられますよ」と教えてくれた。初めて乗る。ペダルを踏むと後ろから押してもらう感覚がある。浮かれ気分で青森県家畜市場へ急いだ。馬のにおいとともに、「午前の部を終わります」との放送が聞こえた。ならば午後もあるということだ。間に合った。運動会の昼休みのような楽しげな場所に入り込んだ。

 レースが始まった。ポニーや農耕馬が人を乗せたそりを引き、小山を越えて下ってくる。むちを当てる音がペチペチ聞こえる。優勝した芦毛(あしげ)のポニー「シロ」と一緒に帰ってきた久保まな美さん(26)に祝福の声がかかる。同県六ケ所村から来たという。賞金は出ないが、賞品の洗濯機が馬を運ぶ車の奥に積まれた。「うれしいというより、頑張ってくれたねという気持ちです」。父藤孝さん(60)の「オーノトップ」も別の部門で優勝したが、北海道のばんえい競馬へ行くため、きょうでお別れ。「朝から泣いています」とまな美さん。目が赤い。大会は農耕馬の自慢から始まり、年2回ある。

曲屋の近くに放牧されるサラブレッド。ゆったりと草をはんでいた=青森県七戸町で

曲屋の近くに放牧されるサラブレッド。ゆったりと草をはんでいた=青森県七戸町で

 電動自転車の旅2日目。南部曲屋を目指した。かつてダービー馬を出した旧盛田牧場。母屋と馬屋(うまや)をL字形に配し、人と馬がひとつ屋根の下で暮らした。明治時代に建てられ、国の登録有形文化財になっている。現在は肉牛を飼養する金子ファームが運営し「ハッピーファーム」と名前を変えた。搾りたての牛乳で作るジェラートが人気。家族連れの車が途切れることなく砂煙を上げて訪れる。今も残る茅葺(かやぶ)き屋根が語る栄枯盛衰。ダービー馬が生まれた瞬間の牧場の歓声を想像してみた。

 美術館へ行ったり、廃線になった南部縦貫鉄道の旧七戸駅を訪ねたりしながら3度、4度と牧場へ戻った。午後5時の少し前、馬が勢いよく走っていた。世話をする塚尾誠子さん(65)の軽トラックのエンジン音を聞き付けて「早く帰ろう」とはしゃいでいるのだそうだ。「人も馬も同じで帰りたいんだね。かわいいもんだよ」と塚尾さんが笑顔を向けた。今は体調を崩している夫勝安さん(70)とともに盛田牧場の時代から働いている。当時を知る人に出会えたことがうれしい。

青い空と青い海。浜辺で小学生たちが追いかけっこをしていた=青森県八戸市の種差海岸で

青い空と青い海。浜辺で小学生たちが追いかけっこをしていた=青森県八戸市の種差海岸で

 3日目はレンタカーで同県八戸市の種差海岸を目指した。海に面した芝生広場で、小学生が先生と追いかけっこをしていた。果てしなく逃げられそうな広さ。けれど捕まえてほしそうに戻ってくる、見守る、周りの視線が優しかった。

 最後の夜。JR八戸駅近くの居酒屋「天竜」に入った。八戸港で水揚げされたイカの刺し身を注文して手酌酒。すると思いがけない差し入れがあった。「つけて食べるとおいしいよ」。こうじとしょうゆ、唐辛子などで作った特製のみそ。目を向けるとテーブルに手招きを受けた。ローカル線「青い森鉄道」に勤める客の川又優さんたちだった。来店者があるたびに、「持っていけ」と若者に目配せしていた。切り盛りする女性が言う。「人と人の付き合いを忘れちゃなんねえ」。おいしいものと人との出会いと-。味わいたかった時間が最後に訪れて、心残りは消え、夜は更けた。

 文・写真 小塚泉

(2014年10月17日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
七戸町へは、東北新幹線・七戸十和田駅で下車。
青森空港からは、車で約1時間20分。
車は東北道・安代JCT経由で八戸道へ入り、
下田百石ICから国道4号を青森市方面へ約40分。

◆問い合わせ
七戸町商工観光課=電0176(62)2137、
種差海岸インフォメーションセンター=電0178(51)8500

おすすめ

旧南部縦貫鉄道・七戸駅

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★旧南部縦貫鉄道・七戸駅
旅客輸送に使われていたレールバス「キハ101」と「キハ102」などを展示している。
入場無料。土、日曜のみ駅構内を見学できる。
平日、祝日は7日前までの事前予約が必要。
申し込みは、平日に七戸町観光協会=電0176(58)7109=へ。

★ハッピーファームのジェラート
ファーム内のNAMIKI(ナミキ)で販売。
飼育しているジャージー牛の搾りたての牛乳で毎朝、スタッフが、
その日の分だけ手作りしている。
ジャージーミルクやチーズ、ブルーベリー、トマトなど10種類以上ある。
1種類のシングル250円、2種類のダブルは300円。電0176(62)2646

ハッピーファームのジェラート

ハッピーファームのジェラート

★パワースポット巡り
七戸町が「願いかなう絵馬の町」として勧めている。
書店や美術館など12カ所で販売している絵馬に願い事を書き、
身体安全や学業成就など御利益に合った神社に参拝して奉納する。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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