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高松

高松 香川県 街に息づくモダニズム

日本の伝統建築をコンクリートで体現した、戦後のモダニズム建築を代表する香川県庁舎東館

日本の伝統建築をコンクリートで体現した、戦後のモダニズム建築を代表する香川県庁舎東館

 コンクリートがむき出しの巨大な建物に、日本建築の美が息づく。コンクリートは威圧的でエゴイスティックな素材と思っていたが、それを感じさせない開放感に満ちた空間が広がっていた。

 高松市内にある香川県庁舎東館。世界的に知られる建築家の丹下健三(たんげけんぞう)(1913~2005年)の設計で、1958年に完成した戦後のモダニズム建築を代表する建物だ。外観で目を引くのは、深いひさしとそれを支える数多くの梁(はり)。寺社建築の様式美を思わせ、全体に軽快感を与えている。「県民に開かれた空間として造られた建物です」という、県財産経営課の松本秀さん(49)が内部を案内してくれた。

 1階ロビーの大空間に入ってみて、なるほどと思った。全面ガラス張り。同県出身の洋画家、猪熊弦一郎(いのくまげんいちろう)(1902~93年)の陶板壁画が中心部の耐震壁を飾る。建物のためにデザインされたベンチに腰掛けて屋外の庭園に視線を向けると、古都の名刹(めいさつ)にいるような感覚に。起伏のある庭園は、子どもたちの遊び場にもなっている。

 「民主主義時代の県庁としてふさわしいこと」。当時の金子正則知事が示した条件に、丹下は伝統を大胆に解釈して答えを導いた。香川県庁舎の経験を、丹下は著書で次のように記している。「伝統を創造に導くためには、伝統を否定し、その形式化を阻止する新しいエネルギーがそこに参加しなければならない」。強靱(きょうじん)なコンクリートと戦後復興にまい進する民衆に、丹下は「新しいエネルギー」を見て取ったのだろう。

 松本さんによると、近年、建築や美術を学ぶ若者の見学が増えているという。丹下建築は世代を超えて人々を引き付けている。

県民の憩いの場にもなっている、明るく開放的な香川県庁舎東館1階ロビー

県民の憩いの場にもなっている、明るく開放的な香川県庁舎東館1階ロビー
ジョージ ナカシマ記念館に展示されている、ジョージ・ナカシマゆかりのビンテージ家具=いずれも高松市内で

ジョージ ナカシマ記念館に展示されている、ジョージ・ナカシマゆかりのビンテージ家具=いずれも高松市内で

 日本建築の木工技術を生かしたモダンデザインの巨匠の家具を製作している工房が高松市牟礼町にある。市中心部から、高松琴平電鉄志度線の電車に揺られて30分ほど。国道の騒音を遮るように立つ木々の向こうに、桜製作所の「ジョージ ナカシマ記念館」がしんとたたずんでいた。

 日系米国人のジョージ・ナカシマ(1905~90年)は、ワシントン大とマサチューセッツ工科大で建築を修めた。その俊英が最終的に選んだ仕事は「ウッドワーカー(木匠)」。木工技術を習得して家具製作の道に入り、来日した64年に縁あって桜製作所と出合った。

 「ナカシマさんは木が語りかけてくることを聞き、その本分をまっとうさせようとしていました」と、永見眞一(ながみしんいち)会長(90)は語る。「本分をまっとうさせる」というのは、木の美しさを最大限に引き出すこと。

 特にナカシマは、その美しさを長年の風雪にさらされてできた割れや節、瘤(こぶ)、ひずみによる年輪や木肌の複雑なラインに見いだした。このような木はゆがみが出やすく、家具材には本来適さないが、唯一無二の個性を生かそうと、木取りの仕方や割れを防ぐ契りの位置、木組みの方法を追求。その1つ1つが優れた意匠となり、家具はアートへと昇華した。記念館にはナカシマが直接手がけた家具が多数展示されている。木と誠実に向き合った賢者の姿が重なって見えた。

 ナカシマの理念を引き継ぎ、その家具を製作できるのは、米国で長女が営む工房と桜製作所の2カ所のみ。永見さんは体力の続く限り仕事場に立ち、「木の声」に耳を傾け、思索を深める。「ナカシマさんだったら、どうするだろうか」と。そうして費やされた濃密な時間が、1度死んだ木に、第2の命を与える。

 文・写真 林勝

(2014年10月31日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
高松市へは、新幹線で岡山駅まで行き、
岡山-高松間を約1時間で結ぶ快速列車マリンライナーを利用するのが便利。
羽田空港からは高松便もある。

◆問い合わせ
香川県観光協会=電087(832)3377

おすすめ

ハマチのづけ丼、ハマチの照り焼き

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★香川県庁舎東館見学
香川県は今秋から県庁舎東館の文化的価値をPRするため、
庁舎内外をめぐる1時間程度のガイドツアーを開始。
5~20人程度のグループが対象で無料。
平日の午前9~11時、午後1~4時に限る。
見学希望日の1週間前までに、県財産経営課=電087(832)3075=へ予約する。

★ジョージ ナカシマ記念館
ジョージ・ナカシマゆかりの作品約60点を所蔵展示。
2階展示スペースへの入館料は大人500円、小中学生200円。
1階はショップやカフェがあり、ナカシマがデザインした家具でくつろげる。
日曜、祝日休館。日曜は予約制。電087(870)1020

★道の駅源平の里むれ「海鮮食堂じゃこや」
高松琴平電鉄志度線の塩屋駅、房前駅からそれぞれ徒歩5分。
瀬戸内海の新鮮な魚介を地元のお母さんの味付けで楽しめる。
人気はハマチのづけ丼(並702円)、ハマチの照り焼き(432円)など。
電087(845)6080

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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