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対馬

対馬 長崎県 防人思い、湾を一望

波の穏やかな浅茅湾をシーカヤックで楽しむ。後方は金田城を守る大吉戸神社

波の穏やかな浅茅湾をシーカヤックで楽しむ。後方は金田城を守る大吉戸神社

 海上を一陣の風が吹き、ほおをなでる。わずかに海面が乱れると、シーカヤックも心地よく揺らいだ。遣隋使の小野妹子が、そして全国から集められた防人(さきもり)が見たのと同じ対馬・浅茅(あそう)湾の風景が海抜ゼロメートルから目の前に広がる。長い歴史と浅茅湾の静かな自然を、独り占めにしたかのようなぜいたくな時間が流れる。

 長崎県の対馬は、九州から132キロ離れているが、朝鮮半島からは最短で50キロ足らず。かつては日本と朝鮮の間を取り持ち、遣隋使や初期の遣唐使も対馬経由で大陸に渡っていた。日本・百済連合軍と唐・新羅連合軍が死力を尽くした白村江の戦い(663年)で百済側が大敗した時は、全国から集められた防人たちが金田城を築き、国防最前線の島となった。元寇(げんこう)では壊滅的な被害を受け、豊臣秀吉の朝鮮出兵時には大きな役割を課せられた対馬。倭寇(わこう)の島としても知られ、日本と朝鮮半島、大陸との戦いの歴史が刻まれている。百済を通じ、わが国に仏教が伝来した際、仏像を仮置きした地に建立された梅林(ばいりん)寺や、江戸時代に朝鮮通信使が通った歴史が示すように、対馬は大陸の文化が最初に訪れる、友好の地でもあった。

防人が造った金田城の石垣。高い場所だと7メートル近くもある

防人が造った金田城の石垣。高い場所だと7メートル近くもある

 中国大陸、朝鮮半島との交流の玄関口だった浅茅湾。シーカヤックをゆっくり進ませると、キラキラと輝くイワシが海面を跳ね、豊かな漁場であることが分かる。海中をのぞくとタコクラゲやミズクラゲが、ゆったりした動きで泳いでいた。入り組んだリアス式の湾なので、波はほとんど立たない。力を込めてパドルをこぐと、シーカヤック初心者でも楽々と前へ進んでいく。高さ50メートル近い断崖絶壁「鋸割(のこわき)」の真下を通過するときは、はるか頭上の岩に圧倒され、緊張させられた。

 シーカヤックをさらに進めると、神社の鳥居が見えた。金田城を守る大吉戸(おおきど)神社だ。上陸して神社横の小道を上がる。もちろん都会の観光地のように歩きやすく整備されてはいない。足元は、シーカヤック用のゴム草履。とがった石の痛みを感じながら10分ほど歩くと、金田城の石垣が現れた。最も高いところは7メートルほどもあった。石垣の上から浅茅湾を眺めると、古代の防人になった気分に。歩くのも大変な足場の悪い場所に、これだけの石垣を築いたのは、いつ攻めてくるか分からない唐・新羅連合軍への備えから。緊張したまなざしで、朝鮮半島の方角を見詰めていたであろう防人たちの苦労がしのばれる。

 シーカヤックのガイドを10年ほどしているという上野芳喜さん(58)は「浅茅湾は、年間を通して波、海流がほとんどないところ。対馬は、豊かな自然や歴史、文化が味わえる世界的にも珍しい場所」と話した。

烏帽子岳展望所から見た浅茅湾=いずれも長崎県対馬市で

烏帽子岳展望所から見た浅茅湾=いずれも長崎県対馬市で

 翌日は浅茅湾べりの和多都美(わたづみ)神社へ。海中に立つ鳥居は、潮の満ち引きとともに、その都度、美しい姿を見せてくれた。安芸の宮島のような計算された海の文化である。

 近くの烏帽子(えぼし)岳展望所から浅茅湾を眺めると、小さな島が点在する湾の様子が一望できる。その光景は、箱庭のような美しさ。シーカヤックから見た景色とはひと味違う、全く別の光景だった。「ここに遣隋使の船が浮かんでいたら…」-。時空を超えた想像が脳裏をよぎり、命懸けで新しい文化を手に入れようとした、先人たちの思いに触れたような気がした。

 文・写真 増村光俊

(2014年11月14日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
福岡空港から対馬空港までは約30分(1日4往復)。
博多港と対馬の厳原港を約2時間で結ぶ高速船もある。

◆問い合わせ
対馬観光物産協会=電0920(52)1566

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名物「石焼き」

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★対馬観光ガイドの会やんこも
朝鮮通信使や対馬藩主の宗氏の史跡を訪ねる散策や軽登山のガイドをしている。
教職員や市職員OBらで結成。
朝鮮通信使の史跡を訪ねる散策では、対馬藩の対朝鮮外交機関が置かれた西山寺や朝鮮通信使が宿泊した客館跡地などを案内してくれる。
料金は町歩きガイド(2時間)で3500円。問い合わせは対馬観光物産協会へ。

★対馬野生生物保護センター 対馬にのみ生息、現在70から100匹がいるとされるツシマヤマネコ(国天然記念物)の保護を行っている。ツシマヤマネコをガラス越しに見学することもできる。無料。月曜休館。電0920(84)5577

★名物「石焼き」
イカ、アナゴ、サザエなど対馬の新鮮な魚介や野菜を熱した石の上で焼く野趣あふれる料理。
遠赤外線効果で内部までふっくらと焼ける。市内の飲食店で1人前3000円前後から。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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