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高千穂

高千穂 宮崎県 「心して」神々の場所へ

天照大神を呼び戻すため八百万の神々が集まり相談したという天安河原。後方は岩戸川

天照大神を呼び戻すため八百万の神々が集まり相談したという天安河原。後方は岩戸川

 八百万(やおよろず)の神々は、ここで、どのような相談をしたのだろう-。古事記に登場する天安河原(あまのやすかわら)は、今も澄んだ空気の中に、清流のせせらぎが響く、厳かな場所だった。神話は、おとぎ話のようなものと思っていたはずが、いつしか神々が相談する場面を思い描いていた。

 弟の建速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)の乱暴な行いに怒り、天岩戸(あまのいわと)の中に身を隠した天照大神(あまてらすおおみかみ)を呼び戻そうと、八百万の神々は天岩戸の前で面白おかしく騒ぎ立てた-という「岩戸隠れの伝説」が残る天岩戸神社は、高千穂町の中心街から数キロ北東へ行った川べりにある。鳥居をくぐり、岩戸(いわと)川沿いを500メートルほど上流へ向かうと天安河原。近くには、民家や学校もあるが、河原の周辺には手つかずの自然が残り、聖域の様相をとどめていた。天安河原の中央付近には間口40メートル、奥行き30メートルの洞窟・仰慕窟(ぎょうぼがいわや)があり、そこから川岸まで30メートルほどの河原には、参拝者のさまざまな願いを込めた石積みが、数え切れないほどあった。

 天岩戸は社殿の裏手にあり、社務所に申し出ると見学できる。神域なので、もちろん撮影はできない。「心して」と自らに言い聞かせながら神職について行くと、社殿の対岸にあった。岩戸川に迫る急峻(きゅうしゅん)な崖のふもとから20メートルほど上方に、それらしき空洞が-。うっそうと茂る木々の枝葉に隠れて、よく見えなかったが、それはそれでよかった。

高千穂神社の神楽殿では、連日、夜神楽が上演されている。写真は、天岩戸を開いた場面を描いた「戸取の舞」

高千穂神社の神楽殿では、連日、夜神楽が上演されている。写真は、天岩戸を開いた場面を描いた「戸取の舞」

 高千穂の夜神楽(国重要無形民俗文化財)は、天照大神を呼び戻すため天岩戸の前で踊った舞が始まりとされる。例年、11月から2月にかけて町内の多くの集落で行われ、無料で見学できる。高千穂町と隣接する町村からなる高千穂郷には、かつて88もの神社があり、総社の高千穂神社の神楽殿では、観光客向けに連日、午後8時から1時間ほど有料で上演されている。

 演目は全33番のうち、岩戸隠れの伝説にまつわる「鈿女(うずめ)の舞」など3番と、ユーモラスでエロチックな「御神体(ごしんたい)の舞」。村々の踊り手が、交代で出演している。天岩戸を開く場面の「戸取(ととり)の舞」を演じたのは、19歳から神楽のけいこを始めたという佐藤淳一さん(53)=同町上野、農業。迫力の演技の胸中を聞くと「どうすれば感動を与えられるのかにこだわっていますが、まだまだです」。

 締めくくりの「御神体の舞」は、面を付けた踊り手が客席まで降りてきて、年配の女性や外国からの男性観光客に抱きつくなど、場を盛り上げる座興も。奇妙なしぐさが加わると、会場は笑いの渦に包まれた。五穀豊穣(ほうじょう)などに感謝する高千穂の夜神楽は、村人たちの楽しみでもあり、集落で上演されるときは、もっと盛り上がるのだとか。とにかく神楽で笑ったのはこの日が初めてだった。

国見ケ丘から見る雲海は感動的な美しさ。多くの観光客が訪れていた=いずれも宮崎県高千穂町で

国見ケ丘から見る雲海は感動的な美しさ。多くの観光客が訪れていた=いずれも宮崎県高千穂町で

 この地を訪ねて見過ごせないのは、国見ケ丘(513メートル)からの雲海。見られるかどうかは運次第だが、早起きして行ってみた。初日は、上空までもやがかかりいまひとつだったが、翌日は午前6時前、そこそこの眺めに遭遇できた。雲海の向こうの稜線(りょうせん)からオレンジ色の太陽が昇る光景は神々しいほどの美しさ。数十キロ西方の阿蘇連山も見通せた。

 神話の里には、急な坂道の所々に休憩用のベンチを置くなど、観光客への心配りもあった。そして出会った子どもたちからは、みんなに「こんにちは」と声を掛けられた。あいさつ運動ではなく、昔からの習慣なのだという。見知らぬ子には、うかつに声も掛けられない時代となったが、高千穂には“古きよき日本”が残っていた。

 文・写真 富永賢治

(2014年12月26日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
高千穂町へは熊本空港から車で約1時間半。
レンタカーが充実している。
JR熊本、延岡の各駅などからはバスが出ている。

◆問い合わせ
高千穂町観光協会=電0982(73)1213

おすすめ

真名井の滝

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★高千穂峡
日本の滝100選に含まれる「真名井の滝」や神話にも登場する
「鬼八の力石」などがあり、散策にうってつけ。
高千穂町観光協会=電0982(73)1213

★高千穂牛
良質の飼料、湧き水で飼育され、第9回全国和牛能力共進会では日本一を獲得。
「がまだせ市場」内にあるJA高千穂地区直営の高千穂牛レストラン「和(なごみ)」では、
焼き肉ランチが1500円から食べられる。
第2水曜定休。電0982(73)1109

★高千穂観光物産館「トンネルの駅」
温度の変化が少ないトンネルの中に焼酎を貯蔵し、熟成させて販売している。
電0982(73)4050

焼き肉ランチ

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※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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