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式根島

式根島 東京都 心身癒やす海中温泉

透明な「足付温泉」。高温の源泉と海水が混ざり、ちょうどいい湯加減になる

透明な「足付温泉」。高温の源泉と海水が混ざり、ちょうどいい湯加減になる

 「もう一度、式根島に行きたいな」。寅(とら)さんこと俳優の渥美清さんは亡くなる直前、日記にこう書いていたという。1985年公開の「男はつらいよ」第36作の舞台となった式根島。東京の都心から南へ160キロ。伊豆諸島の一つだ。全国各地を旅した寅さんがこよなく愛した理由を探りに、船で出掛けた。

 伊豆七島といえば、東京から近い順に大島、利島、新島、神津島、三宅島、御蔵島、八丈島。式根島が数えられないのは、北東に3キロほど離れた新島の一部と見なされているから。周囲12キロ、人口500人ほどの小島だが、新島より多い年間5万人が観光に訪れるという。

 船を下りると、夏のような日差しを浴び、思わず上着を脱いだ。「最高の日和ですね」と、家族で民宿を営む渡辺浩子さん(52)が笑顔で出迎えてくれた。前日までは荒天で船は欠航していたのに、私はついている。そう思うと、早くも島に愛着がわいてきた。

 式根島は「温泉天国」とも呼ばれ、南側の海岸に点在する「海中温泉」が一番の名物。海底からわき出る源泉が海水と混ざった天然の露天風呂で、どこもいつでも無料で入れる。ただ、潮の満ち引きによって湯加減が変わるので、干潮と満潮の中間の時間帯がお勧めだ。

 「ちょうど良さそう」と、潮見表を見た渡辺さんに勧められ、まずは「地鉈(じなた)温泉」へ。193段の階段を下り、V字形に切り立った岩場を抜けると、海面が泡立ち、湯気が上がっていた。鉄分のせいで赤褐色に染まった湯。昔から「内科の湯」と呼ばれ、リウマチや冷え性などに悩む人が全国から訪れるそう。あちこちの岩肌に「大正4年 湯治記念」などと刻まれていた。

 平日の昼間ということもあり、貸し切り状態。その場で水着に着替え、そろりと足を入れた。肩まで漬かり、思い切り体を伸ばす。聞こえるのは波の音だけ。大自然を独り占めしたような、何とも不思議でぜいたくな気分だ。

 地鉈から歩いて十分ほどの「足付(あしつき)温泉」は、透明な「外科の湯」。筋肉痛や皮膚病に効くそう。昔、足をけがしたアシカが入っていたのが名前の由来とか。再び水着になり、ややぬるめの湯だまりに飛び込んだ。

扇形の入り江に、白い砂浜が広がる泊海水浴場

扇形の入り江に、白い砂浜が広がる泊海水浴場

 港近くの観光協会を訪ねると、事務局長の田村修一さん(37)が「絶景スポットもありますよ」。島で一番高い標高99メートルの「神引(かんびき)展望台」からは、松林に覆われた島の姿やリアス式の海岸線、伊豆半島までが見渡せた。空気が澄む冬季は富士山もよく見える。夕日を眺めに西側の大浦海岸に行くと、ないだ海が一面、朱色に染まっていた。

 「島の人が集まり始める」と田村さんに教えられ、午後5時すぎに「松が下雅湯(みやびゆ)」へ。皇太子さまと雅子さまのご成婚を記念して造られた浴場で、地鉈の湯を引いている。入り口の更衣室に入ると、にぎやかな声が聞こえてきた。宿のおかみたちだ。「ここで、みんなとおしゃべりするのが日課。風邪なんか引かないし、お肌もスベスベでしょ」。寅さんが来た時の様子も、のんびり話してくれた。

山中の穴からも蒸気が噴き出している=いずれも東京都新島村の式根島で

山中の穴からも蒸気が噴き出している=いずれも東京都新島村の式根島で

 「山にも温泉があるぞ」。雅湯で出会った民宿経営の奥山十治朗さん(65)に誘われ、翌日は島中央部の山中へ。桜やアケビ、アシタバなどを横目に遊歩道を進むと、岩壁に温泉マークがあった。そばの穴に手をかざすと、熱い蒸気が出ていてびっくり。「ここにサウナ、周りに広場や野菜畑も作る。山を遊び場にするのが夢」と奥山さん。「今度は海岸の“幻の温泉”にも連れてってあげるよ」。温泉、人、たくさんのぬくもりが詰まった式根島。また来たい。素直にそう思った。

 文・写真 平井一敏

(2015年1月16日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
式根島へは、東京・竹芝桟橋から高速ジェット船で約3時間、
大型客船で約11時間(いずれか1日1往復)。
静岡・下田港から約3時間で行ける船便もある。

◆問い合わせ
東海汽船=電03(5472)9999

おすすめ

たたき丸

たたき丸

★憩いの家
島で唯一の屋内温泉施設。地鉈温泉の湯を引き、男女別に分かれている。
休憩室もある。料金は大人200円、小学生100円。
営業時間は午前10時~午後9時半、水曜休館。電04992(7)0576

★名物「たたき」
魚のすり身に薬味や調味料を加えた島の郷土料理。
使う魚や味付けは家庭によって異なり、油で揚げたり、汁の具にして食べる。
商店「みやとら」は、具入りの丸いおにぎりを、
カジキとハモのたたきで包んで揚げた「たたき丸」を販売している。
具はアシタバのつくだ煮、ハムチーズ、くさやの3種類。1個200円。
電04992(7)0304

★海水浴
泊(とまり)、中の浦、大浦、石白川(いしじろがわ)の4つの海水浴場があり、
ゴールデンウイークから10月20日ごろまで泳げる。
いずれも遠浅の入り江で、白い砂浜が広がる。海の透明度が高く、
シュノーケリングも楽しめる。
問い合わせは式根島観光協会=電04992(7)0170=へ。

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