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秋保温泉郷

秋保温泉郷 仙台市 伝承生んだ神秘の名湯

高さ20メートルの岩が名取川の両岸に続く「磊々峡」

高さ20メートルの岩が名取川の両岸に続く「磊々峡」

 東日本大震災の直後、全国から駆けつけた救援隊が寝泊まりした秋保(あきう)温泉郷(仙台市太白区)。「仙台の奥座敷」と呼ばれ、災害復旧の拠点になった名湯を訪れた。

 温泉郷の入り口にそびえるのが、奇岩の壁が並ぶ「磊々峡(らいらいきょう)」。奥羽山脈から下る名取川が急に川幅を狭め、長い年月をかけて大地を浸食した。高さ20メートルはある両側の岩壁が、にらみ合うように切り立っている。

 絶景に見とれながら、脇の自然歩道を進んだ。岩壁の足元には清流が静かに流れる。雲間から時折、陽光が差し込み、川面を薄白く照らす。岩の表面はこけむし、モミジの落ち葉に彩られる。平日とあって、すれ違う人はまばら。600メートルの遊歩道はあっという間に終わってしまう。

 秋保を訪れた目的の一つが、被災した観光地の今を知るためだった。秋保温泉郷の旅館は東日本大震災で建物などが被害を受けながらも、各地の警察官やガス、電力会社の社員を受け入れた。避難所での生活が続く被災者を送り迎えし、温泉に招き入れた。救援隊が去った後は観光客が集まった。

 しかし、この1年ほどは客足が遠のいているという。特に、宮城県を訪れる外国人客の数は震災前と比べ、半減。秋保温泉旅館組合長で、旅館「佐勘」社長の佐藤勘三郎さん(53)は「被災地を1度、訪れたことで満足している人もいる。リピーターの観光客を増やさないといけない」と危機感を募らせる。

滝つぼから、岩肌を走る滝が眺められる「秋保大滝」

滝つぼから、岩肌を走る滝が眺められる「秋保大滝」

 自然を満喫できる「グリーンツーリズム」の名所を佐藤さんたちが案内してくれた。秋保温泉郷から車で10キロ余りの名取川の上流に向かうと、奥州随一の滝と名高い国名勝「秋保大滝」にたどり着いた。滝つぼに下りると、高さ55メートル、幅6メートルの岩の上から、大きな水の粒が滑走するように流れ落ちるのが見える。

 その先を車で進むと、高さ100メートル以上の岩壁がびょうぶを立てたように長さ3キロも続く「磐司(ばんじ)岩」が姿を見せた。この日は雨のせいで景色がかすみ、全貌を眺められないのが残念だった。

 神秘性が漂うこの温泉郷は、多くの伝承を生んだ。地元で民話を語り継ぐ会の伊藤昭平さん(87)は「秋保には、壇ノ浦の戦いで敗れた平家の落ち武者が隠れ住んだ」と話す。源義経が愛した「静御前」が最期を迎えた地でもある、という。この地の湯水の味がしょっぱいのは「街道で塩を運んでいた女の子が牛ともども、谷地に沈んだから」との悲話も残る。
 

(上)大小の作品が並ぶ秋保の伝統工芸品のこけし(下)日本三御湯と称される秋保温泉。写真は旅館岩沼屋の露天風呂=いずれも仙台市太白区で

(上)大小の作品が並ぶ秋保の伝統工芸品のこけし(下)日本三御湯と称される秋保温泉。写真は旅館岩沼屋の露天風呂=いずれも仙台市太白区で

 こけしなどの伝統作家らの店が集まる「秋保工芸の里」に足を延ばすと、作家の佐藤円夫(かずお)さんが古いしきたりを教えてくれた。「秋保では、江戸時代に藩主がこけしを2体、手に入れて、うち1体を名取の清流に流し、もう1体を手元に残し、子どもの厄よけにした」そうだ。

 名取川の流域を1日、ゆっくり歩き回り、すっかり体が冷えた。宿泊した旅館「岩沼屋」で露天風呂につかると、「特に保温効果が高い」という効能通り、すぐに体が温まった。夜が深まると、湯船には自分1人。注がれる湯の音を聞きながら、しばらくの間、目をつぶり、温泉にちなむ昔話を思い出した。

 古代に欽明天皇が皮膚病を患った際、どんな治療も効かなかったが、秋保の湯を浴びた途端に、完治したという。以来、「名取の御湯(みゆ)」と呼ばれた。戦国武将、伊達政宗からも愛されたという。

 湯船から上がると、火照った体から湯煙が立った。身を包むように吹き付ける風が、心地よかった。

 文・写真 丸田稔之

(2015年1月30日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
秋保温泉郷へは、JR仙台駅から車で約30分。
仙台市中心街から国道48号青葉山トンネルを通る。
路線バスは、仙台駅から約50分。
JR仙山線・愛子(あやし)駅から市営バスで約15分。
仙台空港から仙台駅までは、空港アクセス鉄道で30分弱。

◆問い合わせ
秋保温泉郷観光案内所=電022(398)2323

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仙台あおば餃子(左)と牛タン(右)

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各店に事前に問い合わせてからの入店がお勧め。
価格は1皿500円程度。
問い合わせは仙台市農業振興課=電022(214)8266

★秋保・里センター
秋保の見どころを案内する観光拠点で観光案内所も併設。
大型の地図で名所や歴史を紹介しているほか、伝統の陶芸品や木工品なども展示している。
入場無料。無休。電022(304)9151

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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