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マッサンのふるさと

マッサンのふるさと 広島県竹原市 時が優しく流れる町

多くの観光客が訪れる竹鶴酒造前。マッサンのモデル、竹鶴政孝の生家でもある

多くの観光客が訪れる竹鶴酒造前。マッサンのモデル、竹鶴政孝の生家でもある

 車窓の向こうに、きらきら輝く瀬戸内海が見えた。列車は短いトンネルを数回くぐり、駅に着く。そこから徒歩15分。広島県竹原市の町並み保存地区。約5ヘクタールに、江戸時代に製塩業で財をなした商人の家や町家など100近い古い建物が残る。

 瓦屋根に格子窓の家々の多くは今も人が住む。竹原市観光協会の増田三紀(そうだみき)さん(65)は「土産物店が立ち並ぶ観光地とは違う。生活が息づいている」と説明した。

 地区の中心に観光客が集まる商家がある。江戸時代から続く酒造元「竹鶴酒造」。NHK連続テレビ小説「マッサン」のモデルで、ニッカウヰスキー創業者の竹鶴政孝は、ここで生まれた。

 竹鶴酒造会長で政孝の親戚の竹鶴寿夫(ひさお)さん(74)に話を聞いた。竹原の酒造りは江戸時代に藩の保護を受けたが、明治時代は兵庫・灘などとの競争にさらされる。分家筋で家業を継いだ政孝の父親も他の蔵元と製造技術を磨く。蔵元らは酒造りには本来不向きな広島の水で良質な酒を造り、評判を高めた。

酒蔵内の木桶の前でドラマ撮影について説明する竹鶴寿夫さん

酒蔵内の木桶の前でドラマ撮影について説明する竹鶴寿夫さん

 「政孝は酒造りに懸命だった父親の姿を見て育った」と寿夫さん。ドラマでは、マッサンが父親の酒造りへの思いを受け止める場面として、2人が酒蔵で相撲をとる。このシーンは昨年5月、竹鶴酒造にある昭和初期に造られた直径2メートルの木桶(きおけ)の前で撮影された。

 ほうろうタンクが主流の業界で木桶を使う竹鶴酒造も、酒造りのこだわりを受け継ぐ。地元「前川酒店」店主の山田智嗣(のりつぐ)さん(49)は「昔ながらの製法で、本物志向の純米酒を手掛けている」と言う。

 肝心の酒は、マッサン人気で引き合いが多く品薄状態。市内の酒販店では買えず、宿の近くの飲食店で味わった。濃厚だが、すっきりした後味。また、人気の過熱に混乱を避けるため、土日祝日に開いていた竹鶴酒造の資料館はいったん閉鎖となった。

映画「時をかける少女」では原田知世さんの通学路として使われた石段

映画「時をかける少女」では原田知世さんの通学路として使われた石段

 保存地区は、さまざまな作品の舞台になっている。原田知世さん主演の映画「時をかける少女」(1983年公開)もその一つ。大林宣彦監督の「尾道三部作」に数えられるが、実は多くの場面が竹原で撮られた。

 土蔵の白壁が映える堀川醤油(しょうゆ)店は、原田さんの相手役「堀川吾朗」の自宅として映画に登場した。脚本の役名は「浅倉吾朗」だったが、6年前に店を継いだ堀川大輔さん(36)は「ここで撮影するので『堀川』に変えた、と父親から聞いた」と明かす。

 醤油店そばの路地を入ると、山の斜面に立つ寺に向かって石段が延びる。ここは原田さんの通学路として映画に何度も現れる。階段を上ると、瓦屋根の向こうに山や海が見えた。

 竹原を舞台にしたアニメもある。2011年からテレビ放映された「たまゆら」は、市内の風景を背景に、写真好きの女子高生と友人たちの日常を描く。保存地区近くの写真館だった木造家屋は、主人公の行きつけの写真館として登場する。

アニメ「たまゆら」に、主人公の行きつけの写真館として登場する建物。かつて写真館だったが、今は民家として使われている=いずれも広島県竹原市で

アニメ「たまゆら」に、主人公の行きつけの写真館として登場する建物。かつて写真館だったが、今は民家として使われている=いずれも広島県竹原市で

 市内で「たまゆら」のイベントを開いたNPO法人理事長、佐渡泰さん(52)は「ゆっくりした展開の作品で、町の雰囲気に合っている」。放映以来、アニメの舞台を訪れる「聖地巡礼」で、10~30代の男性ファンが多く来るようになった。

 アニメには、堀川さんが元醤油蔵で開くお好み焼き店も出てくる。30年前に「時をかける少女」を見た人が子どもを連れて店に来ることも。「『たまゆら』のファンもいつか子どもを連れて来てくれたら、うれしい」と堀川さん。この町では、さまざまな思いが受け継がれていく。

 文・写真 川上義則

(2015年3月6日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
竹原市へは、新幹線の三原駅からJR呉線に乗り換え竹原駅まで約40分。
広島空港からは乗り合いタクシーで約25分。

◆問い合わせ
竹原市観光協会=電0846(22)4331

おすすめ

「味いろいろ ますや」の定食

「味いろいろ ますや」の定食

★政孝&リタグルメ
竹原市「マッサン」推進委員会が市内の飲食店十数店と実施。
旧制中学時代に下宿先で魚を調理したという竹鶴政孝にちなみ、
「政孝定食」には地魚を使う。
「味いろいろ ますや」の定食は2160円。
「リタランチ」は政孝の妻リタのレシピを取り入れた洋食メニュー。
問い合わせは竹原市観光協会へ。

★竹原市歴史民俗資料館
昭和初期に図書館として建てられた建物を1980年から資料館に。
入場料大人100円。
31日まで開催中の政孝、リタ夫妻の写真などの展示会は観覧無料。
電0846(22)5186

★アヲハタジャムデッキ
ジャムの製造会社「アヲハタ」のPR施設。
1週間前までに予約をすれば、ジャムづくり体験や工場見学ができる(体験料800円)。
原則日月祝日休み。
最寄りはJR忠海駅。電0846(26)1550

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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