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長門市

長門市 山口県 魁夷を魅了した絶景

東山魁夷画伯が皇居の大壁画のモチーフにしたとされる瀬叢展望台からの眺め。奇岩が点在している

東山魁夷画伯が皇居の大壁画のモチーフにしたとされる瀬叢展望台からの眺め。奇岩が点在している

 潮流が渦を巻いていたのだろうか。沖は波静かなのに、海岸近くの岩礁は白波を立てていた。青海島(おおみじま)の自然研究路をしばらく歩くと、眼下に、さまざまな形の岩礁が見えてきた。だが冬の日本海の荒々しいイメージはなく、心が癒やされる穏やかな景色だった。

 この辺りは、地元で瀬叢(せむら)と呼ばれている。昭和を代表する日本画家、東山魁夷(1908~99年)が手がけた皇居宮殿.長和殿波の間の大壁画「朝明けの潮」(高さ3.8メートル、幅14.3メートル)のモチーフになった場所としても知られる。68(昭和43)年に完成した大壁画を制作するにあたり、東山画伯は作品のイメージを構築しようと、一年がかりで国内の海を回ったのだという。そして、この地が選ばれた。

 北長門海岸国定公園のほぼ中央に位置する青海島の外周は約40キロ。現在は仙崎(せんざき)地区と青海大橋でつながり2000人ほどが暮らす。訪れた日は好天で、風が穏やかだったこともあり、海の青がまぶしかった。「冬場で、こんな波静かな日は珍しいですね」と自然研究路の散策に同行してくれた青海島ミニビジターセンター職員の竹内純子さんから、そう聞かされ「ついてるな」とほくそ笑んだ。仙崎港からは遊覧船が出ていて、海食でできた十六羅漢、石門、龍宮(りゅうぐう)の潮吹き-などの奇岩が楽しめる。

楊貴妃の漢白玉像。近くには、同じく中国の方向を向いた墓がある

楊貴妃の漢白玉像。近くには、同じく中国の方向を向いた墓がある

 古くから大陸との交流があった長門市には、それにまつわる伝説も。日本海に突き出た向津具(むかつく)半島の唐渡口(とうどぐち)には756(天平勝宝8)年7月、安禄山の乱から逃れた玄宗皇帝夫人の楊貴妃が、従者とともに小舟で漂着。村人たちの介抱のかいなく、間もなく亡くなったという話が伝わる。その後、近くに創建された二尊院には楊貴妃と侍女の墓がある。

 さらに平成の時代になってからは、中国政府の協力もあって純白の漢白玉製の楊貴妃像(高さ3.8メートル)が境内に完成。安産や美しい女の子の誕生を願っての参拝者が増えているという。田立智暁(ただてちぎょう)住職は「中国領事館の方や中国人の大学教授が来られたこともあります。楊貴妃の縁で、中国との交流が復活するといいのですが・・・」と、近年の日中関係を気にかけていた。

 長門市を語るには、欠かせない女性がもう一人いる。二十歳すぎまで仙崎地区で暮らした童謡詩人、金子みすゞ(1903~30年)である。詩人の西條八十(さいじょうやそ)に「若き童謡詩人の中の巨星」とまで称賛されながら、わずか26歳で自ら命を絶った。

 書店の長女として生まれ、学業も優秀だったという。好きな作品の一つに「大漁」がある。「朝焼小焼だ大漁だ 大羽鰮(いわし)の大漁だ 浜は祭りのようだけど 海のなかでは何万の鰮のとむらいするだろう」。物事の表面だけでなく、裏側にも目を当て、あるべき形をさりげなく提唱する作風からは、子を思う親心のようなやさしさを感じた。

 生家跡には、生誕100年の節目に記念館が建てられ、直筆原稿や再現されたみすゞの部屋などが公開されている。記念館の受付にいた佐伯たけ子さん=ながとボランティアガイド会副会長=は「さまざまな社会事象に目を向け、それぞれの本質をとらえていた。だから、どの作品も、今に通じるものがあります」。近所の年配の女性も「詩を読み、しばらく考えていると、あーなるほどと思えてくる。これが素晴らしい」と誇らしげだった。

生家跡に建てられた金子みすゞ記念館=いずれも山口県長門市で

生家跡に建てられた金子みすゞ記念館=いずれも山口県長門市で

 文・写真 富永賢治

(2015年3月13日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
長門市へは、山陽新幹線の厚狭(あさ)駅からJR美祢(みね)線で約1時間10分。
車は、中国道・美祢ICから約40分。

◆問い合わせ
二尊院=電0837(34)1065、
金子みすゞ記念館=電0837(26)5155(12月29日から元日まで休館)、
長門市観光コンベンション協会=電0837(22)8404

おすすめ

千畳敷

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イカの姿造り

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★千畳敷
長門市中心街のやや西方にある。
標高333メートルの高台周辺に広がる草原からは、日本海や青海島など雄大な景色が望める。

★長門温泉郷
長門市内には、長門湯本、湯免、俵山、油谷湾、黄波戸(きわど)の5つの名湯があり、いずれも日帰り入浴ができる。

★イカの姿造り
仙崎港は、国内有数のケンサキイカ水揚げ量を誇り、鮮度、品質の良さから仙崎イカとも呼ばれる。
地元の和食処(どころ)「喜楽」では、姿造りを1ぱい2000円程度から提供している。
刺し身の残りは、天ぷらや塩焼きでも味わえる。喜楽=電0837(26)1235

★萩市観光
松陰神社などがある隣接の萩市へは、長門市駅発のバスで約1時間。
萩市観光協会=電0838(25)1750

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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