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島津斉彬の仙巌園

島津斉彬の仙巌園 鹿児島市 維新の立役者を鼓舞

仙巌園から眺める桜島=鹿児島市内で

仙巌園から眺める桜島=鹿児島市内で

 南国・鹿児島の象徴である雄大な桜島と鹿児島湾(錦江湾(きんこうわん))を望む薩摩藩主・島津家の別邸庭園を整備した名勝「仙巌園(せんがんえん)」。ここを発祥地とする近代工場遺産群が今夏、「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」の1つとしてユネスコの世界文化遺産に登録の期待が高まる。

 幕末に西欧列強のアジア進出に危機感を抱いた11代藩主の島津斉彬(なりあきら)が日本で先駆けた近代化事業の功績が大きい。

 仙巌園に入ると、すぐ正面に薩英戦争にも使われた砲身約4.5メートルの鉄製大砲が復元されて置かれている。その後方の丘の中腹には、大砲を鋳造するために鉄を溶かした反射炉跡が残っていた。

 案内してくれた学芸員の岩川拓夫さん(30)によると、ペリーの黒船来航2年前の1851(嘉永4)年、斉彬が庭園敷地内の竹林を切り開いて反射炉建設に着手した。日本で初めての西洋式近代工場だった。操業当時は、高さ16メートルの煙突がそびえ立っていたという。

仙巌園内に残る反射炉跡

仙巌園内に残る反射炉跡

 しばらく歩くと島津家別邸だった御殿に着く。御殿の庭から松林越しに眺める桜島は絶景で、岩川さんは「これぞ島津のお殿様が愛して独占した景色です」と解説する。桜島を望む観光名所としては標高107メートルの城山展望台が有名だが、市街地を挟んで見渡す城山と違って、こちらは桜島も錦江湾もすぐ目の前に広がる。

 カメラを向けると、桜島に白い噴煙がもうもうと上がり始めた。御殿の女性ガイドが「桜島が噴火しましたよ」と声を上げると、海外からのツアー客らも一斉にカメラを向けた。園には勝海舟や篤姫(天璋院)、当時来日したロシア皇太子ニコライらも招かれ、この景色を満喫したという。

 仙巌園周辺にも斉彬が「集成館」と名付けて産業近代化事業を進めた造船や紡績工場などの跡が残る。園に隣接する尚古(しょうこ)集成館本館(旧集成館機械工場)は現存する日本最古の洋式工場で、今は島津家の歴史と近代化事業を紹介する博物館となっている。

赤、青、黄と鮮やかな色の薩摩切子=鹿児島市内で

赤、青、黄と鮮やかな色の薩摩切子=鹿児島市内で

 隣には集成館事業で作られたカットグラス「薩摩切子」の製造過程を見学できる工場とギャラリーショップがある。江戸切子にも影響を与えたという色鮮やかさに魅せられた。

 少し離れたところに旧鹿児島紡績所技師館(異人館)がある。長崎のグラバー邸に次ぐ古い洋館で、日本初の近代紡績工場の建設と技術指導に招いた英国人技師らの宿舎だった。

 驚いたのは、先に世界文化遺産となった富岡製糸場(群馬県)との深い関わりだ。明治維新直前の1867(慶応3)年に完成した鹿児島紡績所設立に携わった薩摩藩の石川確太郎は5年後には、明治政府の官僚として富岡製糸場設立と運営にも携わった。岩川さんは「薩摩のノウハウなしに富岡製糸場はあり得なかった」と断言する。

 桜島にも足を延ばし、赤水展望広場で間近に見る活火山の迫力を体験。桜島大根ずくめの料理も味わった。世界有数の火山活動が売り物の桜島だが、1月にマグマの上昇などで山が膨らむ山体膨張の観測が報道され、観光客が落ち込んでいる。

 NPO法人「桜島ミュージアム」の大村瑛(あきら)さん(28)は「火口から半径2キロが立ち入り禁止区域の桜島は観測体制も万全で、御嶽山のような悲劇は考えにくい。もちろん、大噴火の警戒は必要ですが、過剰に怖がることもありません」と言う。

 斉彬が愛した桜島を眺めながら、激動の幕末に明治維新の原動力となった西郷隆盛や大久保利通らを登用し、一方で明治日本の産業革命に引き継がれる近代化事業にも着手した偉大なお殿様に、思いをはせた。

 文・写真 松井稔

(2015年3月20日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
鹿児島市へは、鹿児島空港からバスで鹿児島中央駅まで約40分。
九州新幹線は新大阪駅から鹿児島中央駅までの便もある。
仙巌園などへは、鹿児島中央駅前が起点・終点の市内観光地巡回バスもある。

◆問い合わせ
鹿児島市観光プロモーション課=電099(216)1344、
観光交流センター=電099(298)5111

おすすめ

鹿児島の郷土菓子「両棒餅」

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★両棒(ぢゃんぼ)餅
約5万平方メートルある仙巌園を歩いて小腹がすいたら、
園内茶店「磯名物ぢゃんぼ餅」で鹿児島の郷土菓子「両棒餅」を食べて一休み。
2本の竹串を刺した一口大の餅団子でしょうゆとみそ風味の2種類。
6本入り310円、10本入り510円。
問い合わせは仙巌園=電099(247)1551。
なお、同園入場料は尚古集成館と共通で一般1000円、小中学生500円。

★かごりん
市が運営する貸自転車で市内観光に便利。
20カ所にサイクルポートが設置され、借り出し、返却ができる。
1日200円。問い合わせはフリーダイヤル(0120)992599

★温泉ざんまい
桜島火山などの恵みで、市内に約270カ所の源泉数を誇る。
街歩きに疲れたら温泉で汗を流そう。
ホテル、旅館などのほか、大半の銭湯が温泉。
市観光振興課=電099(216)1327

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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