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与那国島

与那国島 沖縄県 最西端の地 時代の波

巨大な船首のように突き出した東崎に放牧されたヨナグニウマ。壮大な気持ちにさせてくれる

巨大な船首のように突き出した東崎に放牧されたヨナグニウマ。壮大な気持ちにさせてくれる

 相手はアルマ君。御年17歳。人間の年齢に換算すれば、君呼ばわりが失礼な50代だという。「ウマには人間の感情が伝わる。こわごわと乗れば、それも察します」。乗馬体験ができるNPO「ヨナグニウマふれあい広場」で、スタッフの西山博史さん(35)が説明してくれた。

 日本に現存する在来馬8種のうちの1種。体高110~120センチと小型で脚も短い。昭和世代の自身の体つきと重ねれば、こわごわどころか親近感が湧く。温厚だが、元来は農耕馬とあって働き者。あいにくの雨の上り坂に差し掛かり、脚に一段と力が入る。体幹に響く揺れで、アルマ君の懸命さが伝わってきた。

 全島で一時、50頭ほどに減った与那国町の天然記念物も120頭まで戻った。大海原を望む牧草地には、ヨナグニウマたちが放牧されている。太平洋と東シナ海から吹き付ける潮風にたてがみをなびかせ、ゆったりと草をはむ。埼玉県所沢市出身の西山さんはバックパッカーとして、アジア、アフリカ、オセアニアを8年間も巡り、3年前の秋、日本の最西端にやってきた。在来馬がいて、のんびりした時が流れるこの島が好きになったという。

島西端の西崎からは日本で最後の夕日が見える

島西端の西崎からは日本で最後の夕日が見える

 石垣島から西方へ127キロ、台湾まで111キロの絶海の孤島。与那国を地元では「どなん」と呼ぶ。与那国だけで造られる60度の泡盛(花酒)の銘柄でも知られる呼称だが、漢字で書けば「渡難」。渡るのが難しい。それでも日本が領土とする東西南北の最果てで、民間人が自由に行けるのはここだけ。旅の大きな目的は、日本で最後の夕日を眺めることだった。

 島の東端は「東崎」、西端は「西崎」。東は太陽が上がるから「あがりざき」、西は入るから「いりざき」と読む。自然と重なり合った地名が美しい。西崎にある「最西端の碑」では愛知県清須市の増田透さん(55)と出会った。早期退職して自転車で日本を一周中。北海道では人が渡れる範囲で最北端の宗谷岬も、最東端の納沙布岬にも足を運んだという。

 最西端に立ち、何を思ったのか。「正直、ただ碑があるだけ。でも、どの端にいっても意識するのは『防衛』。愛知にいては、ない感覚です」。周囲約27キロの島に信号機はわずか2基、お巡りさんも2人。日常は静かだが、尖閣諸島もそう遠くない。陸上自衛隊の沿岸監視部隊配備をめぐり、人口が1500人を切った島が賛否に分かれて、揺れる。幻想的な夕日で感傷に浸るのは、旅人でも、いささかお気楽だったかもしれない。

高速半潜水艇「ジャックス・ドルフィン号」の展望室から見た「海底遺跡」のテラス=いずれも沖縄県与那国町で

高速半潜水艇「ジャックス・ドルフィン号」の展望室から見た「海底遺跡」のテラス=いずれも沖縄県与那国町で

 島南東の沖合の海底には、神秘的な巨石群が眠る。正体が不明な「海底遺跡」。高さ約26メートル、東西の幅が約270メートルで南北に約120メートル。ダイビングスポットだが、観光用の高速半潜水艇でも近づける。船側のガラス窓に現れた遺跡は、神殿や城壁のようにも見えた。

 1986年に発見した新嵩(あらたけ)喜八郎さん(67)は「1万年前は陸地だった。動物のレリーフがあったり、左右対称の部分があったり。自然の地形に人間が手を加えた遺跡です」と説明する。

 ふるさとを愛し、今も半潜水艇を操舵(そうだ)する新嵩さんには気掛かりなことがある。海の透明度。「30年前が10なら今は6。悲しい。人間のぜいたくが地球環境を壊しているんです」。旅行者の目には透き通った海が無言で訴える。日本の西の果てで、考えさせられた。

 文・写真 高橋広史

(2015年3月27日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
与那国島へは、那覇空港から与那国空港まで約1時間40分(1日1便)、
新石垣空港からは約35分(1日3便)。石垣島からはフェリーもあり、
約4時間(週2便)で行ける。

◆問い合わせ
与那国町観光協会=電0980(87)2402

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祖納(そない)、久部良(くぶら)、比川(ひがわ)の3集落に計26軒。
中心地の祖納にある入福旅館は、赤瓦ぶきの主屋(しゅおく)が国の登録有形文化財。
1泊2食付きで6300円から。電0980(87)2017

★人気テレビドラマ「Dr.コトー診療所」
島全域で撮影され、最初のシリーズは2003年放映。
離島医療に情熱をかける青年医師(吉岡秀隆)と島民とのヒューマンストーリー。
診療所のオープンセットは保存され、見学可能。
空港などにロケ地マップがある。

★カジキ
町魚。久部良漁港から黒潮の海に乗り出して一本釣りする。
100キロを超える大物も捕れる。
漁港近くの島料理「海響(いすん)」では刺し身1人前700円、
骨の空揚げ550円=写真中央=など。
島では古くから長命草も重宝され、
白あえ450円=写真手前右=などにして食べる。
電0980(87)2158

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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