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萩 山口県 松陰の教え 今も脈々

松下村塾では吉田松陰の石こう像と肖像画に向かって、こうべを垂れる男性の姿が見られた=山口県萩市で

松下村塾では吉田松陰の石こう像と肖像画に向かって、こうべを垂れる男性の姿が見られた=山口県萩市で

 「万巻の書を読むに非(あら)ざるよりは、寧(いずく)んぞ千秋(せんしゅう)の人たるを得ん」-。

 NHK大河ドラマ「花燃ゆ」に誘われ、萩藩(長州藩)の藩庁があった山口県萩市を訪ねた。真っ先に向かったのは幕末の思想家、吉田松陰の私塾「松下村塾(しょうかそんじゅく)」跡。そこで、古びた竹に刻まれた松陰の言葉を見つけた。この言葉は「松下村塾聯(れん)」と呼ばれる。案内してくれた観光ガイドの山根ちづ子さん(69)が「多くの本を読み、人間としての生き方を学ばない限り、後世に名を残す人にはなれないという意味です。地元の小学校では2年生が暗唱するんですよ」と教えてくれた。

 木造平屋の松下村塾は、松の木に囲まれ、幕末当時と同じ場所に、そのままの姿でひっそりと立つ。8畳の講義室と控えの間があり、聯は講義室の松陰の石こう像と、肖像画の間の柱に掛かっていた。

 松陰は、徳川幕府を批判する人たちを弾圧した「安政の大獄」により、29歳の若さで生涯を閉じた。松下村塾で教えていたのはわずか1年余り。それでいて伊藤博文、高杉晋作、山県有朋ら、のちの日本を動かした多くの逸材を輩出した。山根さんは「萩に住む者にとって、松陰先生と松下村塾は大きな誇りです」と話す。

国登録有形文化財の旧明倫小学校本館=山口県萩市で

国登録有形文化財の旧明倫小学校本館=山口県萩市で

 萩では、今でも「松陰先生」と呼び慕い、その教えを受け継いでいる。松陰が10歳で講師を務めた藩校・明倫館の跡地に隣接する市立明倫小学校では、松下村塾聯をはじめ、6年間で18の「松陰先生の言葉」を児童たちが暗唱する。同校は昨年、明倫館跡から新校舎に移った。白壁に赤いフランス瓦が美しい1935年建築の旧校舎は、国登録有形文化財に指定されている。

 明倫館跡には、高杉や桂小五郎(のちの木戸孝允)らがけいこした剣槍術(そうじゅつ)場・有備(ゆうび)館が移築されている。中に入ると薄暗く、黒光りした道場の板の間から、ひんやりとした冷気が足の裏に伝わってきた。

 一角には1年間限定の「文(ふみ)と萩物語 花燃ゆ大河ドラマ館」もある。特に女性たちに人気があるのは、質問に答えると回答者がどのタイプの志士に当てはまるか診断できる「志士判定おみくじ」。結果を互いに見せ合ってはしゃぐ姿も見られた。

 市内を歩くと、武家屋敷の土塀など幕末の面影が残るゾーンも。そして大きな夏ミカンが所々で目についた。松陰の死から4年後の1863年、外国艦船の攻撃を避けるために藩主・毛利敬親(たかちか)が藩庁を山口に移したが、財政が傾いた藩にとっては夏ミカンが貴重な収入源になったという。今では、萩の名産物として、ゼリーやジャムに加工され、定番のお土産になっている。

高杉晋作と久坂玄瑞をイメージした衣装(右が高杉)=山口市の十朋亭で

高杉晋作と久坂玄瑞をイメージした衣装(右が高杉)=山口市の十朋亭で

 山口市にも足を運んだ。市指定文化財の十朋亭(じっぽうてい)は、豪商の屋敷の離れを萩藩士の宿泊所として用いたもので、伊藤や高杉ら多くの藩士が利用した。古びた小さな門をくぐると、木造平屋の建物が、ほぼ当時のまま残されていた。

 ここでは藩士をイメージした衣装を貸し出している。高杉や久坂玄瑞の衣装を着た若い女性たちがいた。高杉も久坂も亡くなったのは20代。企画したNPO法人「大路小路まち・ひとづくりネットワーク」の河野智さん(39)は「2人に憧れて訪れる同世代の女性が増えました。志を貫いた生き方に共感しているようです」と言う。衣装を身につけた女性たちの顔が引き締まって見えた。

 松下村塾聯には続きがある。「一己(いっこ)の労を軽んずるに非ざるよりは、寧んぞ兆民の安きを致すを得ん」。やるべきことに努力を惜しむようでは、世の中の役に立つ人になれない-。信念に従って生きた松陰の言葉が重く胸に響いた。

 文・写真 久野千恵子

(2015年4月3日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
萩市へは、山陽新幹線の新山口駅から2社の路線バスがある。
来年1月10日までは、「文と萩物語 花燃ゆ大河ドラマ館」開催に合わせ、明倫館跡まで約1時間の直通バスも。
市内観光には、1乗車100円、1日券500円の「萩循環まぁーるバス」が便利。

◆問い合わせ
萩市観光協会=電0838(25)1750
NPO法人大路小路まち・ひとづくりネットワーク=電083(920)9220

おすすめ

「ふみ御膳」

「ふみ御膳」

★萩しーまーと
2月に国土交通省から、全国モデルにも選定された「道の駅」。
レストラン「来萩(きはぎ)」では、ドラマを機に松陰の妹で主役の文をモチーフにした「ふみ御膳」(2484円)を提供。
鮮魚売り場で購入した魚介をお好みに調理してくれる食堂「浜料理がんがん」も併設している。電0838(24)4937

★萩博物館
萩市営施設で松陰や高杉、久坂の書簡、高杉の剣道着や木刀などを展示している。
開催中の特別展「兄松陰と妹文 杉家の家族愛」では、松陰と文がつづった家族宛ての直筆の手紙などを公開。
入館料は大人510円。年中無休。電0838(25)6447

★防府天満宮大専坊跡
山口県防府市にある。
「禁門の変」への出兵をめぐり、高杉と来島又兵衛が激論を交わした場所。
通常は門を閉じているが、大河ドラマを受け、来年1月11日まで開門している。電0835(23)7700

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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