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波佐見焼の里

波佐見焼の里 長崎県波佐見町 伝統と新しさが共存

町のあちこちで見られる天日に干す器の生地

町のあちこちで見られる天日に干す器の生地

 高台から望むと、山あいの里にれんがの古い煙突が4、5本、立っているのが見える。今では人気のブランドとなった波佐見(はさみ)焼の産地、長崎県波佐見町の中尾山地区だ。「昔の薪と違って今はほとんどガスの窯ですが、煙突は残してもらっています」と案内してくれたはさみ観光ガイド協会の児玉涼子さん(62)が言った。古い煙突は「陶郷中尾山」のシンボルだ。

 町を歩けば、分業生産のため、焼く前の生地を窯元へ運ぶ低速の車が行き来し、軒先には、天日に干す器の生地が日差しに白く輝いている。

 波佐見焼は、16世紀末、朝鮮人陶工によって始まり、400年以上の歴史を持つ。江戸時代には、ここで産出する陶石を用いて磁器の生産が本格化した。大型の登り窯がいくつも造られ、茶わんなど安い日用食器が全国に大量に供給された。陶磁器が庶民でも使えるようになったのは波佐見焼のおかげともいわれる。京・大坂では「くらわんか碗(わん)」と呼ばれた。

 その割に近年まで名前は知られていなかった。県境を挟んで隣の有田焼(佐賀県)などの陰に隠れた。積み出しが有田駅だったことから、有田焼として出荷された時代も長かった。

やきもの公園にある古今の珍しい窯を再現した「世界の窯広場」

やきもの公園にある古今の珍しい窯を再現した「世界の窯広場」

 1978年の伝統的工芸品指定が独自のブランドづくりのきっかけとなった。陶磁器需要の落ち込みも転換を促した。家が地場大手の商社でもある児玉さんは「安い輸入品や、急須を使わないなど生活スタイルの変化もある。時代に合わせ、波佐見焼が得意なカジュアルな器を目指すようになった」と話す。

 鍋島藩の御用窯だった有田焼などと違って「庶民の器を作ってきただけに気取りのなさが強み」(児玉さん)と、いち早く取り入れたパステルカラーやポップなデザインが若い人に人気を呼んだ。自由な雰囲気を求めて若い陶芸家も移り住んだ。

 観光にも力を入れた。町中心部のやきもの公園には、古代から近世にかけての珍しい窯12基を再現した「世界の窯広場」がある。また、波佐見焼が始まった当時の窯を再現した国史跡「畑ノ原窯跡」や、全長170メートルで世界一という登り窯の復元作業も行われている。

窯元の倉庫の雰囲気を残した「南創庫」と池田真美さん=いずれも長崎県波佐見町で

窯元の倉庫の雰囲気を残した「南創庫」と池田真美さん=いずれも長崎県波佐見町で

 いま脚光を浴びるのが県道1号沿いに誕生した、通称「西の原」だ。廃業した老舗の窯元の工場跡地を活用した。若い感覚の波佐見焼のショップやカフェ、ギャラリーなど5店舗が入る。

 建物の外装は当時のまま。内装も、器を並べた皿板や、配電、碍子(がいし)などを残し、古さと新しさが同居する不思議な感覚を醸し出している。平日にもかかわらず、事務所だった入り口のカフェは、県内外からの若いカップルらでほぼ満席だった。

 中央の坂を上って器の店「南創庫」へ。元は倉庫だ。店を受け持つ池田真美さん(25)が、坂は登り窯の跡だったと教えてくれた。「若い人には、1万円を超すような高い商品がないことも気軽に買い物が楽しめる理由では」と話した。

 同じ西の原地区にやや離れて「旧波佐見町立中央小学校講堂兼公会堂」の建物がある。1937年建築で木造洋館としては九州最大規模。2010年に国登録有形文化財となり、新たな観光スポットとなっている。

 旧講堂前にある波佐見焼ショップ「松原工房」。店に一歩入ると、明るい器の色で華やいだ雰囲気。代表の奥田容子さん(40)は大阪府出身。京都、有田で焼き物を学んだ後、7年前、「独立するなら気風のおおらかな波佐見で」と町内に工房を起こした。スタッフは全員女性。伝統を守りたいと、ろくろを用いた生産を続けている。

 「波佐見焼は毎日の食卓で使われることが1番。器を使う女性たちにエールを送るつもりで作っています」と奥田さん。日本の日用食器を担ってきたという自負と心意気がのぞいた。

 文・写真 朽木直文

(2015年4月17日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
やきもの公園へは、長崎空港から佐世保行きのバスに乗り約40分で川棚バスセンター。ここで嬉野(うれしの)方面行きバスに乗り換え約20分。
JR三河内駅からバスで約15分、JR川棚駅からバスで約20分。
車は、西九州自動車道の波佐見有田ICから約5分。

◆問い合わせ
波佐見町観光協会=電0956(85)2290

おすすめ

ミナミ田園 菜園御膳

ミナミ田園 菜園御膳

★陶芸の館「観光交流センター」(くらわん館)
やきもの公園の一角にある。
1階は波佐見焼を中心に地元産の棚田米、お茶などの特産品を販売、
2階は波佐見焼の歴史や伝統、工程などを展示紹介。絵付け師ロボットの語りも。
割安で焼き物が買えると好評。
電0956(85)2214

★陶農レストラン「清旬(せいしゅん)の郷(さと)」
波佐見焼の器で地元産の野菜、鶏肉などの食材を用いた料理を提供。
「ミナミ田園 菜園御膳」は1400円。石窯で焼いたピザも人気。
原則水曜定休。
電0956(85)6288。
隣接する源泉かけ流しの「はさみ温泉 湯治楼(ゆうじろう)」は不定休。
中学生以上600円など。
電0956(76)9008

★波佐見陶器まつり2015
29日~5月5日、やきもの公園広場などで開催。今年で57回目。
町内の約130の窯元・商社などが出店する長崎県内最大の焼き物の祭典。
期間中、延べ約30万人の人出でにぎわう。
同まつり協会=電0956(85)2214

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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