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「重文」ずらり 間近に

「重文」ずらり 間近に 滋賀県湖南市 古仏に会う

善水寺で特別公開中の金銅誕生釈迦仏立像と梅中尭弘住職。東大寺の誕生仏像(右手前の写真内)とそっくり=いずれも滋賀県湖南市で

善水寺で特別公開中の金銅誕生釈迦仏立像と梅中尭弘住職。東大寺の誕生仏像(右手前の写真内)とそっくり=いずれも滋賀県湖南市で

 琵琶湖の東南、岩根山(405メートル)の中腹にある善水寺。奈良時代に開かれ、平安時代に最澄が再興した古刹(こさつ)だ。梅中尭弘(うめなかぎょうこう)住職が本堂の一角で、手にした桐(きり)箱の中から金銅の仏像を取り出し、足裏の突起をコトッと台座に差し込んだ。

 高さ20センチ強。わきには、すすけた木札に「旧 國寳(こくほう)」の文字。明治時代に指定された旧国宝で、現在は重要文化財(重文)だ。

 「誕生釈迦(しゃか)仏像です。有名な東大寺の誕生仏(国宝)と同形ですが、高さはちょうど半分。密接な関係があるのでしょう。こちらの方が古いかもしれません」

 右手で天を指し「天上天下唯我独尊」と唱えたという誕生直後のお釈迦様。東大寺の像と同様、8世紀ごろの作とされる。近づくと、頭部の螺髪(らほつ)の作りが精緻。1200年もの間、信仰を集め続けた姿に吸い寄せられる。普段は非公開だが、現在は特別公開されている。

入り母屋造り檜皮ぶきの優美な天台密教仏殿である善水寺本堂

入り母屋造り檜皮ぶきの優美な天台密教仏殿である善水寺本堂

 善水寺は、境内の池の水が桓武天皇の病を治したことから名が付いたと言われる。檜皮(ひわだ)ぶきの本堂が文化財保護法に基づく国宝で、安置仏像のうち15体が旧国宝の重文と、見どころが多い。

 特にことしは、寺の開創1300年などを記念し、4月19日から6月14日まで、寺宝の筆頭である本尊・薬師如来を14年ぶりに開帳している。本堂厨子(ずし)内に納められたふくよかな顔の本尊を拝んだ後、後堂に回ると、そこにも重文がずらり。珍しい僧侶の姿をした平安時代の文殊菩薩(ぼさつ)、怒りの形相がすさまじく、鎌倉時代の仏像の特徴をよく表した持国天、増長天…。

 隔てるものもない台上に横一列に並ぶ。「足腰守護」「学業成就」と書かれたお守りが、その前に何げなく置かれている。「僧侶の修行の場として開かれた寺。一般の人がここまで入るなど、昔は考えられなかったと思います」。そう住職から聞かされれば、結縁(けちえん)を願わずにはいられない。慌てて財布内を探り、小銭をさい銭箱に入れた。

正福寺観音堂に安置された4体の十一面観音立像

正福寺観音堂に安置された4体の十一面観音立像

 間近に見ることができる重文の仏像は、善水寺の北西3キロ、正福(しょうふく)寺にもあった。参道を上り、本堂横の観音堂へ。畳敷きの内部の正面には平安時代の6体の仏像。中でも、すっくと立った4体の木造観音像が目を引く。最も高い像は215センチ。木の地肌そのままの色や全体にのっぺりとした造形には、善水寺の仏像のような重厚感が少ない。その訳の1つは、織田信長軍の近江侵攻にあった。

 「攻撃を察知した僧侶や村人が、地中に埋めたり、池に沈めたりして難を逃れたんです」

 山川正道(しょうどう)住職(64)が説明してくれた。元は金箔(きんぱく)、彩色が施されていたが、受難の中で剝落。さらに明治期、折れた腕を継ぎ足したり、衣の彫刻を切り取ったりと「雑ぱくな」(住職)修理が行われた。100年たてばそれも歴史の一部。人間くささ漂う姿がかえっていとしさを誘う。

 同寺も開創から約1300年の古刹だが、荒廃の時期も長く、観音堂は1969年建築と新しい。寺側は、行政の補助金を得て建設する堂では基準が厳しく「ガラス越しに仏像を拝むことになる」と、あえて、寄進により簡素な堂を建てた。

 滋賀県の古刹といえば、紅葉の名所・西明(さいみょう)寺(甲良町)など「湖東三山」が名高い。それに比べて、湖南市は「合併で2004年に市が誕生してからようやく、善水寺などのPRに本腰を入れ始めた」(市観光担当者)という状況。しかし、その分、静かに、じっくり拝観できる。「田舎だけにあまり欲がなくて」(同)との素朴な土地柄に感謝-。

 文・写真 白鳥龍也

(2015年5月1日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
善水寺へは、JR草津線甲西駅から、本尊御開帳期間中に運行される臨時シャトルバスが便利。車は名神高速・竜王ICから約20分。
正福寺へは、同駅からコミュニティーバスで約10分の「東正福寺」で下車。

◆問い合わせ
湖南市観光協会=電0748(71)2157。正福寺の拝観は、同寺=電0748(72)0126=に予約が必要。

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