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仙酔島

仙酔島 広島県福山市 江戸の将軍も認めた“絵”

朝鮮通信使をもてなした福禅寺・対潮楼からの眺め。後方が仙酔島。手前は弁天島

朝鮮通信使をもてなした福禅寺・対潮楼からの眺め。後方が仙酔島。手前は弁天島

 「島の景色の、あまりの美しさに仙人が酔った」-。そう聞かされていて、いつかは行きたいと思っていた。渡し船が出る鞆(とも)港に着くと、目の前に弁天島、その奥に仙酔(せんすい)島が横たわっていた。なかなかの眺めである。頼山陽は、この辺りの景色から「山紫水明」の言葉を思い付いた。そして江戸時代、征夷大将軍が就任するたびに来日した朝鮮通信使の接待にも、この景色が使われたのだという。

 朝鮮通信使の宿舎にもなった広島県福山市鞆町、福禅寺の客殿「対潮楼(たいちょうろう)」は、鞆港のすぐそばにある。仙酔島に向けた造りの狙いは、すぐに理解できた。窓際に座ると柱が額縁になり、景色は美しい絵になった。朝鮮通信使の従者が、「日東第一形勝(朝鮮より東でいちばん美しい景勝地)」と称賛したことにも、うなずけた。仙酔島を中心とする瀬戸内海は1934(昭和9)年、雲仙、霧島とともに、わが国で最初の国立公園となった。

世界で55カ所、日本ではここだけという五色岩が海辺で見られる

世界で55カ所、日本ではここだけという五色岩が海辺で見られる

 島に渡り、まず足を運んだのは南側の海岸沿いにある五色岩。マグマが固まってできた火成岩だ。その日の天気やぬれ具合、太陽光の加減で黒、青、白、赤、黄色のように見える。インドの聖典・ベーダによると「宇宙の神秘を秘めた五色の岩に巡り合う人は、永遠なる幸福の扉が開かれる」のだそうだ。五色岩は、世界の55カ所で見られるとされているが、国内では仙酔島だけ。カップルや家族連れが、岩と一緒に写真に納まっていた。

 この辺りは穏やかな気候なのだろう。島内の自然散策路沿いには高さが10メートル近くもあるウバメガシが目立ち、生い茂る枝葉でトンネルのようになったゾーンも。涼しそうなので夏場に来ても良さそうだ。

江戸風呂には、瀬戸内海に面した露天風呂もある=いずれも広島県福山市鞆町で

江戸風呂には、瀬戸内海に面した露天風呂もある=いずれも広島県福山市鞆町で

 パワースポットの五色岩にあやかり島内の「人生感が変わる宿 ここから」では、2001年から東洋医学を組み合わせた「江戸風呂」を営業している。リピーターが多いと聞き、試してみた。人工の洞窟蒸し風呂は、5分もすると汗が噴き出してきた。加温した海水風呂は、肌がツルツルに。冷水風呂は“世界一大きな露天風呂”なる瀬戸内海だ。どれも短パンとポロシャツ着用で入る。1時間余りのコースを一通りこなすと、頭がすっきり、体も軽くなった。

 この風呂の良いところは、着衣なので男女混浴が可能なこと。洞窟蒸し風呂は薄暗く、初対面でも話しやすいことではないだろうか。大阪から来た中年の女性グループとは、すぐに打ち解け合い、たわいもない雑談で盛り上がった。「景色もいいから、癒やされるんですよねー」と皆が上機嫌。

 鞆の浦を挟み、対岸も同じ鞆町。ここはアニメ映画の巨匠・宮崎駿(はやお)監督が「崖の上のポニョ」の構想を練るため数カ月間滞在したことでも知られる。かつて潮待ちで栄えた鞆港には、高さ11メートル、日本一を誇る石造りの常夜灯などが残り、江戸時代の情緒も少しばかり味わえる。近くで雑貨店を営む年配の女性は「映画やテレビの撮影がよくあるんですよ」と話してくれた。備後(びんご)安国寺や坂本龍馬ゆかりの名所、江戸期に建てられた立派な造りの商家もあり、半日がかりで訪ね歩いた。

 おちがある。地元の人に尋ねると「仙人は、美しい島の景色に酔ったのではなく、島にいて美しい景色をさかなに酒を飲み、酔っていた」のだという。つまり、酔っていたのは本州側ではなく、島の中腹「仙人ケ丘」(標高68メートル)だった。下りだと、頭から持って行かれそうな急坂を数百メートル上ると丘に着いた。少し開けた場所があり、辺りの茂みからは鮮明なウグイスの鳴き声。息を落ち着かせて見回すと、瀬戸内海に向けての眺めは申し分なし。だが本州方向は、人の手で自然が損なわれ、仙人と同じような感動は味わえなかった。

 文・写真 富永賢治

(2015年5月8日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
仙酔島へは、JR福山駅からバスで終点の鞆港まで約30分。
広島空港からは鞆港まで車で約1時間。
鞆港から島へは、市営の渡し船が頻繁に運航されている。
所要時間は約5分。乗船料は大人が往復240円。

◆問い合わせ
広島県・福山観光コンベンション協会=電084(926)2649

おすすめ

鯛茶漬け

鯛茶漬け

★鞆の浦歴史民俗資料館
鞆町を中心に、瀬戸内の歴史や文化に関する資料を展示している。
入館料は一般150円、高校生以下は無料。
月曜(祝日の場合は翌日)休館。電084(982)1121

★鯛(たい)料理
鞆町の飲食店では、タイを使ったいろんな料理が味わえる。ご飯の上に薄切りの身を載せ、熱々のだしをかける「鯛茶漬け」は、1人前千数百円から。ほかに加工品の鯛みそなどもある。

★保命酒(ほうめいしゅ)
江戸時代前期に医者が考案した薬用酒。もち米での、みりん製造工程を基本に、地黄など13種類の生薬を加えて造る。甘口でオンザロックにして飲むとおいしい。価格は店、種類などによって異なるが、1.8リットルで2800円程度。

★江戸風呂
「人生感が変わる宿 ここから」での受け付けは、午前10時から午後4時半まで。混浴。
料金は着衣とタオルの貸出料込みで1700円(税別)。電084(982)2111

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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