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足尾銅山

足尾銅山 栃木県 産業の近代化 光と影

足尾観光に欠かせない、わたらせ渓谷鉄道

足尾観光に欠かせない、わたらせ渓谷鉄道

 むせ返るような緑と花をかき分けトロッコ列車が渓谷沿いの単線を走る・・・。足尾の旅は「わたらせ渓谷鉄道」(わてつ)に乗った瞬間から始まる。先頭の車窓に流れる景色に思わず息をのむ。いい年して恥ずかしいとは思いつつ、子どものように車窓にかじりついた。

 栃木県日光市足尾町は「足尾銅山」を中心とした産業遺産の町だ。江戸から昭和にかけての約400年、ここで銅の採掘と製錬が行われた。1890年ごろには日本の銅の40%を産出する日本一の銅山となり、1916年には3万8000人もがここで暮らした。しかし73年に閉山となり、現在は約2500人が暮らす過疎の町となった。

 日光市は10年前から足尾銅山の世界遺産登録を目指して活動している。日光市観光協会の鴇田(ときた)妙子さんも「足尾の町が近代日本の礎となったことをアピールしたい」と言う。

鉱石を手掘りする様子をのぞく見学者たち。左手の2人は人形=足尾銅山観光で

鉱石を手掘りする様子をのぞく見学者たち。左手の2人は人形=足尾銅山観光で

 白い木造のかわいい駅舎は、わてつの通洞(つうどう)駅。駅から数分歩くと、当時の銅採掘の様子を人形で再現した「足尾銅山観光」がある。坑道の中は暗くひんやりしている。観光客の親子連れが人形を見ながら「見て! ほとんどはだしで真っ黒になって働いていたんだ」と驚いた声を上げた。

 銅山だった備前楯山は標高1,272メートルのゴツゴツした岩山。400年も掘り続けた結果、その地下はアリの巣のように坑道が張り巡らされ、その全長は東京-博多間に匹敵する1234キロメートルに及ぶ。一人で山道を歩いていると、「サルやクマに出会うことがあるので注意してください」と地元の人から声が掛かった。

ほとんど解体され煙突の周辺だけが残った製錬所跡地=栃木県日光市足尾町で

ほとんど解体され煙突の周辺だけが残った製錬所跡地=栃木県日光市足尾町で

 わてつの終点「間藤(まとう)駅」から1.5キロ北には製錬所の跡地。施設はほとんど解体され、1919年に建てられた高さ50メートルの大煙突など一部のみ残る。渡良瀬川の対岸から跡地を遠望すると、亜硫酸ガスの煙害で荒廃した山肌が四方に見え、そのすさまじい環境破壊が実感できる。でもここは、56年には亜硫酸ガスの排出を大幅に抑制した最新鋭の製錬所が建設され、日本が脱公害に向けて踏み出した場所でもある。

 悲惨な足尾鉱毒事件が起きた公害の町であると同時に、日本産業の近代化を長い間支えた町でもある。親子四代足尾に住む、国民宿舎「かじか荘」の小野崎一(はじめ)支配人(44)は「公害のことはよく知られているが、足尾が日本の勃興期の産業を牽引(けんいん)してきたことはあまり知られていない。足尾銅山の光と影の部分をしっかり見てもらい、ここを環境教育の場にしてほしい」と話す。

坑内作業を終えた人たちの風呂場の跡地。ひどい汚れを落とす湯と体を休める湯の2層構造になっている=栃木県日光市足尾町で

坑内作業を終えた人たちの風呂場の跡地。ひどい汚れを落とす湯と体を休める湯の2層構造になっている=栃木県日光市足尾町で

 そんな荒廃した山々を緑化しようと、ここではさまざまな団体が植樹運動を進めている。「足尾に緑を育てる会」事務局長の神山悠利(ゆり)さんは「この20年間で私たちは17万本を植樹した。現在、全体の50%が緑化され10%に樹木が生えたが、あと100年かかるかも」と言う。会のホームページには植樹イベントの日程が掲載され、各地から多くの人が駆けつけてくる。

 銅山の西側を流れる庚申(こうしん)川沿いには、ダイナマイトの火薬庫跡や削岩機を駆動する圧縮空気の動力所跡、廃石や物資などを運んだロープウエーの索道トンネル、鉱山職員らの住宅地跡など、産業遺産が残る。

 鉱山会社の社宅は数多くあった。その一部は今も残り、閉山後もそこに住み続ける人たちがいる。生まれ育った町を愛する気持ちは足尾も変わらない。かつて4万もの人が生活した、この町のにぎわいを思った。

 文・写真 引野肇

(2015年5月15日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
足尾町へは、JR両毛線の桐生駅か東武鉄道・桐生線の相老(あいおい)駅で、わたらせ渓谷鉄道に乗り換え、足尾観光の中心となる通洞駅や足尾駅で下車。
東武鉄道・日光線の東武日光駅からは市営バスで約50分。鉄道もバスも便数が少ないので注意。

◆問い合わせ
日光市観光協会足尾案内所=電0288(93)3417

おすすめ

足尾歴史館

足尾歴史館

★足尾銅山観光
実際の坑道に採掘の様子を人形を使って再現。
通洞駅から徒歩5分。
大人820円、小中学生410円。

★足尾銅山の産業遺産を巡るツアー
27日午前コース(火薬庫跡、索道トンネル、社宅跡など)と同午後コース(小学校跡、沈殿池跡、火薬庫跡など)。
詳しくは足尾テラスのホームページで。
申し込みは新関東観光=電0288(26)6190

★天然温泉・庚申(こうしん)の湯
国民宿舎「かじか荘」内にあるアルカリ単純泉。
日帰り入浴は大人610円、小学生300円。
問い合わせは、かじか荘=電0288(93)3420

★足尾歴史館
明治時代の写真、鉱山機械、足尾関連の書籍などを展示。
入場料は大人350円、小中学生250円。
通洞駅から徒歩5分。原則月曜と冬期休館。

★コロッケ
地元で人気の通洞駅近くの「ますや」の手づくりコロッケ。
1個100円。日曜閉店。

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