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五色沼湖沼群

五色沼湖沼群 福島県 絵画思わす翡翠の青

水面に幻想的な景色が浮かぶ青沼=福島県北塩原村で

水面に幻想的な景色が浮かぶ青沼=福島県北塩原村で

 東京では汗ばむほどの日差しが照り付けていた5月半ば、福島県北塩原村はまだ肌寒く、桜がちらほらと咲いていた。JR猪苗代駅から北へ15キロほどの裏磐梯ビジターセンターから少し歩くと、目の前に五色(ごしき)沼の1つ、毘沙門(びしゃもん)沼が広がっていた。水は沼の底が見えるほど透き通り、翡翠(ひすい)のように鮮やかで、どこか優しい青色をしている。絵画の中に迷い込んだようにうっとりして、しばし時間を忘れた。

 五色沼の歴史は浅い。1888(明治21)年、磐梯山の噴火により岩石や土砂が川の流れをせき止め、大小300あまりの湖沼群が生まれた。五色沼は、その中で最も大きな檜原(ひばら)湖の南岸付近から東へ延びる3.6キロの自然探勝路の周りに点在する30ほどの沼の集まりで、正式には「五色沼湖沼群」と呼ばれる。

 沼は磐梯山火口付近の銅沼を水源とし、水中に浮かぶ鉱物の粒子の層に太陽光が反射するため、水が鮮やかな青色に見える。周辺の植物や水質によって沼ごとに色合いは微妙に異なる。青沼と呼ばれる小さな沼は、沼底で育ったウカミカマゴケの濃緑と、水面に映り込む新緑や青空が混じり合い、幻想的な風景が浮かんでいた。

「浪江町とは気候や気圧が違い焼き上げの温度や時間を探るのに苦労した」と語る半谷秀辰さん=福島県二本松市で

「浪江町とは気候や気圧が違い焼き上げの温度や時間を探るのに苦労した」と語る半谷秀辰さん=福島県二本松市で

 噴火はこの地に美しい景観をもたらしたが、崩れた山は雪崩のようになって山麓の集落を襲い、477人の命を奪ったと伝えられる。毎年7月に檜原湖で開かれる「裏磐梯火の山まつり」では、噴火で犠牲になった人々を供養する慰霊祭があり、灯籠流しも行われる。村商工観光課主事の佐藤喬さんは「噴火の歴史とともに、四季折々に異なる景観を見せる五色沼の魅力を多くの人に伝えていきたい」と力を込めた。

 五色沼から東へ約50キロ、同県二本松市の「陶芸の杜(もり)おおぼり二本松工房」は、2011年3月の東京電力福島第一原発事故によって避難区域となった同県浪江町の伝統工芸「大堀相馬焼」の灯を守り続けている。協同組合が12年7月に作業場や販売所を構え、窯元の再起を後押ししてきた。組合に所属する20軒のうち、これまでに8軒が避難先で窯を再開したという。

 大堀相馬焼は美しいひび割れ模様が器全体に広がり、「走り駒」という疾走する馬の絵が柔らかい筆遣いで描かれる。「いつか故郷に戻る日まで伝統を絶やさないよう、頑張ってやっていくしかない」。組合理事長の半谷秀辰(はんがいひでとき)さん(61)の言葉が、ずしりと胸に響いた。

オオデマリやツツジが見ごろを迎えた花見山公園=福島市で

オオデマリやツツジが見ごろを迎えた花見山公園=福島市で

 旅の締めくくりに訪れたのは福島市の花見山公園。「春になったら一度は行ってみろ」。原発事故の影響で同市の仮設住宅に暮らす同県双葉町や浪江町の人たちから、取材のたびにそんな言葉を何度も聞いていた。

 花見山公園は、花木農家の故・阿部伊勢次郎さんが1959年に敷地を無料開放し、桜の名所として知られるようになった。約5ヘクタールの花木畑では季節に応じて約30種類の花が咲き競う。5月に入ってもオオデマリやツツジ、サンザシなどが彩りを添えていた。今を精いっぱい咲く花たちに囲まれていると、日常を離れ、心がスッと軽くなる。避難生活を続ける人たちが、この場所を勧めてくれた理由が分かる気がした。

 4月上旬には「希望」という花言葉を持つレンギョウが黄色い花を咲かせる。訪れた日にはすでに花は落ち、小さな葉をいっぱいに茂らせた木々が力強く風に揺れていた。来年も再来年もその先も、希望の花が福島に咲き続けますように-。
  文・写真 増田紗苗

(2015年5月29日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
五色沼へは、JR東京駅から東北新幹線・郡山駅で磐越西線に乗り換え、猪苗代駅から磐梯東都バスで約30分。
車は東北道と磐越道で猪苗代磐梯高原ICから約25分。

◆問い合わせ
裏磐梯観光協会=電0241(32)2349、福島県観光物産交流協会=電024(525)4024

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二本松市の郷土料理「ざくざく」

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★フルーティアふくしま
JR東日本が磐越西線郡山-会津若松間で4月から運行を始めた観光列車。
テーブル付きとカウンター付きの2両編成で、景色を眺めながら福島県産の果物を使ったケーキなどのスイーツと飲み物が楽しめる。
主に土日祝日運行。乗車時間は約1時間。座席はすべてスイーツセット付き。
空席状況などの問い合わせは「びゅう予約センター仙台」=電022(222)9720=へ。

★天鏡閣
1908(明治41)年建築の旧有栖川宮翁島別邸。
猪苗代湖を見下ろす高台にあり、ルネサンス風の洋風建築で国指定重要文化財。
明治後期の内装や調度品が復元されている。
入館料は大人360円など。電0242(65)2811

★二本松市の郷土料理「ざくざく」
さいの目切りにした野菜がたっぷり入った汁物で、昔から冠婚葬祭など特別な席で食べられた。蔵カフェ「千の花」=電0243(24)7018=では、干し貝柱でだしを取ったざくざく付きのランチセットが人気。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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