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御輿来海岸

御輿来海岸 熊本県 砂の芸術 夕日に映え

夕日を浴びる御輿来海岸。幻想的な風景を収めようと大勢のカメラマンがレンズを向ける。後方は雲仙・普賢岳

夕日を浴びる御輿来海岸。幻想的な風景を収めようと大勢のカメラマンがレンズを向ける。後方は雲仙・普賢岳

 有明海に面した熊本県宇土(うと)市。西部の御輿来(おこしき)海岸では、潮が引くと干潟に波のような模様が浮かび上がる。波の作用で作られる「砂紋」と呼ばれる模様だ。潮の引きが大きい大潮の日には、はるか沖まで砂紋が広がる。特に年に十数回、大潮の干潮時間帯と日没が重なる日には、見渡す限りの干潟が夕日を浴び、雄大な風景が広がる。

 その景色を一目見ようと、海岸を見渡す展望台「干潟景勝の地」へ向かった。日没の2時間前にもかかわらず、展望台には大勢の観光客が集まっていた。干潟を見渡す斜面に腰掛け、夕焼けを待った。日が傾き、西の空があかね色に染まり始める。砂紋に取り残された水たまりが夕日を反射し、赤と黒の美しいコントラストが生まれた。集まった観光客らの歓声が上がる。

 この模様は満潮になると海底に沈み、次の干潮時には異なる形になるという。同じパターンは二度と見られない。自然の芸術に息をのんだ。三重県四日市市から車で訪れた仲見一也さんは「高校の修学旅行以来、40年ぶりに来た。印象に残っていたからずっと来たいと思っていた」と赤と黒の曲線美にカメラを向けていた。刻々と色濃く染まる干潟に見とれているうちに、太陽は雲仙・普賢岳の山すそへ沈んだ。西の空が暗くなるまで、最高のたそがれ時を楽しんだ。

 「干潮と日の入りが重なる日は御輿来海岸に大勢の人が訪れるが、その前後の日も思わぬ絶景に出合えることも。晴れていないと夕焼けも見られない。日程には余裕を持って来て」と地元の老人は話した。御輿来海岸の干潮や日の入り時間は、宇土市観光物産協会のホームページなどで確認できるので、また来るときの参考にしよう。

明治時代のたたずまいが残る網田駅舎内で営業しているカフェ「網田レトロ館」

明治時代のたたずまいが残る網田駅舎内で営業しているカフェ「網田レトロ館」

 御輿来海岸の最寄り駅、JR三角(みすみ)線の網田(おうだ)駅に立ち寄った。1899(明治32)年に建てられた木造駅舎は、熊本県内では現存する最古の駅舎。国の登録有形文化財になっている。赤い屋根瓦やアクリル板で仕切られたきっぷ売り場など、至る所に明治のたたずまいが残る。かつては天草諸島と本土をつなぐ路線として栄えたという。今は無人駅だが、駅舎には土日祝日のみ営業のカフェ「網田レトロ館」が併設されている。「網田駅を人が集まる場所として生かしていきたい」という思いから地元の団体が経営している。歴史ある駅舎内では、地元産の食材を使ったいろいろな料理が楽しめる。

 翌日は、キリシタン大名・小西行長が築いた城下町の面影が残る市東部の市街地を散策した。中心部を走る用水路「轟泉(ごうせん)水道」をたどると、日本名水百選に選ばれている轟(とどろき)水源に着いた。古くから水資源に恵まれなかった宇土市では貴重な水源だ。江戸時代に造られた用水は今も市民の生活を潤している。水源から湧き出る水をくみに、たくさんの地元の人たちがポリタンクを手に訪れる。すぐ下流では子どもたちの楽しそうな声が響いていた。

日本名水百選に選ばれている轟水源。子どもの遊び場としての役割も担う=いずれも熊本県宇土市で

日本名水百選に選ばれている轟水源。子どもの遊び場としての役割も担う=いずれも熊本県宇土市で

 見どころの多い行楽地と思っていたのに宇土市教育委員会の赤沢憲治さんは「“うど市”と読み間違えられることも多いんです」とこぼす。御輿来海岸の独特の景観も、必ず見られるとは限らないので、訪れることをためらってしまうのだろう。しかしその分、出合えたときの感動は大きい。干潟に浮かぶ波模様は、今でも脳にしっかりと刻まれている。
  文・写真 大橋脩人

(2015年6月5日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
宇土市へは、JR熊本駅から鹿児島線で約12分。
熊本空港からは車で約1時間。

◆問い合わせ
市観光物産協会や市観光情報サイトに見どころや飲食店が紹介されている。
市商工観光課=電0964(22)1111

おすすめ

マテ貝を使った料理

マテ貝を使った料理

★グルメ
御輿来海岸で採れることから「おこしき貝」の別名もあるマテ貝を使った料理。
市内の飲食店では、バター焼きや煮物などが味わえる。
甘い果肉が特徴の網田ネーブルは、1~3月が食べごろ。
春が旬の甲イカや紋甲イカも絶品。

★網田焼の里資料館
繊細で質の高いことで知られる網田焼の作品のほか、数多くの民俗資料を展示。
土日祝のみの開館。入館料は大人200円、小中学生100円。
電0964(27)1627

★長部田海床路
干潮のときも漁に出られるようにと、干潟の上に造られた漁業用の道。
潮が引くと海底から現れる。
満潮時、海の中に電灯が立つ光景が人気の写真スポット。

★道の駅「宇土マリーナ」
クルージングやウインドサーフィンなど、さまざまなマリンスポーツが楽しめる。
物産館では市内産の農産物や海産物を取りそろえるほか、魚介料理が味わえる食堂も併設している。
第2、4水曜(祝日の場合は翌日)休館。電0964(27)1788

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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