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熊野の参詣道

熊野の参詣道 和歌山県 聖地の絶景 息をのむ

世界遺産になっている紀伊山地参詣道の熊野川。自然豊かで雄大な景色が広がる

世界遺産になっている紀伊山地参詣道の熊野川。自然豊かで雄大な景色が広がる

 世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」に含まれる熊野本宮大社(和歌山県田辺市本宮町)へ続く熊野川沿いの道を、下流からさかのぼると同県新宮市北部で突然、絶景が現れた。真っ青な空を、そのまま写したかのような川の参詣道・熊野川と、緑あふれる山々。そして、白く輝く汚れのない河原。まさに聖地といえる光景に息をのみ、しばし見入った。

 しばらくすると10人ほどの行楽客を乗せた川舟が下ってきた。新宮市熊野川町の民間団体が地元の日足地区から熊野速玉大社までの約16キロ区間で運航する舟下りの一行だ。上流の熊野本宮大社に参拝した公家のお姫さまたちは舟で、従者は河原を歩いて熊野速玉大社まで下ったという歴史に倣い、2005年から始めた。川沿いの高台から眺めていると、ゆったりした流れで、乗っている人も心地良さそうだ。

 出発地の熊野川川舟センターに立ち寄ると、巡礼姿の阿諏訪勝さん(75)が乗船客に何やら話し掛けていた。地元の歴史に詳しい阿諏訪さんら20人ほどが交代で舟に乗り、1時間余りをかけて、この地域の歴史や見どころを紹介しているのだという。初めて乗ったという20代の女性は「舟からの眺めは、上からとは全然違いました。乗って良かった」と感動した口ぶり。

神倉神社とご神体のゴトビキ岩。ふもとから538の石段が続く

神倉神社とご神体のゴトビキ岩。ふもとから538の石段が続く

 だが、この清流も11年9月の台風12号襲来時には、数十年に一度という集中豪雨で大きく氾濫。場所によっては20メートル近くも水位が上がったのだという。それを物語るかのように、山肌の所々には、その傷痕が残っていた。

 熊野那智大社を含めた熊野三山のうち、最初に大神が降臨した場所は新宮市街地の西方、神倉山中腹(120メートル)にある巨大なゴトビキ岩とされ、神倉神社はこの巨岩をご神体にしている。熊野速玉大社が「新宮」と呼ばれるのは、神倉神社にあった祭祀(さいし)の場を大社に移し、社殿を建立したことに由来する。神倉神社では、毎年2月6日に勇壮な「お燈(とう)まつり」(県無形民俗文化財)が行われ、2000人ほどの男たちが燃え盛るたいまつを手に、538の石段を一気に駆け下りる。女人禁制、男の祭りである。

 市観光協会長の丹羽生(せい)さんによると、「その光景は“山は火の滝 下り竜”といわれ、本当に見事」なのだという。さらに「新宮へ来たのなら、速玉さんだけでなく、本家本元の神倉神社にもぜひ参拝してください」と言われ、汗だくで上がってきた。

 源頼朝が寄進したとされる神倉神社の石段は、滑り台のような急勾配。上り始めると、足はすぐガクガクに、息は絶え絶えになり、手も使いながら何とか中間地点まではい上がった。ここで小休止。すると目の前を高齢の女性や幼児たちが上がって行く。「負けてはいられない」-。自らにそう言い聞かせ、30分ほどをかけて、ようやく神社にたどり着いた。境内の広場からは、市街地とその先の太平洋まで見渡せた。まさに、ご褒美ともいえる眺めで、疲れと汗がすーっと引いていった。祭りは女人禁制だが、参拝は許され、女性や高齢者向けのやや緩い参拝路「女坂」もある。

熊野古道・高野坂からの眺め。太平洋と王子ケ浜などが望める=いずれも和歌山県新宮市で

熊野古道・高野坂からの眺め。太平洋と王子ケ浜などが望める=いずれも和歌山県新宮市で

 市内散策でのお薦めは、海岸線沿いに延びる熊野古道の高野坂。さほど急でなく、木立の陰も多いのでゆっくり歩くと心地よい。所々にある石碑を横目に進んでいくと、お燈まつりのみそぎが行われる王子ケ浜や青々とした太平洋が見渡せた。美しい景色に見とれていると、眼下の海岸縁から「ゴーッ」という場違いな音。確かめるとJR紀勢線の列車だった。 文・写真 富永賢治

(2015年7月3日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
新宮市へはJR名古屋駅から特急で約3時間半、新大阪駅からは約4時間。
車は、名古屋から有料の東名阪道、伊勢道、紀勢道を乗り継ぎ、無料の熊野尾鷲道へ。
熊野尾鷲道の熊野大泊ICで国道42号に移り約3時間半。

◆問い合わせ
新宮市観光協会=電0735(22)2840

おすすめ

さんま寿司(ずし)

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めはりずし

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★熊野川舟下り
定期便の運航は3~11月だが、冬季も6人以上の団体に限り運航する。定期便は午前10時と午後2時半発、貸し切り舟は随時。料金は大人3900円、4歳から小学生まで2000円。幼児不可。予約制で希望者は前日までの午前9時から午後5時の間に熊野川川舟センター=電0735(44)0987=へ。

★さんま寿司(ずし)
塩漬けしたサンマの塩を抜いて調味、酢に浸したあと、すし飯に載せ巻いて作る郷土料理。店や家庭によって微妙に味が異なる。地元で人気の「徐福寿司」駅前店のさんま姿寿司は1人前650円。木曜定休。電0735(23)1313

★めはりずし 塩漬けした高菜を白米のおにぎりに巻く郷土料理。お手軽な弁当代わりにもされる。専門店の総本家「めはりや」新宮本店では1人前4個で560円。水曜定休。電0735(21)1238

★徐福伝説
新宮市には、国内の幾つかの地域と同様、秦の始皇帝の命を受け、不老不死の霊薬を求めて旅に出た徐福一行が上陸したという伝説がある。JR新宮駅から徒歩10分の阿須賀(あすか)神社境内には「徐福の宮」が、その近くには中国風の門を備えた徐福公園がある。

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