【本文】

  1. トップ
  2. 旅だより
  3. ソウル
ソウル

ソウル 韓国 陶工の心 時を超えて 朝鮮陶磁の伝統を訪ねる

引き込まれるような色合いの高麗青磁=ソウルの湖林博物館

引き込まれるような色合いの高麗青磁=ソウルの湖林博物館

 展示室の絞られた照明が、緻密な質感とシルエットをいっそう際立たせる。
 
 韓国の陶磁器文化を訪ねて、まずは首都ソウルの湖林博物館、国立中央博物館と巡った。
 
 盛期の朝鮮陶磁は年代と外観的特徴により青磁、粉青沙器(ふんせいさき)、白磁に大別できる。高麗期の青磁はその淡い青緑色で特に知られる。中国・宋から高麗を訪れた使節の記録『高麗図経』には「陶器の色の青きものは、(高)麗人これを翡色(ひしょく)という」「制作工巧、色沢もっとも佳なり」とある。王たちの調度として、実用と美を頂点で調和させるべく、すべてを注いだに違いない。陶器師の誉れでなく、王の誉れのために。行儀よく並ぶ器たちが、王宮からたどった長い道のりの記憶を、無言で語っているように思えた。
 
 博物館の貴重な収蔵品はガラス越しに眺めるだけだが、仁寺洞(インサドン)の骨董(こっとう)品街へ出掛けると、実際に古陶磁に触れることができる。狭い戸口をくぐり、ほこりっぽい店内をのぞくと、そこは不思議な空間。古陶磁以外にも、石仏像や経文を刻んだ石板などが棚いっぱいに並ぶ。鑑定眼に自信のある人は、思わぬ掘り出し物と出合えるかもしれない。

 ソウルから車で1時間ほどの利川(イチョン)を訪ねた。良質の土や燃料を求めて窯が集まり、現在も多くの陶芸作家が居を構えている。やきものが縁で、愛知県瀬戸市と姉妹都市提携している。
 

積み上げられた薪の横、大きなかまぼこが並ぶかのような登り窯=利川の海剛高麗青磁研究所で

積み上げられた薪の横、大きなかまぼこが並ぶかのような登り窯=利川の海剛高麗青磁研究所で

 山あいに墨田窯を構える金平(キムピョン)さんの父親は、古陶磁の復元で人間文化財となった韓国陶芸界の巨匠・池順鐸(チスンタク)氏の弟子。金さんは孫弟子にあたる。伝統的な作品に加え、茶道の碗(わん)も手がける。ガスや電気の窯だけでなく、昔ながらの薪(まき)を燃料にした登り窯も使う。登り窯で焼くと、まろやかな出来上がりになるそうだ。
 
 窯の焚(た)き口に近いところは、金属分がより酸化され赤みが増す。奥は酸素が少ないので還元され、青みが強くなる。金さんが並べた3つの碗は少しずつ色調が異なり、土と炎が生む変化の妙を見せてくれる。「薪で焼くと狙い通りに仕上げるのは難しいが、時に思いを超越した作品を生み出してくれる」。金さんは穏やかに語った。

 同じ利川にある海剛(ヘガン)高麗青磁研究所は、高麗青磁の神秘的な色を現代によみがえらせた名陶工の海剛・ユグンヒョン氏(海剛は雅号)が晩年に作陶を続けた場所。柳氏の仕事は息子に引き継がれ、敷地内の登り窯は今も現役だ。

 隣接する美術館には、高麗青磁をはじめ、海剛父子が収集した陶磁器コレクションが並ぶ。しーんと静まり返った展示室には、青磁を見つめる1人の女性。彼女の瞳も美しい青だった。ナタリアさんという名で、カナダの大学で先生をしているという。韓国へは出張でやって来た。日本語が堪能なので訳を尋ねると「一時期、大阪の大学で講師をしていました」とのこと。地球も狭くなったものだと、あらためて思った。
 
 ナタリアさんに高麗青磁の印象を聞くと「とてもシンプルで素晴らしい。九谷みたいにゴージャスでないのがいい。もちろん九谷も素晴らしいやきものだけどね」。壺(つぼ)か何か、箱入りの土産も手に提げている。先に訪れた窯元で購入したという。「韓国語は分からないけど、陶芸にはフィーリングでつながるものがある。だから気に入って買いました。機内に持ち込み、両手で大事に抱えてカナダまで持ち帰ります」と笑った。この人は、やきものと心が通じ合えるようだった。

仁寺洞の店で品定めをする観光客=ソウルで

仁寺洞の店で品定めをする観光客=ソウルで

 翌日足を運んだ公州(コンジュ)の鶏龍山(ケリョンサン)は、朝鮮陶磁史の“聖地”の1つ。有田焼の祖・李参平(イサンピョン)はこの地の陶工だったといわれる。東麓の鶴峰(ハクボン)里は、かつてにぎわった窯場。今は草の茂る丘があるばかりの静かな山里になってしまったが、窯跡には、器の破片があちこちに落ちていた。拾って眺めると、何百年も経過しているはずなのに、つい今しがた割れたかのように鮮やかに見えた。いにしえの陶器師たちが込めた情熱が、器の破片を通して伝わってきた。

  写真・文 加藤均

(2015年7月17日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
ソウルへは、隣接する仁川(インチョン)市の仁川国際空港へ、中部や成田から定期便が毎日就航している。
利川へのバスは、ソウル高速バスターミナル(地下鉄の高速ターミナル駅下車)から運行。所要時間は1時間程度で料金は4700ウォン(約520円)。

◆問い合わせ
韓国観光公社名古屋支社=電052(223)3211、同東京支社=電03(5369)1755

おすすめ

米定食

米定食

★仁寺洞
美術・骨董のほか、土産、飲食、ファッションなど雑多な店が軒を連ね、そぞろ歩きが楽しめる商店街。屋台も出ていて、韓国の庶民の味も楽しめる。

★米定食 
韓国の米どころ利川でお薦めのグルメ。韓国では、ご飯は具と混ぜたり煮込んだりすることが多いが、ここではふっくらした釜炊きのお焦げ付きを、さまざまな韓国料理とともに味わえる。お焦げは最後に湯を注ぎ、おかゆのようにして食べる。価格は、店や料理内容により異なるが、1人1万5000~2万ウォン程度。

★ツアー
朝鮮陶磁の逸品を所蔵する博物館、資料館や現代陶工の窯元、歴史に名を残している窯跡などを訪ねる「韓国の伝統美 陶磁器と百済の旅」。9月9日出発で3泊4日。問い合わせは、中日ツアーズ=電052(231)0800=へ。

韓国のツアー情報

一覧

    現在この情報はありません。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

旅コラム
国内
海外