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岩の王国・糸魚川

岩の王国・糸魚川 新潟県 壮大な景色と翡翠の美

北アルプスが日本海にぶつかる親不知の海岸線。道路と鉄道が開通する以前、旅人は命懸けで海沿いを東西に渡っていた=新潟県糸魚川市の親不知で

北アルプスが日本海にぶつかる親不知の海岸線。道路と鉄道が開通する以前、旅人は命懸けで海沿いを東西に渡っていた=新潟県糸魚川市の親不知で

 地形や岩石、断層など、地球のさまざまな活動を身近に学べる世界ジオパークに認定されている新潟県糸魚川市。中でも豪快な景色を楽しめるのは、北アルプスの末端が日本海に落ち込む景勝地・親不知(おやしらず)だ。

 ついたてのような絶壁は高さが数十メートルあり、東西15キロにわたって続く。国内有数の交通の難所で、かつては崖下の浜を歩くしかなかったとか。子どもを波にさらわれた悲しみを歌った平安時代の和歌が親不知の語源という。

 国道8号沿いの展望台からは、最も険しい崖に白波が打ち寄せるのが見えた。海岸をのぞくと、人が下りられる浜はほとんどない。昔はこんな危ない所を通っていたのかと驚かされる。

 「浸食が進み、浜がなくなってしまったんです」。近くで観光ホテルを営む尾崎毅さん(56)は残念そうだ。川の上流から石が流れ出なくなったことも影響していると推測する。

 土木技術の発達が、荒々しい雰囲気を変えた。山を貫いて道路と鉄道が造られ、3月には北陸新幹線も開通。いにしえの人たちが命を賭して渡った海岸線は今、まばゆいばかりの緑が満ちあふれる観光地になった。

美しい緑色の翡翠。形から「翠(みどり)の足」と名付けられている=糸魚川市のフォッサマグナミュージアムで

美しい緑色の翡翠。形から「翠(みどり)の足」と名付けられている=糸魚川市のフォッサマグナミュージアムで

 糸魚川市内には、日本列島が東西2つに割れていたことを示す断層の露頭や、高さ数百メートルの石灰岩の大岩壁など、地球の地殻変動を目の当たりにできる不思議な光景があちこちにある。5億年前、地底の奥深くで形成された宝石・翡翠(ひすい)の産地でもある。

 市南西部の2カ所がヒスイ峡と呼ばれ、巨大な原石が地表に露出している。これが大洪水などで海に流れ出し、浜に打ち上げられるという。観光客でも、運さえ良ければ一獲千金ができると耳にした。「これは狙うしかないでしょ」と気負って、尾崎さんに翡翠を見つけるこつを聞いた。

 「翡翠は他の石より比重が重いのが特徴。海に背を向け、打ち寄せる波にも動かない石を探すといいと言う人もいますよ。確証はないですが」

 何事にも動じない立派な石を探すのがこつなんだなと思った。親不知の崖に付けられた遊歩道から浜に降り立つ。翡翠といえば緑色のイメージだが、白色も多いのだとか。「白、しろ、シロ」と口で唱えながら水際をじっと見る。そのうちに、すべての石が翡翠に見えてきた。

 それでも2時間ほど石を見続けていると、キラリと輝く石が見つかり、思わずニヤリ。それも8つも! 市内のフォッサマグナミュージアムで、拾った石が翡翠かどうか鑑定してもらえると聞き、早速、向かった。

 「これは流紋岩ですね。こっちは曹長岩」。私が自信満々にカウンターに並べた石に、学芸員の茨木洋介さん(41)が、石の名前を書いた紙をペタペタと貼り付けていく。8つのうち7つまでが、ただの石だった。

翡翠を拾える海岸。多くの人が、雄大な海ではなく、自分の足元を見ている=糸魚川市で<br />

翡翠を拾える海岸。多くの人が、雄大な海ではなく、自分の足元を見ている=糸魚川市で

 最後に、最も自信のあるピカピカ光る石を、「どうだっ」とばかりに取り出した。「これは石英ですね」と茨木さんの無情な言葉。結局、私が拾った石に翡翠は1つもなく、一獲千金の夢はあっけなく崩れ去った。

 茨木さんによると、「翡翠探しに慣れた人でも1時間に1個見つけられるかどうか。何度も糸魚川に来て、初めて見つけられるものなんです」。

 「これを探すのに2時間かかったんですよ。時間が無駄になったなあ」と嘆くと、茨木さんは「いろいろな岩石があることが分かっただけでも良かったでしょ」と慰めてくれた。岩の王国・糸魚川。また翡翠の夢を見に行こう。
 文・写真 市川真

(2015年8月28日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
糸魚川市へは、JRの在来線と北陸新幹線などを組み合わせ名古屋から約3時間半。
東京からは2時間余り。
車は、北陸道・糸魚川ICから市街地まで約5分。
糸魚川駅から親不知駅までは、えちごトキめき鉄道日本海ひすいラインで12分。

◆問い合わせ
糸魚川市観光案内所=電025(553)1785

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★親不知コミュニティーロード
「日本の道100選」に登録されている風光明媚(めいび)な遊歩道。
北アルプスの最北端に当たり、上高地から歩いてくる人もいるという。
121年前に現地を訪れた「日本近代登山の父」ウォルター・ウェストンの銅像がある。
親不知駅からは徒歩以外の交通手段がないため、糸魚川駅からレンタカーがお勧め。

★フォッサマグナミュージアム
糸魚川市の地形や地質、岩石などを豊富な資料や映像などで紹介している。
さまざまな翡翠も展示。
拾った石が翡翠かどうか学芸員に鑑定してもらいたい場合は、
事前に電話して鑑定が可能かどうか確かめる。
11月まで休館日なし。入館料は一般500円、高校生以下無料。
電025(553)1880

★道の駅・親不知ピアパーク
食堂「レストピア」では、親不知漁港で水揚げされた深海魚・ゲンギョの天ぷらを載せた
「げんぎょ丼」(700円)が味わえる。
淡泊な白身に、濃厚なたれがおいしい。
道の駅の、すぐ前の海岸では翡翠探しもできる。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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