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反アパルトヘイトたどる

反アパルトヘイトたどる 南アフリカ 絶景から見えた「未来」

海岸では野生のダチョウが歩く光景を間近に見ることができる=南アフリカ・喜望峰で

海岸では野生のダチョウが歩く光景を間近に見ることができる=南アフリカ・喜望峰で

 7つの海を支配することはできなくても、大西洋とインド洋の2つの海を同時に見ることはできる。アフリカ最南端の喜望峰に立った・・・はずだった。

 「最南端は喜望峰ではありません。実はここから200キロ先のアガラス岬です」とガイドの佐藤嘉哉(よしや)さん(34)に指摘され、詩人の気分は吹っ飛んだ。傷心の私を慰めるかのようにダチョウが通り過ぎていく。

 かつての世界の海の支配者・大英帝国。その植民地統治は巧妙を極めた。末端の接触はオランダ系白人(アフリカーナー)にまかせ、これが後のアパルトヘイト(白人と非白人との人種隔離)につながっていく。一方で非白人でも従順な者と反抗的な者との扱いに差をつけ、かれらが一致団結しないようにした。

 その象徴的な場所が、ケープタウンから船で40分のロベン島。1994年、初の全人種参加の選挙で大統領に選出されたネルソン・マンデラ氏も、反アパルトヘイト闘争への関与を問われ、この洋上の監獄に20年近く収容されていた。最も警戒を要するとされたマンデラ氏のような囚人は、ガラス越しの面会は月1回。文通も月1回で、手紙は宛名と署名以外、検閲で塗りつぶされることもあったという。

 案内をしてくれた元収容者のントーザさん(60)が床に置かれた毛布を指さす。「赤十字が介入するまで、私たちはこの毛布を床に敷いて寝させられていた」。静かな語り口と鋭い眼光。その姿は、アパルトヘイト撤廃のために闘い抜いたマンデラ氏と重なるように見えた。

 非白人は人口の約9割を占める。重く暗い歴史を抱えるが、彼らは一様に軽快で明るい。帰りの船内、乗組員のアレンさんに操舵(そうだ)室へ招き入れられ日本語で「コンニチハ」。

 舵(かじ)を取るプレンツさんも「雨でも船を出す。海が荒れていたら出ない。(欠航は)だいたい年間、10日くらいかな」。

 ロベン島収容前にマンデラ氏が住んでいたヨハネスブルク近郊のソウェト地区。この地で76年6月16日に発生した「ソウェト蜂起」。アフリカーンス語(アフリカーナーの日常語)の強制履修に、黒人学生たちが反発して発生したとされる抗議行動で当局の銃弾の犠牲になった学生らの遺品、写真などを展示する記念館を訪れる。当時の日本では、そんな出来事があったとしか報道されなかった。「名誉白人」とされた私たち日本人の立ち位置に思いをはせる。

 非白人たちは、その後、報復を考えなかったのだろうか。現地女性と結婚、在住する高遠潔(こうだてきよし)さん(56)は「マンデラ氏が許すと言ったから許すことに決めたのだと知人の黒人女性が言っていた」と静かに語った。蜂起からおよそ40年。マンデラ氏が理想に掲げた全人種の融和を目指す「虹の国」は社会に浸透していた。

テーブルマウンテンからはライオンズヘッドや海、ケープタウンの街並みを眺めることができる=南アフリカ・ケープタウンで

テーブルマウンテンからはライオンズヘッドや海、ケープタウンの街並みを眺めることができる=南アフリカ・ケープタウンで

 ホテルに戻り、昼間のワイン工房で試飲した逸品が忘れられず夕食で再び注文する。一杯また一杯、席を立とうとすると段差につまずいた。

 南アにも社会の至る所に「段差」がある。でも人々はくじけない。マンデラ氏の言葉が勇気を与えてくれるからだ。

 「生きる上での栄光は、転ばないことではなく、転ぶたびに起き上がり続けることにある」

 苦難の先に希望を見続けたからこそ南アの人々は明るいのだろう。

 ケープタウンのテーブルマウンテンからは「未来」という絶景が見えた。

 文・写真 佐藤賢一

(20159月4日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
南アフリカへは日本からの直行便はなく、
香港などで乗り継ぎ、最大都市のヨハネスブルクへ。
香港からはヨハネスブルクへ13時間。

◆問い合わせ
南アフリカ観光局=電03(3478)7601

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マンデラ大統領の巨大銅像

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★モーゼス・マヒダ・スタジアム
2010年の国際サッカー連盟(FIFA)ワールドカップ(W杯)、
日本が1次リーグでオランダに0-1で敗れた地。
競技場をアーチ状にケーブルカーが通り、
最も高い所からバンジージャンプが楽しめる。
強風の日は運行休止。

★ボルダーズビーチ
ケープタウンの市街地と喜望峰の中間にあり、
隣接の海水浴場でケープペンギンを間近に見られる。
途中のホウト湾では遊覧船に乗り、
オットセイの群れを見られるクルーズがある。

★ユニオンビルディング(大統領府)
首都プレトリアにあり、マンデラ大統領の就任時には多くの市民でにぎわった。
現在、マンデラ氏をしのび、巨大銅像が前方にそびえ立っている。

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