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錦帯橋

錦帯橋 山口県岩国市 水に強い構造が醸す美

錦川に架かる全長193メートルの錦帯橋はアーチ形の美しい外観が特徴

錦川に架かる全長193メートルの錦帯橋はアーチ形の美しい外観が特徴

 晴れわたった青空の下、美しい弧を描く橋に向かって幼い子どもが駆けだした。すぐに母親と思われる声が飛ぶ。「走っちゃだめ。危ないでしょう」

 錦帯橋は山口県最大の河川である錦川に架かっている。全長193メートルで、5連のアーチ形の木造橋だ。最初の橋は、1673(延宝元)年、第3代岩国藩主吉川広嘉(きっかわひろよし)によって建設された。が、この橋は翌年5月に洪水で流失してしまい、同年10月末に“2代目”が完成した。長く不落を誇った“2代目”も1950(昭和25)年、キジア台風により流失。53(同28)年に“3代目”ができ、2001~04年にかけて「平成の架け替え事業」が行われ装いを新たにした。

 5連の橋のうち、中の3つの橋には迫持式(せりもちしき)という精巧な木組みの技術が用いられている。アーチ形の橋には支持柱がなく、激しい流水にも耐えられる、約35メートル間隔で設置された巨大な4つの石積橋脚(島)が支えている。洪水に強い橋とするための工夫だが、結果的には際だった構造美を誇る橋となった。その美しさは江戸時代中期以降広く知られ、参勤交代の大名がわざわざ山陽道を外れ錦帯橋を見物してから江戸に向かったという。現在の橋は橋脚が鉄筋コンクリート化されているが、表面に石を張り付けることで往時の姿を保っている。岩国市は世界遺産登録を目指しており、今年4月には「錦帯橋課」を設置した。

吉川英治の小説にちなむ佐々木小次郎像

吉川英治の小説にちなむ佐々木小次郎像

 岩国観光ガイドボランティア協会の二上寛治さん(63)は「昔の殿様は流されない橋を造りたい一心だったんでしょうが、ありがたい観光資源を残してくれたものです」と笑顔で語る。

 左岸側から実際に渡ってみた。中の3つの橋には段差があるのでちょっと戸惑う。階段を上っている感じだ。中央部はなだらかになるが、下り始めるとまた段差が現れるので注意しないとつまずきそう。

 右岸側の川べりに「巌流ゆかりの柳」という表示板があった。巌流といえば、宮本武蔵との決闘で有名な佐々木小次郎の別名。小次郎がここで剣術修行に励んだのかと思い、同行してくれた岩国市観光協会事務局長の米重良治さん(54)に尋ねると「あれは吉川英治の小説『宮本武蔵』にちなんでいるんですよ」と教えてくれた。別の場所にある佐々木小次郎像にも足を運んだ。

 右岸側には吉香(きっこう)公園が広がり、3代藩主広嘉の銅像が立っていた。公園内を進みロープウエーで岩国城へ。岩国城は1608(慶長13)年に完成したが、15(元和元)年には、徳川幕府の一国一城令により廃城となった。現在の城は1962(昭和37)年、錦帯橋付近からの景観を考慮して、元の位置より約50メートル南に復元された。最上階から見下ろすと眼下には蛇行する錦川の清流と錦帯橋、吉香公園、街並みが広がっていた。

1962年に復元された岩国城=いずれも山口県岩国市で

1962年に復元された岩国城=いずれも山口県岩国市で

 旅から戻って、気になって小説『宮本武蔵』をめくってみた。確かに佐々木小次郎の言葉として『周防(すおう)岩国の産です。(中略)錦帯橋の畔(ほとり)へ出て、燕を斬り、柳を斬り、独りで工夫をやっていました』と記載してあった。

 「国民文学とまでいわれた大作家の代表作にここまで書いてあれば地域振興に利用したくなるのも無理はない」と思うと同時に、米重さんが笑いながら言った言葉を思い出した。

 「でもね、武蔵と小次郎の巌流島の戦い=1612(慶長17)年=があったとされるころには、錦帯橋は無かったんですよ」

 文・写真 松田士郎

(2015年9月25日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
岩国市へは山陽新幹線の広島駅で「こだま」に乗り換える。
次が新岩国駅で、駅前でバスに乗れば約15分で錦帯橋に着く。

◆問い合わせ
岩国市観光協会=電0827(41)2037

おすすめ

岩国寿司(ずし)

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岩国のシロヘビ

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★セット券
錦帯橋とロープウエー、岩国城のセット券は大人940円、小学生450円。

★岩国寿司(ずし)
農林水産省の郷土料理百選にも選ばれた、錦糸卵を使った押し寿司。
江戸時代には藩主に献上し喜ばれたといい「殿様寿司」とも呼ばれ、かつては各家庭でもよく作ったという。
店によって味や食材が異なり、佐々木屋小次郎商店では大葉を使ったさっぱりした風味が特徴で、持ち帰りは2個入りで600円。

★吉川史料館
800年もの歴史をもつ吉川家に伝わる歴史資料や美術工芸品など約7000点を収蔵している。
現在は秋展示「吉川氏の明治維新」展を12月23日まで開催中。
国宝「狐ケ崎太刀」は12月1日まで展示している。
入館料は大人500円、高校大学生300円、小中学生200円。

★岩国のシロヘビ
アオダイショウの変種で、国の天然記念物に指定されている。
市から委託された岩国白蛇保存会が飼育、管理している。
ロープウエー山麓駅近くで資料館を建て替え中で、仮設観覧所で見学できる。
入場料は100円(中学生までは無料)。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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