【本文】

  1. トップ
  2. 旅だより
  3. 石炭産業遺産
石炭産業遺産

石炭産業遺産 福岡県 近代化支えた炭鉱の町

宮原坑跡。右が第2竪(たて)坑櫓、左は巻揚機室=福岡県大牟田市で

宮原坑跡。右が第2竪(たて)坑櫓、左は巻揚機室=福岡県大牟田市で

 月が出た出た、月が出た(ヨイヨイ)三池炭坑の上に出た あんまり煙突が高いので-

 炭坑節は福岡県を代表する民謡で人口に膾炙(かいしゃ)し、今でも地元では盆踊りの定番曲となっている。かつては「黒いダイヤ」と呼ばれ、日本の近代化を支えた石炭。列島には北海道から九州まで、「ダイヤ」を求めて数多くの炭坑が掘られ、人が集まり、働いていた。

 国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」。日本の近代工業化の礎となった産業施設を再評価し、19世紀後半から20世紀初頭にかけて発展した8県の23資産で構成されている。

 石炭産業の繁栄と衰退、そして現在を見るため、構成資産のひとつ、福岡県大牟田市の三池炭鉱宮原坑跡を訪ねた。

 福岡市中心部から車で1時間半、のどかな風景の中で、建設途中の鉄塔のような櫓(やぐら)とれんが造りの建物がひときわ目立つ。宮原坑は1898(明治31)年に開坑、現存する最古の鉄製櫓で、強力なポンプを備え、坑内にあふれる水をくみ上げた。宮原坑は近くにあった三池集治監(刑務所)に収容されていた囚人の労働力をあてこんで設立されたという。「囚人たちは1931(昭和6)年の閉坑まで作業にあたりました。地元では『修羅坑』と言われ、怖がられていました」と案内してくれた大牟田市世界遺産登録・文化財室の坂井義哉さん(52)は話す。すぐ脇には、石炭などを運んだ三池炭鉱専用鉄道敷跡が今も残る。

三川坑跡。斜坑口は一部を除き閉じられている。右に見えるのは人車。さびついて、もはや誰も乗ることはない=大牟田市で

三川坑跡。斜坑口は一部を除き閉じられている。右に見えるのは人車。さびついて、もはや誰も乗ることはない=大牟田市で

 大牟田市内にある三川坑跡に向かう。40(昭和15)年開坑。三池炭鉱の主力坑で、第一斜坑は出炭、第二斜坑は鉱員の昇降に使われた。63(昭和38)年11月9日午後3時12分、第一斜坑の坑口から約1600メートル付近で、炭じん爆発が発生、死者458人、戦後最悪の大惨事となった。97(平成9)年に閉坑したが、第二斜坑の坑口や事務所などは現在も残り、見ることができる。

 入昇降口に入り、坑口に足を踏み入れると、坑内に出入りする作業員を乗せた人車がそのまま置かれている。外に長く放置されていたため、車体は茶色にさびついている。壁には「人車とう乗者注意事項」のプレート。「乗車後は安全鎖をかけること」など7項目が記されている。壁時計は8時49分を指したままだ。確かに、ここには人の営みがあったのだ。

華麗な和洋折衷の邸宅と広大な庭園をもつ旧伊藤伝右衛門邸=同県飯塚市で

華麗な和洋折衷の邸宅と広大な庭園をもつ旧伊藤伝右衛門邸=同県飯塚市で

 大牟田を後にして、筑豊炭田をもとに栄えた同県飯塚市に向かった。目的地は旧伊藤伝右衛門邸。石炭事業で一代で財をなし、「炭鉱王」と呼ばれ、歌人柳原白蓮の夫としても有名な伊藤伝右衛門の邸宅だ。壮大な長屋門を抜け、屋敷に入る。案内人の上村雅勇さん(75)の説明を聞きながら、応接室、風呂、食堂、洗面所と見て回った。食堂の大きなテーブルに目が行く。

 「白蓮さんは東京では、朝食にパンを食べていたそうです。でも、ここで働く女性たちはパンを見たことがなく、伝右衛門さんが門司のパン工場から取り寄せていたそうです」とエピソードを教えてくれた。

 2階に上がり、白蓮の部屋に入る。茶室の風情があり、窓から見下ろすと、太鼓橋や池を配した庭園が見える。白蓮もこの景色を眺めながら、東京への未練を鎮めたのだろうか。

忠隈のボタ山。高さ121メートル、3連の山が美しい=福岡県飯塚市で

忠隈のボタ山。高さ121メートル、3連の山が美しい=福岡県飯塚市で

 旅の終わりに、「筑豊富士」と呼ばれ、飯塚市忠隈地区に今もそびえるボタ山を訪ねた。ボタ山とは選炭の際に生じる捨て石(ボタ)を積み上げた山だ。かつては、数多くあったボタ山も、今はほとんど撤去されてしまった。忠隈のボタ山はすっかり樹木に覆われて、稜線(りょうせん)が美しい緑の山となっていた。

 文・写真 古庄英輔

(2015年10月16日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
大牟田市は福岡県の南部に位置し、飯塚市は中部に位置する。
JR大牟田駅までは博多駅から鹿児島線快速で約1時間、飯塚駅まではJR福北ゆたか線快速で40分。
空港や駅でレンタカーを借りると便利。

◆問い合わせ
大牟田観光協会=電0944(52)2212
飯塚観光協会=電0948(22)3511

おすすめ

嘉穂劇場

嘉穂劇場
旧三井港倶楽部(くらぶ)

旧三井港倶楽部(くらぶ)

★旧伊藤伝右衛門邸
伊藤伝右衛門が建てた近代和風住宅。
4つの居住棟と3つの土蔵からなる。
白蓮も約10年間、過ごした。
入場料大人300円、小中学生100円。
原則水曜休館。
電0948(22)9700

★嘉穂劇場
炭鉱労働者の娯楽場として、飯塚市に1931(昭和6)年開場。
江戸歌舞伎小屋様式の木造2階建て。
升席と2本の花道、人力で動かす廻(まわ)り舞台を備える。
国の登録有形文化財。
公演のない日は奈落や舞台、客席などを見学できる。
見学料大人300円、小学生100円。
電0948(22)0266

★旧三井港倶楽部(くらぶ)
三川坑跡に隣接。
1908(明治41)年、三池港の開港と同時に開館。
優美な洋風建築で、外国高級船員の宿泊や接待、政財界人の社交場として利用された。
現在は総合結婚式場、レストランとして営業している。
電0944(51)3710

歴史・文化の宿泊情報

一覧

    現在この情報はありません。

歴史・文化のツアー情報

一覧

    現在この情報はありません。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

旅コラム
国内
海外