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千畳敷カール

千畳敷カール 長野県 稜線に降り注ぐ星々

千畳敷カールから眺める中央アルプスの稜線の上に、無数の星が輝く

千畳敷カールから眺める中央アルプスの稜線の上に、無数の星が輝く

 「皆さんを『天の川下り』にご案内します」。説明役の日岐(ひき)敏明さん(58)の声が響く。「あれが『こと座』のベガで…」。小学校で社会科を教える傍ら天文学会に属して星の研究を続ける日岐さんが、聞き慣れた星座を次々と指し示してくれる。しかし、満天に散らばる星の数があまりに多すぎ、星と星を結び付けて星座を認識するのは、素人には至難の業だ。

 1960年代に空気の薄汚れた東京の郊外で幼年時代を過ごした記者の記憶では、夕方から空を見上げて「一番星、二番星…」と数えても、せいぜい2桁か3桁どまり。今、目の前に広がる星空には、それより何桁多い星がきらめいているのだろう。四半世紀前に山登りを始めてから、各地の山へ泊まるたびに満天の星に感動してきたが、果たしてこれほどの星を一度に目にしたことがあったかどうか。夕方まで辺りを覆っていた雲が急に晴れたのは、運がよかったとしか言いようがない。

 中央アルプスの稜線(りょうせん)直下に広がる「千畳敷カール」(長野県駒ケ根市)で今秋、地元の観光協会などが「試験的」に実施した星空観察会。標高約2600メートルの千畳敷にある「剣ケ池」のほとりで、ビニールシートの上にあおむけになって空を眺める人や、三脚にカメラをセットして撮影に余念のない人たちも。

ハイカーでにぎわう千畳敷カール。稜線中央右寄りのとがったピークが宝剣岳

ハイカーでにぎわう千畳敷カール。稜線中央右寄りのとがったピークが宝剣岳

 「周りに明かりがなく、ちりやほこりが少なくて空気の透明度が高いのが、星空観察に最適です」と日岐さん。参加者の一人、駒ケ根市の小松原京子さん(55)は「星がとても近くにある感じがしました」。

 カール(圏谷)は、約2万年前の氷河期の氷で削り取られたおわん形の地形のこと。最近の研究で日本でも北アルプスに氷河が現存することがわかってきたが、ここも貴重な氷河地形であることに変わりはない。

 千畳敷の西には、標高3000メートル近い峨々(がが)たる山稜が黒々と連なる。だが、昼間に眺めると、白い花こう岩の岩肌とハイマツなどの緑がまだらになって美しい。

 雪のない夏なら、稜線へは1時間程度で登れる。千畳敷まで駒ケ岳ロープウェイで上がれるため、そのまま軽装で登山をしようとする人を見かけるが、高山はしばしば天気が急変する。登山用の防寒具は必携だ。季節によってチシマギキョウやトウヤクリンドウの花が見られる登山道も、砕かれた岩を詰めた蛇籠が連なる急登で滑りやすく、しっかりした登山靴を履いてほしい。雪が降れば当然ながら雪山登山の装備や訓練が必要なので、無謀な山登りは慎みたい。

しばしば霧に包まれる稜線=いずれも長野県駒ケ根市で

しばしば霧に包まれる稜線=いずれも長野県駒ケ根市で

 千畳敷から山稜を眺めるだけでも、十二分に3000メートル級の高山の趣を味わえる。ここには数年に一度、白い花のコバイケイソウの大群落も出現する。間近に迫るひときわとがった岩峰は宝剣岳(2,931メートル)。登山の初心者だったころ、山頂への途中に眼下が数百メートルすぱっと切れ落ちた岩壁で鎖を頼りに横断しながら足が震えたのを思い出す。反対に東側は、伊那谷を挟んで甲斐駒ケ岳などの南アルプスの山々や富士山が見渡せる。

 剣ケ池のほとりで、名古屋市から日帰りで家族と来たという神谷徹也さん(43)と出会った。「もう3回目です。ここは何回来てもいい。でも、今度は夜の星空を見てみたい」

 駒ケ根市や駒ケ根観光協会は来春以降、星空観察会を本格的に始める考えで、実施方法の検討を進めている。

 文・写真 嶋田昭浩

(2015年10月30日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
駒ケ根市へは、新宿または名古屋からJR中央線で岡谷まで。
飯田線に乗り換え駒ケ根下車。バスで約45分でしらび平。
駒ケ岳ロープウェイに乗り約7分半で千畳敷へ。
このロープウエーは日本で最も標高の高い所にあり、通年運行。
混雑時は待ち時間がかかるので注意。

◆問い合わせ
駒ケ根観光協会=電0265(81)7700。
来年の星空観察の日程もこちらへ。

おすすめ

駒ケ根ソースかつ丼

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本坊酒造信州マルス蒸留所(長野県宮田村)

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★駒ケ根ソースかつ丼
ご飯の上に千切りキャベツを敷き、「秘伝のソース」にくぐらせたかつを載せた名物。
昭和の初めから地元で提供されていたという。
オレンジ色ののぼりが出ている飲食店で食べられる。
駒ケ岳ロープウェイ千畳敷駅に隣接したホテル千畳敷では1200円。

★本坊酒造信州マルス蒸留所(長野県宮田村)
ウイスキーと地ビールの工場を見学でき、ポットスチル(蒸留釜)も間近で見られる。
駒ケ根駅からタクシーで約10分。
電0265(85)4633。

★光前寺(こうぜんじ)
天台宗別格本山。約700年前に静岡県で「怪物退治」をしたという「霊犬早太郎(はやたろう)」伝説で知られる。
参道に続く石垣の石と石の間にはヒカリゴケが自生。
ただし、見られるのは4月中旬から10月下旬までで、他の期間は寒さで冬枯れになるという。
駒ケ根駅からバスで約15分。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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