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平戸・佐世保

平戸・佐世保 長崎県 教会 悲劇の記憶紡ぐ

世界遺産登録候補の田平天主堂。赤黒いれんがは労働奉仕の信者らが積み上げた=長崎県平戸市で

世界遺産登録候補の田平天主堂。赤黒いれんがは労働奉仕の信者らが積み上げた=長崎県平戸市で

 「聖地」は秘めた信仰と殉教の歴史を紡いでいる。

 新たな世界遺産の誕生を目前に控えている長崎県。平戸市や佐世保市など5市2町と、熊本県天草市にまたがる「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」は今夏、ユネスコの審査を受ける遺産登録候補だ。

 1549年に日本にたどり着きキリスト教を伝えたフランシスコ・ザビエルが、長崎で布教を始めたのはその翌年。第一歩が「聖地」平戸だった。

 遺産の構成資産の一つ「田平天主堂」は平戸島を眼前に望む「平戸瀬戸」を見下ろす高台に立つ、れんが造りの教会だ。建設から約1世紀。すすが塗られ赤黒いれんがは、当時、労働奉仕の信者たちが一つ一つ積み上げたそうだ。訪れた日は大粒の雨。れんがをたたく雨音だけが響く教会の正面に立つ。静寂に引き立てられた荘厳なたたずまいに、心がすっと静まっていく。

 扉を開き、中に足を踏み入れた。「身廊(しんろう)」とよばれる赤い中央通路が祭壇にまっすぐ延びる。ほのかな明かりに照らされた祭壇。周囲に巡らされたステンドグラス。凜(りん)とした神聖な空気に、思わず息をのんだ。

 「信仰は文化。それを絶やさないためにも遺産登録は重要な意味があると思います」。平戸市役所舘浦出張所の船原正司さん(53)はこう期待を込める。

 江戸時代、幕府は「禁教令」でキリスト教を禁じた。その間、キリスト教徒たちは仏教に改宗したとみせかけ、偽装棄教することで、激しい弾圧を逃れ信仰を守ってきた。「潜伏キリシタン」と定義されるこうした信者の一部は、明治時代を迎え禁教令が解かれた後も「潜伏」の信仰形態を貫き、「カクレキリシタン」と呼ばれるようになった。

 船原さんには特別な思いがある。船原さんはカクレキリシタンの子孫にあたる。そして自身もその敬虔(けいけん)な信者だからだ。カクレキリシタンを過去のことと思っていた記者自身の不勉強を恥じながら、船原さんの言葉の重みをかみしめた。

殉教者の悲話が語り継がれる中江ノ島。洗礼などに使用する水はこの島で採取されるという=長崎県平戸市で

殉教者の悲話が語り継がれる中江ノ島。洗礼などに使用する水はこの島で採取されるという=長崎県平戸市で

 潜伏キリシタンの歴史は殉教の歴史と重なる。江戸幕府による迫害は激しさを極め、多くの信者や宣教師が極刑に処された。平戸島の北に浮かぶ「中江ノ島」も悲話はつきない。今でもカクレキリシタンが聖地と崇拝する無人島で、洗礼などに用いる聖水はこの島で集められるそうだ。中江ノ島も遺産構成資産の一つだ。

ロマネスク様式が美しい黒島天主堂。1998年に国の重要文化財に指定されている=長崎県佐世保市で

ロマネスク様式が美しい黒島天主堂。1998年に国の重要文化財に指定されている=長崎県佐世保市で

 平戸市に隣接する佐世保市の西に広がる九十九島の一つ「黒島」へ渡るため、佐世保からフェリーで1時間。黒島は江戸時代後期、厳しい生活を強いられた潜伏キリシタンらが新天地を求めて入植した地。面積は4平方キロメートルほどの小島だが、島民の8割がカクレキリシタンだ。

 島の中心にある「黒島天主堂」を案内してくれた大村正義さん(76)もカクレキリシタンの一人。「子どものころは教会の廊下を走り回って、神父さまに怒られたものだ」と懐かしむ。

 カクレキリシタンは今、信者の減少に直面している。大村さんは「長崎のキリスト教文化の明るい兆しになってほしい」と登録を待ちわびる。

JR佐世保駅近くの三浦町教会。旅の終わりに大きな虹がかかった=長崎県佐世保市で

JR佐世保駅近くの三浦町教会。旅の終わりに大きな虹がかかった=長崎県佐世保市で

 旅の終わり、丸2日降り続いた雨がやみ、薄日が差しだした。帰路の途中、JR佐世保駅近くの「三浦町教会」の上に、大きな虹がかかった。教会の街・長崎の空に、ステンドグラスが描かれた。
 文・写真 武田雄介

(2016年1月29日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
平戸島へは長崎空港から車で約1時間半。
街の中心部には、オランダとの交流の歴史を今に伝える史跡も点在する。

◆問い合わせ
見どころや宿泊施設の案内は、平戸市観光案内所=電0950(22)2015

おすすめ

平戸ちゃんぽん

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佐世保バーガー

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★平戸ちゃんぽん
野菜をふんだんに使った大衆食。
長崎ちゃんぽんよりも太麺なのが特徴。
森藤食堂=電0950(22)2343=は創業約90年。
市内のちゃんぽん店のほとんどが、森藤の自家製麺を使っているという老舗だ。
1杯700円。

★SASEBOクルーズバス「海風」
世界に1台のオリジナルバスで佐世保市内を周遊。
60~90分の3プログラムを1日4便運行する。
「赤レンガ倉庫群」などの史跡をはじめ、「外国人バー」「とんねる横町」など立ち寄り先も充実。
申し込みは佐世保観光情報センター=電0956(22)6630

★佐世保バーガー
戦後の米軍進駐を機に生まれたとされるご当地ハンバーガー。
市独自の認定制度を導入し、地産地消などの項目で審査に合格した店舗が認定店になる。
作り置きをせず、注文を受けてから手作りするのが特徴。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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